ランダムにかけた番号
世界の終わりに
ひとつの声が応えた
そして――沈黙は、やがて温もりへと変わった。
携帯電話が鳴っていた。退屈しのぎに数日間、適当に番号を押していた。まさか繋がるとは思っていなかったので、私は緊張しながら錆びた公園のベンチに腰を下ろした。
鳥の鳴き声に混じって、電子音が弱々しく響く。この公園はもうずっと手入れされていない。
「もしもし?」
心臓がキュッと小さくなり、全身が緊張に包まれた。
声を聞いたのは、一体どれくらいぶりだろう?
「やっほー」
もう一度、声が聞こえた。
「あ、ああ……あの……」
うまく声が出せず、私は間抜けに口ごもった。
耳に届いたのは、私と同じくらいの年頃の、優しい声だった。年齢なんて関係ないけれど、その声だけで心が揺れた。
人に会ったのは、何ヶ月ぶりだろう。いや、正確には会っていない。ただ——声を聞いたのだ。
「君……?」
相手が困惑したように言う。私は喉を整え、大きく深呼吸した。
「はじめまして」
できるだけ落ち着いた声でそう言った。
「わぁ、女の子だったんだ!」
彼女の言葉には、少しの驚きと喜びが混じっていた。きっと、私と同じような状況にいるのだろう。
「うん、私も驚いた。誰かの声を聞いたのは久しぶりで……」
氷が溶けたように、少しだけ心が軽くなる。
「わかる。私も誰にも会ってない。もう何年も経つし……。電話が鳴ったとき、本当にびっくりしたよ」
彼女の声は、なんだか嬉しそうだった。
「そうなんだ、私もただランダムにかけてただけで、繋がるなんて思ってなくて……何を話せばいいのか、わからなくて」
私は照れ笑いを漏らした。
「あー、なるほど……。じゃあ、今いるところってどんな感じ?」
「……壊れてる」
私は答えた。「あちこちに廃墟、草だらけの公園。食べ物を探してたけど、疲れて座っちゃった」
話しながら、私は周囲を見渡す。崩れたビル、伸びた草、錆びた鉄。そして、私自身。
「そっか、こっちも似たようなもんだよ。あ、でもね、昨日、隣の家がついに崩れちゃった。ラッキーなことに、隣人はいないけどね」
彼女の声には冗談めいた調子があった。笑わせようとしたのかもしれない。
「近所に住んでるの?」と私は聞いた。
この世界で、夜になるたびに寝場所を変えている私には、家という概念が少し不思議に感じられた。
「うん、色んなものを集めて自分の家に持ってきたの。それからずっと外には出てない。外、あんまり好きじゃなくて……」
そのとき、彼女が窓を開ける音がした。懐かしさか、あるいは、寂しさか。
突然、通話が不安定になった。電波が弱くなってきたのだろう。
「また……話そうね」
そう、かろうじて聞こえた。
「うん……」
私は微笑みながら、そう答えた。
この物語の第一話を読んでくださり、本当にありがとうございます。
この作品は、長い時間をかけて少しずつ育ててきた大切なプロジェクトです。
こうして皆さまにお届けできることを、心から光栄に思っています。
この小説は、世界の終わりに「声」だけでつながった二人の少女の物語です。
短編ながらも、感情と余韻に満ちた旅路をお届けできるはずです。
どうか、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。