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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第73話 幸せの鐘の音

「本当に悪かった」

「い、いえ」


 次の日、しっかりと正気に戻った流星さんの謝罪から私の一日はスタートした。

 昨日の今日で呼び出されなくても研究所に顔を出すつもりでいたのに、わざわざモーニングコールをくれたのだ。この電話がなければあと一時間は寝れたはず。

 念仏のように謝り倒す流星さんに気にしないでください、とは到底言えなかった。私が気にしているからである。

 昨晩はキスの一つや二つに考えを巡らせる余裕なんてなく、疲労が限界を突破していた体は意識を途絶えさせるように眠りについた。まさしく気絶。そして、気づけば朝。早すぎるモーニングコールを受け、私は改めて昨日を思い出した。


「傷も酷かったって聞いてる」

「あ、あー、まあ。でも、助けてもらわなかったらもっと酷いことになってましたし」

「……、それとは違う問題だよ」


 不幸中の幸いは――幸いでもないけれど、昨日のあれは流星さんのご乱心であり、煽情的な触れ合いなどではなく攻撃されたと区分できることだ。変な雰囲気になっても、妙な雰囲気にはならない確信があった。

 あとは私が許容できるかどうかの問題。

 いつまでも続きそうな謝罪に「いつもの時間には研究所に行きますから」ととどめを打てば、普段の流星さんから聞くことができないような唸り声が聞こえてくる。私よりも流星さんの精神面の方が心配だ。


「……、じゃあ後で」

「はい。失礼します」


 流星さんのことだから、思い立ったが吉日よろしく朝一で連絡してくれたのだろう。よい目覚めとは言えないけれど、彼らしい気遣いをもらったとは思う。

 昨日、無人島で起こった大事件の正確な結末を私は知らない。

 主に流星さんのせいで血だらけだった私は間違いなく治療対象で、優先して帰りの船に乗せてもらえたのだ。三鷹さんや発情したガスマスクたちの回収班と入れ替わりで島を離れた。後始末のある流星さんは島に残り、大君とネルちゃんたちはすでに島にはおらず。私は顔見知りの機構員に連れられて研究所に戻ったのだが、すでに控えていた救急車に詰め込まれ、近くの病院に直行した。それから、タクシーに運ばれてあれよあれよという間に自宅に帰ったのである。


「……準備するか」


 カーテン越しでも朝日が眩しい。今日もきっと暑くなる。






 がら空きの電車を継ぎ、都会から離れて大自然へ。すっかり身に染みてしまった研究所へを辿る。本数の少ないバスには私以外の乗客はいない。年配の運転手さんとはすっかり顔なじみだった。


「……、…………」


 バスの窓に頭を寄せる。走行の振動とエンジンの音、緑の濃くなった街路、光り輝く穏やかな海。流れる景色を眺めていると視界がぐにゃりと滲んできた。


 ――どうしてか、本当にどうしてか、今日が最後の出勤日のような気がしていた。私の仕事はまっとうしたのだ。これ以上、ここで自分にできることはない、と。


 誰に見られているわけでもないのにこそこそと目元を拭い、演技のように咳払いをする。研究所に近づくにつれて胸の奥がじりじりと焦げていく。一体、私はどうしてしまったのだろう。

 心のざわつきは美湊海洋生物研究所に着いても落ち着かなかった。立派な施設内を一番奥の研究棟まで真っすぐに突っ切る足は止まらない。止まった瞬間に動けなくなる気がして、勝手に急かされて前に前にと進む。

