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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第69話 青

 少しだけ放心したあとにはっとして「アロマナちゃん」と顔を覆っていた彼女に声をかけた。うんともすんとも言わない彼女の肩は小さく震えていて、彼女の心の内を考えると苦しくなる。

 アロマナちゃんを責めたい気持ちはある。でも、それが何にも生み出さないことも分かっている。動揺して感情的になっては、深みに嵌っていくだけ。

 考えなければ。

 遅かれ早かれ、ネルちゃんはここに来てしまう。遅れて潮木兄弟が来るのも確定していると断言できる。それから、潮木兄弟と一緒に異保管の人間が来ることも想定できる。私で想像つくんだから、三鷹さんもちろん分かっているはず。

 私が誘拐犯なら、先行で来たネルちゃんだけを攫って後続が来る前に撤退する。

 きっと、今すぐにでもここから離れる準備されていると思う。あとは、ネルちゃんをどこで捕らえるか……。

 ネルちゃんはどこに顔を出す? さすがに不用意なことはしないと信じたいけれど、猪突猛進なところがあることは否めない。


「アロマナちゃん」


 再度、声をかければ、今度は返事の代わりに顔を叩かれた。これは完全に嫌われたようだ。ただ、だからと言って黙るわけにはいかなかった。


「この島には詳しい? ここから一番近い水場はどこ?」


 私の視線からは見えないけれど、私たちが見える水場があると思うのだ。そして、そこには罠が仕掛けられている、と。

 入り江で使ったような、異人にだけ効くガスが使われるだろうか? それなら私は動けるし、何か手立てがあるかもしれない。


「……、三鷹が歩いて行った方向に広い水路があるわ」

「あ、ありがとう!」


 ぼそぼそと返された言葉にひとまずは安堵する。

 広い水路なら人魚が泳げるだろうし、きっと、そこに間違いない。

 とりあえず、水辺に近寄ろう。私の姿が遠ければ遠いほど、ネルちゃんは確認に時間を使わなくちゃいけなくなる。

 身体を捩らせ、どうにかこうにか身体を起こす。アロマナちゃんに叩かれた顔は痛いし、縛られた手首と足首も痛いし、土の上に転がされていたせいで体中ばきばきである。


 手首同士を離すように力を加えてみても、隙間すらできそうにない。名前も分からない縛り方の紐に噛みついたところで、切れるようなものでも解けるようなものなかった。


「切れるわけないでしょ」

「でも、やれることやらないと。ネルちゃんを守らなきゃ」


 こうなったら、このまま行くしかない。薄い希望に縋って準備を整えるより、行動するのが最優先である。

 芋虫のように体をくねらせ地面を這う。傍目には滑稽で惨めかもしれないが、私には自分のプライドよりもネルちゃんが大事だった。

 身体が訴える痛みを無視して、ちょっとずつ、ちょっとずつ前に進んでいく。


「……!」


 アロマナちゃんに教えられた水路は、私たちが転がされていた場所からすぐ傍を流れていた。地面より少し低い位置に流れる水路は幅広く深い、流れが速くて水底は見えない。河というよりは陸地が割れているようだ。

 周囲を見回し、緑の中にガスマスクを見つけて身体が震えた。

 私から見えたのは一人だけだが、視線が合っても微動だにしない。こちらを認識していないことはないと思う。動き回る私を捕らえようともしないのだから、私がここまで移動してくるのは許容範囲ということだろうか。


「……」


 胃の底が溶けていくような、肺が潰れてしまうような、身体の芯から膿んでいくような痛みに襲われる。純粋な恐怖。今までは唐突な出来事に右往左往して驚き、焦り、恐れていたけれど、絶対に悪いことが起こると分かった状態に投げ出されるのは初めてだ。

 私にできることは何だろう。どうしたらこの状況を打破できるんだろう。

 答えが出ないまま、身体を蝕む痛みを無視して、水路へと近づく。見ずは澄んでいるけれど、流れが速く、水底をしっかりと見ることはできない。


「……」


 青。

 視界の端、速い流れにできる飛沫と泡の隙間に色が見えた。青。青だ。私はこの色を知っている。

 迷うことはなかった。それしかないと思った。


「っ……!」


 動きの悪い体を知ったし、水路に飛び込む。というか、転げ落ちる。

 水面とぶつかる衝撃に体の節々が軋む。派手な水音が弾け、水しぶきが散った。

 足も手も動かないままでは、足掻くこともできない。しかし身体は水の流れと、私の腕をつかむ小さな手によって、下流へと導かれた。

 苦しい、痛い、怖い。

 私は目を強く瞑り、息を止めて、身を任せるだけだ。

 ぐ、と身体を持ち上げられ、顔が水面から上に上がる。口を開けば、空気が大量に肺に流れ込んできた。

 ――生きてる。


「お姉ちゃん、大丈夫!?」


 咳き込む私の背中を小さな手が擦ってくれる。


「シ、アくん……」


 魚の半身を覆う鱗と同じ色の瞳が、息も絶え絶えな私を映している。

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