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旅の終わり

旅人は、ついに辿り着いた――

ずっと夢見た、その場所へ。

でも、そこに待っていたのは……

もうすぐだった。けれど、その道のりは永遠に感じた――


心臓は激しく打ち、神経が刃のように体を刺していた。呼吸も荒くなる。


ある瞬間、私は興奮のあまり小さく跳ねてしまった。


行きたくない、そう思った。でも、それはきっと良いこと。緊張も、期待も、すべてが生きている証だった。


私は立ち止まり、そっと両頬を叩く。深呼吸を何度もして、再び歩き出した。


通りに出た。歩いた。でも……何もなかった。


住所は合っているはずだった。家も――白い二階建ての家。確かにそう言っていた。隣の崩れかけた家も一致している。


でも、中は空っぽだった。時間に蝕まれたような、古びた空間。


何が……起きたの?


アドレナリンが別の色に変わった。心臓も、思考も――恐怖に塗り替えられていく。


恐怖。それは何かが「起きた」証。


家に入った。中はすべて古く、長いこと誰もいなかったようだった。


ポータブルのレコードプレイヤー、モーツァルトのレコード、開けたままのパンケーキ粉、干し肉。


……何が、起きたの?


ソファに腰を下ろし、クマのぬいぐるみを見つめた。まるで答えてくれるように。でも、もちろんそんなことはない。ただ、答えが欲しかった。


彼女はどこにいるの? 本当に……何があったの?


部屋を見渡す。すべてがそこにあった。でも、すべてが古くなっていた。少なくとも数ヶ月は経っている。


缶詰は未開封。ベッドも整っていた。


誰かが、確かにここにいた。彼女が、ここにいた。


――いつ? そう、いつだったの?


どこにいるの? 何が? いつ?


誰か……教えてよ。お願い……


どこにいるの……?


私は床に座り込んだ。


脳が思考を拒絶している。認めたくない。理解したくない。ただ、彼女がどこにいるのか、それだけを知りたい。


ソファにもたれた。床に座ったまま。


スマホを確認する。通話履歴は消えていた。「好きだよ」のメッセージもない。どんなメッセージも……何一つ。


じゃあ、私は誰と話してたの?


本当に誰かと話していたの? それとも、ただの幻だった?


……違う。彼女は現実にいた。だって、この場所、すべてが彼女の言った通りだったから。


――だからこそ、問いたい。何があったの……?


家中を探した。でも、何の手がかりもなかった。靴は玄関にあった。家具もそのまま。だけど、すべてが埃まみれで、時間が止まっていた。


私は外に出た。間違った家かもしれない、そう思いたかった。もしそうなら、笑い話になる。でも、同じ家なんてなかった。また戻るしかなかった。


答えのないまま、家に戻った。


ただ、座って、考えて、想って、彼女が来るのを待っていた。


でも、もちろん――来なかった。


何を考えればいいの? 考えたくない。彼女がいてほしいだけ。


でも、現実は残酷で、ここには誰もいない。


それだけが残った疑問。そして、心はぼろぼろだった。泣きたくない。希望はある。だからこそ――


その時、スマホが鳴った。


孤独な家の中で

無数の物語が語られる

けれど、探していた物語は――なかった

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