 流れるように研究室の扉を開いて、いつも通りに「おはようございます」と挨拶した声は初めてここを来訪したときより幾分も堅苦しい響きをしていた。


「おはよう」


 涼やかな声が返ってくる。研究室には流星さんしかいない。正直、気まずいから大君にいて欲しかった。

 私の顔――というか、傷を隠す治療の跡を見た流星さんは分かりやすく顔をしかめて「……人目を集めただろう」と沈んだ調子で私を労った。

 初対面で思いっきりビンタをかましてきた人とは思えない変貌ぶりだ、と妙な感慨深さを覚える。


「怪我の具合は?」

「化膿しなければ大丈夫だと言われました。来週、経過観察に行きます」

「痛みは?」

「痛み止めももらいましたし、平気ですよ」


 自席に座ろうとした私に「話すことがあるから、ソファーに座って」と流星さんは休憩用エリアを指さした。断る意味もなく、言われるがままにソファーに沈むと続けて流星さんが対面に座る。無意識にすっと背筋が伸びた。


「まず、三鷹とアロマナは拘束されて機構の本部に連行された」

「そう、ですか」


 結局、三鷹さんが何を考えているのはさっぱり分からなかった。悪党の考えなんて分からなくていいのかもしれないけれど、もやもやとした不快感は残っている。

 アロマナちゃんはネルちゃんを守りたい一心だっだのだろうけど、彼女の行き過ぎた行為は許されるものじゃない。それだってアロマナちゃんをそういう状況に陥れた三鷹さんが諸悪の根源なのは間違いないが、代わりに子どもだちを差し出す選択は擁護できない。

 アロマナちゃんが私たちに相談しに来てくれていたら、と思わずにはいられなかった。彼女と信頼関係ができていたなら、未然に防げたこともあったはず。


「それから、君のストーカーも三鷹が指示を出していたみたい」

「え?」

「気持ちが弱っている隙なら、どうにでもできると思ったんじゃない?」

「…………そうですか」


 最近知ったばかりの自分の体質にどんな価値があるかなんて知ったことではない。と、大君やネルちゃん、流星さんたちと関わる前の自分ならそう言い切っていたであろう。でも、今は自分のその無関心が誰かの悪意を引き寄せ、大切な誰かを巻き込んでしまうと知っている。


「誘拐犯グループは全員捕まえられたんですか?」

「どちらとも。あの島にいた奴らは全員捕まえたけど、枝分かれした末端グループの一つでしかないだろうね」

「でも、美湊での人魚誘拐はもう起きないんですよね?」

「ああ。こんなに大事になったんだ。もう美湊は漁り場にはならないよ」

「よ、よかった……!」


 残された問題はまだまだあるかもしれない。でも、人魚の誘拐事件はこれで一件落着ということ。これで人魚たちは安心できるだろうし、ネルちゃんの心配事も減って、流星さんの負担も減る。本当によかった。


「そういえば、シア君は? 展望室ですか?」

「いいや。犯人が捕まったし、本人の希望もあったから、昨日のうちに自宅に戻ったよ」

「そうですか! 親御さんもこれで安心ですね!」


 シア君には必ずお礼をしなければ。ネルちゃんに頼んだら連れてきてくれるだろうか。それとも、親御さんたちは子供が海岸に近寄るのは嫌がるかな。

 あの年頃の人魚は何が好きなのだろう。喜ばれるものを贈りたい。彼が助けに来てくれたから、すべてがうまく回ったのだ。本当に感謝してもしきれない。


「あとはネルだけど――」


 流星さんはわざとらしく視線を横に流した。眉間にしわが寄っている。


「しばらく、預かることになった」

「え、じゃあ、ネルちゃんは研究所にいるんですか?」

「怪我が治るまではね。展望室で自由にしてる」

「海に泳ぎに出られないんじゃ、大変そうですね」

「そうでもないんじゃない。大河がつきっきりだし」


 流星さんの表情の理由はそれか。納得。

 大君じゃなくたって、恋人が怪我をしたら世話を焼きたくもなるだろう。甲斐甲斐しい大君を想像して、あまりにも微笑ましくて声に出して笑ってしまった。そして、流星さんにきつめに睨まれた。違うんです、大君を馬鹿にしたわけじゃないんです。


