弱い電波
世界の終わりで
旅人はついに辿り着こうとしている
電波が、途切れ始めた――
最近、あまり話せていない。最後にもらったのは彼女の住所だけ。「もし連絡が途絶えたら…」と言って。
その言葉が怖かった。前は「また後で話せる」と思ってたから平気だったけど、今は違う。たぶん、もう衛星が機能しなくなってきてる。時間の問題だった。
私の携帯も、電波が弱くなってきた。
それがすごく不安で、怖くて、嫌で…もう全部、最悪って感じ。
でも、進まなきゃいけない。旅の終わりが近づいてる。きっと、何かトラブルはあると思ってた。
人生って、そういうものだと思う。悲しみと幸せ、安全と不安、静けさと混乱――全部が交互にやってくる。
しかも一度始まったら、途中で降りられない。いつ上るのか、いつ落ちるのかもわからない。
…それって、すごく不思議で、すごく怖い。
携帯を見たけど、電波はなし。メッセージも通話もない。ここには、私と、この携帯だけ。
画面に映った自分の顔。世界の終わりに立つ、一人の女の子。今は、ちょうど上ってる最中かもしれない。これから落ちるのかな? わからない。
でも、たぶん…そう。今は頂上。怖くて、落ちたくないって思う場所。だけど、落ちるって知ってる。
だったら、上る間は楽しんで、落ちる時は覚悟するしかない。落ちる瞬間こそ、生きてるって感じることもある。
問題は、避けられない。だから、向き合うしかない。そして、それを乗り越えた時、人は「息ができる」。
だから私は進む。「仕方ないから」でもあるけど、「息をするため」にもある。
「やった」って言うために。私はやり遂げる。みんな、きっとそう。乗り越えて、生き延びて、泣いて、笑って――
私たちは、生きてる。
それだけで十分。それがすべて。
携帯はまだ圏外のまま。もう、あの声は聞けないかもしれない。
でも、あと少し。たぶん一日か二日。
本当にたくさん歩いた。昔、夢見た「世界を広げる」って、まさかこうなるとは思わなかった。
でも、後悔はしてない。これが、私の人生で一番良い選択だったと思う。
そして、ある意味で、最初の「自分の選択」だった。前は、ただのルーチン。その次は孤独。今は…目標。
その時、携帯が鳴った。すぐに出た。
「……ラ?」雑音だらけの中、かすかに彼女の声が聞こえた。
「もしもしっ!」思わず叫んだ。
でも、返事はなくて、通話は切れた。
嫌な予感がした。表情に出てるのがわかった。私は悲しい顔をしてた。
深く息を吸って、携帯を見た。また圏外だった。
進むしかない。彼女の声をもう一度聞くには、会いに行くしかない。
だから、また走り出した。
胸の奥で、何かがちくりと痛んだ。不安が、棘のように刺さってきた――
不安という名の棘が。
私の足音だけが、世界に残っていた
届かぬ声、答えのない通話
それでも、私は走る
あなたの声を、ただ恋しくて