表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

廃墟の中の声

約束のもとに旅人は歩き続ける

約束のもとに、壊れた世界が色を取り戻す

「昨日、車の運転を覚えようとしたんだ……」

私は缶を持ち上げて、中身を確認しながら言った。


「車ってまだ動くの?」

彼女は本当に不思議そうに聞いてきた。


「いくつかはね。でも『覚えようとした』だけ。ここにあるのは全部動かないし、鍵がないと始動もできないし」

私は缶をリュックにしまいながら答えた。今日は夕食にフルーツがある……。


「てっきり、本格的な車泥棒かと思ってた」

彼女がくすっと笑い、私もつられて少し笑った。


「ううん、物心ついた時からずっと歩いてるよ。仕事場も徒歩1時間だったし」

そう言った時、私は少し誇らしげだった。


「徒歩!?仕事まで歩いてたの!?」

彼女がソファか何かから飛び上がったように感じた。あまりの叫び声に、私は一瞬スマホを耳から離した。


「そんなに珍しい?」

なんとなく、職場の人たちも驚いていた気がする。


「だってさ、電車もあるし、車もあるし……自転車だってあるのに、歩く?」

彼女の声には、本当に驚きがこもっていた。


「じゃあ、自転車探して掃除して、タイヤ直して、あなたに会いに行くよ」

私は冗談っぽく言った。


「……会いに?」

彼女が返した。


「えへへ、冗談だよ」

私は笑いながら言った。


「ほんと?……でも、私……全然嫌じゃない。むしろ、すっごく会ってみたい!」

……その声に、少しだけ感情が乗っていた気がする。


私は立ち止まって空を見上げた。雲が静かに流れている。曇りでも快晴でもない空。


行き先なんてなかった。ただ足の向くままに歩いてた。でも、目的ができるって、悪くないかも……。


「私も、会いたいな」

私はそう答えた。


自転車も何もないけれど、彼女が住んでる場所を聞いた瞬間、私の足取りは少し軽くなった。


「それで、いつ着くの?」

彼女が聞いてきた。どこか、恥ずかしがっているような……迷ってるような……もしかして、本気にしてない?


「なんで?」

私は少し気になって聞き返した。……この気持ちは、何?


「だって、家を掃除しないといけないし、ご飯どうしようとか……あ、音楽も準備しないと!干し肉ならあるけど、それでいい?」

彼女の声には、ちょっとした冗談っぽさがあった。私はまた笑った。心がほっとした。


「うーん、たぶん一週間くらいかな……」


そのあとも少し話して、電波が悪くて通話は切れたけど、心はどんどん温かくなっていった。


目的があると、世界は変わる。

今、私は初めて“進みたい”と思った。ただの必要からじゃなくて、“本当に”進みたいから。


私はふと、思い出した歌を口ずさんだ。

携帯をソーラーチャージャーにつないで、歩き始めた。


雲はまだ流れていて、太陽が私の肌をやさしく撫で、風が静かに吹いていた。今日の長い歩き旅を、少しずつ涼しくしてくれそうだった。


私は迷わず進んだ。

彼女と会えるその日を、想像しながら。


永遠の約束のもとで

風はそっと撫でる

私たちの命は しがみつく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