「他に聞きたいことは?」

「……今のところは大丈夫です」

「この件について、何度か聞き取り調査されると思うから協力はよろしくね」

「はい、分かりました」

「じゃあ、大河とネルに顔を見せてきたら? 二人とも君を待ってるよ」

「そうします」


 お言葉に甘えて立ち上がった。ネルちゃんと大君の無事を自分の目で確認したいのはもちろんだけれど、流星さんと二人きりでいるのがまだ気まずかった。

 しかし、こんなに楽しい気持ちで海中展望室に行くのは久しぶりである。重い鉄扉も今日は軽々しく思えた。


「こんにちは!」


 扉を押し開けた先、床板と海との境目に座った大君とネルちゃんがキスをしていた。


「失礼しました」


 すぐに扉を閉め、動揺で爆散しそうな心臓を押さえる。

 そうだ、今はここがネルちゃんの私室みたいなものなのだからノックをすべきだった。絶対にすべきだった。二人に悪いことしてしまった、と頭を抱えて唸る姿は傍目には珍妙な化け物のようだっただろう。

 自分の無作法を責めるようについさっきの光景が脳裏に浮かぶ。何も見てないよ、と言えないのが余計に悪い。

 まるで人魚姫と王子様みたいだった。あの二人は絵になる、なりすぎる。

 どうやって再登場をするべきか、深呼吸しながら考えを巡らせていると展望室の内側から扉が開いた。ぎぎぎ、と蝶番からする音が自分の心臓から出た悲鳴かと錯覚する。


「灯」

「わ」

「悪い」


 何がとは聞くまい。ただ、そもそも恋愛にまつわるあれこれを隠そうともしない大君はあまり気にしていないようで、こういう言い方をするのも失礼だが口先で謝っているだけのようだった。

 緩い雰囲気につられて苦笑いで「こっちもごめん」と謝罪した。私の方は本当に心からのごめんなんだけども。

 そんな大君に先導されて階段を下りきれば、ぱたぱたと尾ひれを遊ばせるネルちゃんが座っている。顔が真っ赤だ。可愛い。そして、申し訳ない。


「ネルちゃん、ごめんね。急に入ってきちゃって。怪我は平気? 痛んだりとか――」

「灯ちゃん」

「うん?」


 ネルちゃんの傍に膝をつき、彼と視線を合わせる。元から肌が白いせいで分かりにくいが、顔色は悪くなさそうだ。

 海面に反射する光を受けた紫の瞳は今まで見てきた何よりも美しい。


「ぎゅってしていい?」

「もちろん」


 ネルちゃんが抱き着きやすいように腕を広げれば、彼はすぐに飛び込んできた。濡れることなんてどうでもよかった。冷たい体を抱き締め返した途端、私の目からぼろぼろと涙が落ちていく。

 無事でよかった。生きていてよかった。

 口は震えていて声は出せなくて、頭の中で何度も同じ言葉を繰り返す。きっと、ネルちゃんも同じだったのだと思う。彼の口からは言葉になり損ねた吐息だけがたどたどしく漏れていた。

 しばらくそのままでいたが、大君が芝居がかった咳払いをしたので、私とネルちゃんは素直に距離を取った。お互いがぐしゃぐしゃの顔をしていて、顔を見合わせて笑ってしまった。


「怪我は大丈夫?」

「ええ。灯ちゃん、いろいろありがとうね。シアのこととか、お姉ちゃんのこととか」

「――ううん」


 私にできたことは多くない。もっと上手くできたこともあったはず。

 いつものことで、心の声が顔に出てしまっていたのか、ネルちゃんはくすくすと控え目に笑いながら「こういうときは、どういたしましてでいいのよォ」と私の顔を覗き込んできた。大君も一緒になって笑っている。

