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【長編版・書籍化準備中】押し付けられた黄金郷~女辺境伯とやらかし王子の結婚~  作者: 頼爾@9/3「冷徹ドS侯爵のスパルタ淑女教育」配信
第四章 我々の敵は魔物に非ず

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8 オフィール

いつもお読みいただきありがとうございます!

 どうしてこんなことになったのだろう。

 土埃と血の臭い。そして激しく何かが燃えたような臭い。


「デライラと……ライナーたちは?」

「宮廷魔法使いを追撃中です」


 私は少し震えながら、爆風によって怪我をしたエストラーダの兵たちに回復魔法を使った。ライラックはどこかへ飛んで行っていない。


「爆発はすごかったのに、こちらの被害が少ないな」

「デライラ様が物資と兵力に差があって怪しいと兵を下げた後でしたから」

「もしこれに直接巻き込まれていたら……」


 想像してぞっとする。

 血の臭いや国王軍のうめき声で手が余計に震えた。魔物の血の臭いとはまた違う臭いが辺りに立ち込めている。


 血の臭いに吐きそうになりながら、燃えている荷馬車の消火を行っている兵士の方に私はフラフラと近付いた。


「婿殿、危ないですよ」


 相手の大半が怪我をして動けないせいか、サムエルはついてくるが止めることはしない。

 爆発が起きた向こう側にはさらに悲惨な光景が広がっていた。爆発で腕や足など体の一部がなくなった兵士たちを見て、敵だが吐き気がした。


「これは酷い」


 言葉のわりにサムエルの声のトーンは変わらない。


「一度吐くと楽になりますよ」

「サムエルは平気なのか?」

「慣れています」

「なぜ、国王軍は自爆のようなことを……」

「エストラーダの兵力を舐めていなかったのか、敵わないと思ったのか、それとも何か別の思惑が……」


 サムエルの言葉を聞きながら酷い現場に本当に吐きそうだった。

 これは全部私のせいで起きたことなのだろうか。デライラの判断が一瞬でも間違っていたら、ここに転がっていたのはエストラーダの顔なじみの兵士たちだったかもしれない。


 怖い。

 デライラはいつもこんな選択をしていたのか。一度間違えばさっきまで隣にいた者が物言わぬ骸になる。

 そんなこと怖くて、怖くてたまらない。私にはとてもじゃないが決められない。血の臭いも地面に飛んだ赤い色もすべてが怖くて目の前がチカチカした。


 今日だけで敵ではあるが、こんなに死んで傷ついてる。

 私がエストラーダにいるというだけで。いや、きっと私がこの世に存在するだけで。

 私のやっていることは果たして正しいのだろうか。デライラの側にいたいと、夫でいたいと願って図太くここに居座っているのは正しいのだろうか。こんなに他人を傷つけ死なせる価値が私にあるのだろうか。ない、あっていいはずがない。


 屋上でも震えていたのに、ここではもっと足が震える。吐き気までこみあげてきてずっと我慢している状態だ。


 ここまでする価値が私にあるのか?

 デライラにここまでさせる価値が? こんな地獄を彼女に見せるために私はここにいるんじゃないのに。


 視界に一際鮮やかな赤が見えた。

 凄惨な光景とうめき声をものともせず、優雅に羽ばたいてライラックが戻って来たところだった。


 ──そこの奴の鎧をひっぺがせ。


「え?」


 ──いいから、早く。


 私はそばで明らかに死んでいる国王軍の兵士の鎧を剥がそうとしたが、情けなく手が震えてできずに代わりにサムエルがやってくれた。


 ──ちっ。


 ライラックはヒヨコでも不死鳥でもどっちでもいいのだが、なぜか舌打ちをしている。サムエルは何人かの死体の鎧を脱がせていた。どの鎧にも同じ黒い模様がある。


「これは何でしょうか? 国王軍のシンボルでもありませんが」

「見たことがない。それに、後から描いたもののようだ」


 ──それは悪魔に生贄を捧げる時に描く魔法陣を略した模様だ。


「……なんだって?」


 ──王都はかなりマズイ状況かもしれない。まぁ、でも聖人が覚醒したんだ。対のものも出現しないとバランスが取れないか。


 ライラックの声が私の頭の中にだけ響く。意味が分からない説明に私の吐き気は胸のあたりに引っ込んだ。


 急に戦場だった場所にどよめきが起きる。

 馬に乗った人が何人か戻って来るのが見える。紫紺の髪が見えて、デライラが戻ってきたのだと分かった。


 思わずそちらの方向に駆け寄るが、デライラもその後ろのライナーも険しい表情だった。ライナーは宮廷魔法使いだろう人物を縛り上げて一緒に馬に乗せていた。


「デライラ!」


 彼女の頬や腕に血を見つけて、私はさらに距離を詰めた。デライラは馬からおりて、私に応える。


「平気だ。大した怪我じゃない。私の怪我よりも生存者を回復できるか?」

「それはもうやったけど……誰か同行者が怪我を?」

「いや、国王軍の生存者全部だ。死にそうな奴から回復できるか?」


 デライラの表情は険しいままで、敵の生存者に回復魔法をかけろという冗談を言っているわけではないようだ。

 ライナーが宮廷魔法使いをずるずると引きずり下ろす。宮廷魔法使いは口の周りが血だらけですでにボコボコにされていた。


「魔法を使えないように情報を聞き出してから舌は切ってある。こいつが言うには、エストラーダでどちらの軍かは関係なく多数の死者を出すことが目的だったらしい」


 さっきライラックが言っていた悪魔に生贄を捧げるということか?

 それなら、死ななければ生贄にはならない。


「……すぐに回復させる」

「生存者を探せ! 死にそうな者を優先だ!」


 サムエルは率先して動き始めた。


 ──やっぱり、今回も戦争が始まるのか。


 ライラックがまたおかしなことを喋っていたが、私は考える余裕はなかった。

第四章はこれで終わりです。

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