表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【長編版】押し付けられた黄金郷~女辺境伯とやらかし王子の結婚~  作者: 頼爾@11/29「軍人王女の武器商人」発売
第四章 我々の敵は魔物に非ず

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/44

7 デライラ

いつもお読みいただきありがとうございます!

「欠伸が出るほど弱いな」


 魔物の走って行った後を進みながら、私は向かってくる王国軍を何のためらいもなく斬った。

 相手の方が兵力は上のはずなのだが、序盤からこちらが明らかに押している。無理な進軍とろくな休憩もなしに戦闘開始だったのだから、相手にとっては無理もないことだろう。


 ただ、油断はできない。王宮では何人か強い魔法を使える者を宮廷魔法使いとして召し抱えているはずだから。

 魔物の後でこちらが投石器を使った時に風で着地点がずれたため、風魔法を使える者がいるはずだ。


 風魔法ならなんとかなる。

 問題はアステアの第二王子のように火魔法を使う者がいた場合だ。


 もし魔の森が焼けて、いや魔石の鉱脈に近いところが焼けてドラゴンが出現すれば困るのはあちらなのだが、どういう手で来るのか分からない。進軍までしてきているからドラゴンまで出たらあちらの軍だってダメージがあるはずだ。しかし、一度あいつらは魔の森を焼いている。


 だからこそ今回はテオドールを魔の森に配置しているのだが。


 火の玉が急に目の前に現れた。

 まさにちょうど考えていた宮廷魔法使いだろう。


 背丈くらいの火の玉をすぐに剣で斬った。

 魔物の中には火を噴く種類もいるが、この火魔法は魔物にも劣る。もちろん、ドラゴンの火とは比べようもない。


 何度か現れる火玉を斬って、宮廷魔法使いを追いかけて殺した。振り返ってから戦況を確認する。


 視線を戻した先には相手の指揮官らしき姿の男がいた。


「ライナー」


 私は側で騎士たちをまとめて殺していたライナーを呼んだ。


「押し入りすぎた。少しずつ気取られないように軍を引かせろ」

「は? 皆まだピンピンしてんだろ。このまま攻め込めばあと数時間で決着つくだろうが」


 ライナーは戦闘で気が昂っているのか口調が乱暴だ。

 周囲を見回しても皆確かに疲弊はしていない。だが、私の中の何かがおかしいと告げている。


「宮廷魔法使いも相手側にいる。一人は殺したが、どういう手に出るか分からん」

「ビビってんのか? らしくないだろ。相手ははっきり言って弱い」

「相手は魔物ではない。私があの指揮官を相手にしている間に少し皆を引かせろ」

「ちっ、これから楽しくなるって時に!」

「ライナー、いい加減にしろ。進軍してきて休息も取らずすぐに戦闘開始。そして相手の陣の中にまだ余力を残している感じもする。物資量と今前線に出ている騎士たちの数が合わない。少なすぎる。これは何かある」


 ライナーは厳しい表情をしていたが、私の言葉に渋々でも納得したようだ。

 頷いて背を向けて、引き上げるためにうまく敵を誘導し始める。


 それを見送ってから私は指揮官の方に向かった。


「そなたが敵将か?」

「……あなたが竜殺しか」


 指揮官は私の髪色を見て即座に判断したらしく頷いた。


「この状況なら勝敗は決まったも同然だが、気骨のある者がいないようでつまらん。そなた、一騎打ちを望むか?」

「竜殺しと一騎打ちなど恐れ多いが、受けないのは騎士の恥だろう」


 へぇ、魔物を少しけしかけただけで逃げ惑っていた騎士たちはなんとふがいないと思っていたが指揮官はやはり違う。


 何度か剣をぶつけ合ってみても分かる。

 ライナーより弱いが、まぁまぁだ。


 急に私の周囲から音が消えた。

 指揮官の剣を軽く受け流して周囲に視線をやるが、相変わらず戦闘は続いている。しかし、剣同士のこすれる金属音や怒号などは聞こえない。


 指揮官の遥か後ろに宮廷魔法使いの姿が見えた。

 何やらブツブツ口を動かしているから魔法を発動させているのだろう。


 なるほど、風の方向を操って私の周囲からだけ音を消したらしい。

 心外だ。私がたかが耳だけに頼って戦っているなどと思われているのは。


 気配は背中や皮膚でだって感じる。

 背後から飛んできた矢を難なくかわすと、ライナーがうまく自軍を誘導して後ろに下げているのが視界の端に見えた。


「卑怯な手を使うなら、容赦いらんな」

「卑怯だと?」


 私の言葉に反応して指揮官が何か言っているが、口の動きしか分からない。しばらく手加減して相手をしていたが、もういいだろう。

 指揮官の腕に素早く斬りつけて、腹に蹴りを入れる。こいつを人質にしてある程度有利に交渉すればいいだろうか。


 その時にふと異変に気付いた。

 なんだ、あれは。荷馬車か? それにしては馬がいない。


 何かを乗せているのだろう荷馬車のようなものが、風魔法で押されているのかこちらに向かってくる。

 私は一瞬目を細め、さらなる背後に火矢を準備している様子が見えたためすぐに指揮官の襟首を掴んで駆け出した。


「ライナー! 撤退! 撤退だ!」


 馬に乗せて駆け出したところで背後から大きな音が聞こえた。

 あまりに爆発が早すぎる。あれでは国王軍が自爆したようなものではないか?


 振り返った拍子に破片がいくつも頬を掠めた。

 燃え上がる炎の向こうに逃げていく人影が何人か見える。自軍は下げていたので被害はないが、やはり国王軍の被害の方が大きいだろう。


「デライラッ!」

「こいつを捕虜として牢に入れておけ!」


 駆け寄って来たライナーに指揮官を投げるように渡すと、私は先ほどの宮廷魔法使いを追うことに決めた。


「宮廷魔法使いが逃げた! 私はあいつらを追う!」

「一人じゃ危険だ! 俺も行く!」

「じゃあ、さっさとついてこい!」


 ライナーが何人かを呼び、指揮官を捕えておくように指示している。

 兵士のうちの一人が指揮官の鎧を外すと、鎧の内側には見たこともない模様がインクか何かで描かれていた。まじないにしてはなぜか禍々しい雰囲気だった。


 その模様を見て、さらに嫌な感じがした。

 この無茶な進軍。自爆のような戦法。

 私が自軍を下げたから結果的にああなっただけなのか。いや、それでも双方かなりのダメージがあったはず。正直、騎士に爆弾を括りつけて特攻させた方が良かったはずだ。

 それなのになぜこんなやり方を……。こいつらは捨て駒なのか?


「なるべく情報を引き出しておけ! あと魔の森方面に注意しろ!」


 嫌な感じを振り払うように頭を振って、私は逃げた宮廷魔法使いを追跡した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