 今年の下半期の目標は、考えていることを顔に出さないに決まりである。


「あのな、灯」


 改まった調子で名前を呼ばれて顔を上げれば、大君は蕩けるように甘い笑みを浮かべていた。


「兄貴が俺とネルのこと、認めてくれたんだ」

「……ぅえ!?」


 今日一でというか、ここ最近で一番信じられないニュースである。

 まさか、あの流星さんが――! 大君の幸せを考えたら、人魚と夢魔の恋愛とか絶対無理! といつだって頑なに拒絶していたあの流星さんが。弟第一主義で救えない過激派でしかないあの流星さんが。一体、彼の身に何があったというのだ。

 驚きに目を剥く私の前で、大君とネルちゃんは声を揃えて私のおかげだと感謝している。いやいや、これについては私は本当に何もしていない。


「おめでとう! 二人ともお幸せにね!」


 とにかく、私が伝えたい言葉はこれである。二人の手をとって力の限りに握り締めれば、二人は同時に飛びかかってきた。熱い抱擁に再び涙が浮かび始める。が、それも一瞬のことだった。

 二人にぶつかられた勢いのまま、私の体は後ろへと傾く。海面の方へと。


「うぶ――」

「灯!?」

「灯ちゃん!?」


 ばしゃん、と派手に散る水しぶき。華麗さの欠片もない入水をした私をネルちゃんが慌てて引き上げてくれた。私の道連れにならなかった大君が慌ててタオルを持ってきてくれる。


「ご、こめんねェ、灯ちゃん」

「悪い。大丈夫か? 着替えとかは?」

「私こそごめん。受け止めきれずで。着替えはロッカーにあるから大丈夫」


 濡れたままでいるのも風邪を引きそうであるし、二人の時間にこれ以上乱入するのもどうかと思い、また後でと簡単に挨拶をして研究室へと戻った。

 びしゃびしゃの痕跡を残してしまっている。あとで掃除しなきゃ。


「戻りました」


 まだソファーに座っていた流星さんはずぶ濡れになって帰ってきた私を見ると、呆れた表情で「この数分でどうしたらそうなるの?」と冷たく吐き捨てた。おっしゃる通りではあるけれど、きっかけがいいことだったからダメージはない。

 流星さんに今すぐ心変わりの真意を聞きたいのに、この状態で駆け寄ることはできない。

 結果、その場で声を張り上げることを選んだ。我慢できなかった。


「流星さん! 大君とネルちゃんのこと――」

「言っておくけど、僕はまだ完全には許してないからね。お互いのためによくないのは確かだ。駄目になりそうならすぐに――」

「嫌なお姑さんみたいなこと言ってると嫌われますよ」


 先ほど心の声を顔に出さないと目標を掲げたばかりだが、私の顔はにやにやを隠し切れていない。

 誘拐事件の解決とともに、こんな幸せなことも起きるなんて。あの可愛らしい友人たちの幸せを想うだけで、私の心も満たされてしまう。


「まったく」


 愛想も尽きたようなため息とともに立ち上がった流星さんは、新たな乾いたタオルを持って私の前までやってきた。水分を吸って重くなったそれと交換して、ぐしゃぐしゃとかき混ぜるように頭を拭かれる。

 よく見積もっても濡れた犬の扱いであるが、雑加減に異議するよりも彼の行動的な優しさに驚いた。流星さんは基本的に優しいけれど、こういう分かりやすい甘やかしをするのは大君相手のときだけなのに。


「紫峰」

「は、はい」

「……展望室での話を覚えてる?」


 私が過去を回想しきるよりも流星さんが続きを口にする方が早かった。


「君のような体質の人間には異保管からスカウトをすることがある。特異体質の有用性を活かして欲しいというのもあるけれど、基本的には保護目的で。なんで保護されるかは身をもって知っただろ?」

