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デッドゾーン

終末の中で

私は、希望を抱きしめている。

手が震えている。

電波が……死んだ。


今、私の手に残っているのは、ただのテクノロジーの塊――携帯電話だけ。


奇跡を願って発信してみたけれど、もちろん、反応はない。


彼女は……出ない。


そりゃ、そうだよね。

電気なんて、もう昔の話。

星がきれいに見えるようになって、数日前からは空から火の玉が落ちてくる。

あれは、きっと衛星だ。


こうなるって分かってた。分かってたのに、無視してた。

まさか、って思いたくて。

起きるわけない、って思いたくて。

でも、起きた。


すべては終わる。

それでも人は、最後の最後まで人間らしく希望を手放さない。


だから、私は歩きながらも、何度も発信を繰り返してる。

ただ、希望だけで。


私は昔から現実主義だった。

人生に期待もなくて、冷めた人間だった。


でも、今は違う。

心の中に燃えるような炎がある――それが「愛」と呼ばれるもの。


そして、人は愛によって変わる。


私も、変わった。

過去の自分を思い出すと、あんなに暗かったんだって驚く。

今の自分を見ると、こんなにも生きてるんだって驚く。


だから希望を持ってる。

たどり着きたい。

彼女に出てほしい。

彼女の何かを感じたい。

そして、会いたい。


それを思うだけで心臓がバクバクする。

不安が毒蛇のように体を這い上がってくる。


どうしてこんなに緊張してるの?

どうして、怖いの?


彼女が、この世界でただ一人の存在だから?

何か、起きてしまったんじゃないかって恐れてるから?

わからない……。


気づいたら地面を見てて、膝をついて過呼吸になってた。

少し落ち着いて、唾を飲み込んで、また歩き出す。


怖いよ。わかってる。

パニックだって。わかってる。


また携帯を見た。

何が表示されるか分かってるけど、希望の火が消せなくて。


――圏外。


携帯をぎゅっと握りしめた。

投げたかったけど、まだ希望があるから……しまった。


深呼吸をして、できることをした。

――歩くこと。


心臓の鼓動は止まらない。

不安は、ずっと隣を歩いてる。


もうすぐだ。

いや、もう街に入ってる。


家の壁にもたれかかる。

でも、なぜか嬉しくない。


また携帯を確認した。

この数時間で、私はマゾになったみたい。


――何もない。

……投げた。


頭を抱えて、身体を小さく丸めた。

気分が悪い。

こんなにも彼女の声がないことが辛いなんて、思わなかった。


私、そんなに依存してたんだ……?


泣きたい。いや、泣いてる。


こんなに近くまで来て、泣いてる。

どこにあるの、幸せって?

昔みたいに、どうして世界は笑ってくれないの?

どうして……。


どうして手が震えてるの?


休まなきゃ。

解決にはならないかもしれないけど、今日はずっと歩いてた。


夕焼けがオレンジ色に染まっている。

秋のような色――でも、今は春なのに。


廃墟になった家に入った。

ベッドをできる限り綺麗にして、横になった。


リラックスなんて無理だ。

楽しいことを考えようとしても、頭には何も浮かばない。


何か、いいこと……。

もうすぐ、彼女に会えるんだって……。

春は最後の花を咲かせた。

夏がそれを拾い上げた。

彼女が戻ると知りながら。


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