表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

ランダムにかけた番号

世界の終わりに

ひとつの声が応えた

そして――沈黙は、やがて温もりへと変わった。

携帯電話が鳴っていた。退屈しのぎに数日間、適当に番号を押していた。まさか繋がるとは思っていなかったので、私は緊張しながら錆びた公園のベンチに腰を下ろした。


鳥の鳴き声に混じって、電子音が弱々しく響く。この公園はもうずっと手入れされていない。


「もしもし?」


心臓がキュッと小さくなり、全身が緊張に包まれた。


声を聞いたのは、一体どれくらいぶりだろう?


「やっほー」


もう一度、声が聞こえた。


「あ、ああ……あの……」


うまく声が出せず、私は間抜けに口ごもった。


耳に届いたのは、私と同じくらいの年頃の、優しい声だった。年齢なんて関係ないけれど、その声だけで心が揺れた。


人に会ったのは、何ヶ月ぶりだろう。いや、正確には会っていない。ただ——声を聞いたのだ。


「君……?」


相手が困惑したように言う。私は喉を整え、大きく深呼吸した。


「はじめまして」


できるだけ落ち着いた声でそう言った。


「わぁ、女の子だったんだ!」


彼女の言葉には、少しの驚きと喜びが混じっていた。きっと、私と同じような状況にいるのだろう。


「うん、私も驚いた。誰かの声を聞いたのは久しぶりで……」

氷が溶けたように、少しだけ心が軽くなる。


「わかる。私も誰にも会ってない。もう何年も経つし……。電話が鳴ったとき、本当にびっくりしたよ」


彼女の声は、なんだか嬉しそうだった。


「そうなんだ、私もただランダムにかけてただけで、繋がるなんて思ってなくて……何を話せばいいのか、わからなくて」

私は照れ笑いを漏らした。


「あー、なるほど……。じゃあ、今いるところってどんな感じ?」


「……壊れてる」

私は答えた。「あちこちに廃墟、草だらけの公園。食べ物を探してたけど、疲れて座っちゃった」


話しながら、私は周囲を見渡す。崩れたビル、伸びた草、錆びた鉄。そして、私自身。


「そっか、こっちも似たようなもんだよ。あ、でもね、昨日、隣の家がついに崩れちゃった。ラッキーなことに、隣人はいないけどね」


彼女の声には冗談めいた調子があった。笑わせようとしたのかもしれない。


「近所に住んでるの?」と私は聞いた。


この世界で、夜になるたびに寝場所を変えている私には、家という概念が少し不思議に感じられた。


「うん、色んなものを集めて自分の家に持ってきたの。それからずっと外には出てない。外、あんまり好きじゃなくて……」


そのとき、彼女が窓を開ける音がした。懐かしさか、あるいは、寂しさか。


突然、通話が不安定になった。電波が弱くなってきたのだろう。


「また……話そうね」


そう、かろうじて聞こえた。


「うん……」


私は微笑みながら、そう答えた。

この物語の第一話を読んでくださり、本当にありがとうございます。

この作品は、長い時間をかけて少しずつ育ててきた大切なプロジェクトです。

こうして皆さまにお届けできることを、心から光栄に思っています。


この小説は、世界の終わりに「声」だけでつながった二人の少女の物語です。

短編ながらも、感情と余韻に満ちた旅路をお届けできるはずです。

どうか、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