言えなかったこと
世界の終わりにて、
旅人は過去の自分と語り合う。
ちゃんと考えてみようと決めた。心を落ち着けて、吐き出して、本当は言いたかったことを言おうと思った。
愛する人の前で言うべきだって、普通はそう思う。でも、いいことも悪いこともずっと胸にしまっていたら、いつか自分を壊してしまう。
割れた鏡の前を通って、自分を見た。過去の自分を。
そして、泣いた――
自分自身と話したい。自分に、ここまで来たことを伝えたい。
「生きられない」「愛せない」そう思っていたあの子が、今、生きて、愛しているって。
世界が終わって、やっと「感じる」ということが分かった。
一言ひとこと、自分に語りかけるたびに、心が軽くなった。
あの子に「好き」と言いたい……声だけの、あの子に。
でもその前に、自分にこう言いたい――「好きだよ」って。
「自分が好き」……その言葉に、涙が頬を伝った。
彼女を見つけるための旅だったけど、それと同時に、自分自身を見つける旅でもあった。
過去の私は、世界を映す鏡じゃなく、自分の魂を描いた絵画だった。
暗くて、シュールな、"人間"の絵だった。でも今、この廃墟の世界にも色がある。
彼女が絵の具をくれて、私はそれで描いた。
壊れていたのは、世界じゃなくて、私だった。――だった、なんて、美しい言葉。
それが、私の苦しみだった。自分を愛せないまま、どうやって他人に「愛してる」なんて言えるの?
泣くべきだけ泣いた。言うべきことも全部言った。
外では、世界が少しずつ色を取り戻していた。家を出て、歩道に腰かけて、昨日から何も食べてなかったことを思い出し、何かを口に入れた。
そのまま、ゆっくりと近所を歩いた。嬉しくも悲しくもなかった。ただ、「満ちていた」。
もう、泣きたくなかった。手も震えていない。私はまた、"私"に戻っていた――目標を持つ女の子に。
彼女に会いたい。その気持ちは変わらない。でも今の私は、自信がある。何を言えばいいのか分かるし、偽りじゃない「私」でいられる。
少しだけ寄り道をして、花を探すことにした。この荒れ果てた世界でも、花は簡単に見つかる。思ったより早く見つけて、いくつか摘んで、一番きれいなものを選んだ。
小さな花束を作って、リュックからクマのぬいぐるみを取り出して、テープで花束をクマにくっつけた。
それを見て、ちょっと誇らしくなった。心臓がドキドキしていた。でも今回は、いい意味での緊張だった。
目的地までは、もう少し。笑顔がこぼれて、そのまま、色づいた廃墟の中を歩き出した。
もし、昔の私が今の私を見たら、どう思うだろう。正直、自分でもその面はよく分からない。
今の私は、ちゃんと見てる。見つめ返した。昔の私は、きっと見るだけで、何を思うかは分からないけど……
もう過去のことだ。クマを見た。あんなに嬉しそうな顔をしてた。私も笑って、深呼吸して、覚悟を決めて歩き出した。
私とクマ、あと数本の道を残して――
一人の人が言った――
「愛する人を探している」
もう一人が尋ねた。
「鏡を見たことは?」
「ある。でも、映る人が嫌いなんだ。だからこそ、誰かを愛したいと思った」