「……はい」


 頭にかけられたタオルのせいで流星さんの表情は見えないけれど、声色は酷く柔らかかった。何だか大切にされ過ぎている気がして、どうしようもない気恥ずかしさに襲われる。


「というわけで、これ」

「なんですか?」


 流星さんからすっと差し出されたものを反射で受け取る。白いカード。表面には仰々しい字体で”異人保護管理機構”の文字、その下に私の名前と顔写真が並んでいる。


「君の構員証。試用期間は終わり。今日から正式に異保管の機構員」

「え――」


 ぱっと顔を挙げれば、ずるりとタオルが床に落ちる。それに気を回す余裕はなかった。

 流星さんと構員証とを何度も見比べる。何度見ても、自分の名前。何度見ても、流星さんは慈しむように目を細めて穏やかにこちらを見ている。

 嬉しいことが起こりすぎて感情の振り幅がおかしくなり、どんな感情表現をしていいのか分からなくなっていた。感極まった結果、視界がゆらゆらと歪んでいく。


「……なんで泣くの」

「きょ、今日で、クビになるかと思って、て」

「はあ?」


 言わなくてもいいのに、研究所までくるバスの中で思っていたことをすべて吐き出した。拙い子供の泣き言のようで聞き苦しかったことだろう。

 私の目尻から涙の粒が落ちそうになるたびに、流星さんは丁寧に指で目元を拭ってくれた。優しい。その優しさが染みて新たな涙が滲んでくる。


「紫峰、感情で突っ走るところがあるよね。素直というか愚直というか。じっとしてないし、言うことは聞かないし、危なっかしいし」

「そんなことはない、ような、あるような」

「反省はした方がいい」


 かたちのいい薄い唇が弧を描くのが見え、聞き慣れない笑声が耳に届く。声を出して笑う流星さんは珍しい。

 ぽかんとして流星さんを見上げる私は間抜けだったと思う。そんな私にさらに笑い声を大きくした彼は「別に君が機構員の仕事がしたくないならそれでもよかったんだ。まあ、杞憂だったみたいだけど」とわざとらしく肩をすくめた。


「とにかく、僕の目が届く場所にいてくれればいい」


 底のない深海のような瞳――、ちょっと前まで何を考えているか分からなかったはずのに、今はむしろ目を背けたくなるほど分かりやすかった。


「それなら、僕が守ってあげられる」


 この人はこんなに分かりやすい人だっただろうか――、いや、分かりやすい人だった。大君と大君以外で明確に態度が違って、自分に必要な人と必要がない人でさらに線引きしていた。 


 ――じゃあ、流星さんにとっての私は?


 構員証を持った手が包み込まれるように握られる。海に落ちたせいか、触れる体温がやけに熱い。するりと指先が肌をすべると心臓が撫でられているようで眩暈がした。

 あまりの衝撃に頭の中が真っ白になる。緊張で身体が動かない。ただ、こうされて嫌じゃない自分が何よりも衝撃だった。


「それは、その、ど、どのように受け取れば」

「……さあ?」

「さあ、って」

「隣にいれば、そのうち分かるんじゃない」


 流星さんは目尻を下げて綺麗に笑う。いつだって美しい人だけれど、今の流星さんの表情は誰にも見られたくない。大君にも、ネルちゃんにも。私はおかしくなってしまったのかもしれない。


「そもそも、ちょっとくらい変だと思わなかったの?」

「な、何を……?」

「僕自身に僕の夢魔の誘惑が効いたって、相手を選ぶくらいはするよ。それに自分の能力の不出来のせいで、誰かに借りを作るなんて僕がすると思う? 自分の腕を噛み千切ってでも我慢すると思わない?」


 前者はともかく、後者はそう思う。


「紫峰に怪我させていい理由にはならないけどね。これまでの分も合わせて責任は取るよ」


 頭がいっぱいだし、胸もいっぱいだ。

 もう本当にどうしようもなくて、情けなくもまた泣きだした私を見て、流星さんは堪えきれないように口を開けて笑った。普段の人形のような耽美な表情とは真逆、少年みたいに無邪気で朗らかある。大君とネルちゃん相手ならともかく、流星さん相手に可愛いという感情を抱く日が来るとは思わなかった。

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