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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第68話 天賦の才

「異人なのに分からないんだ?」


 重く低い音が響く。三鷹さんが動いたのだと気づいたときには、彼の足はアロマナちゃんの顔を蹴り飛ばしていた。


「っ!? アロマナちゃん!」

「紫峰さんは人魚の査定ポイントを知っていますか? 顔の造形が整っているかよりも、人魚を人魚をたらしめる下半身の状態に重きが置かれるんです。この程度の怪我で価値は下がりませんよ」

「そんなことどうでもいいです! やめてください!!」


 張り詰めた緊張感をものともせず、くすくすと笑声を漏らす三鷹さんは「あなたと話すのにあれが騒がしいかと思って」と肩をすくめた。誤魔化しもしない悪態。アロマナちゃんを心底から嘲っているようである。

 呻きのたまうアロマナちゃんを私の視界から隠すように、三鷹さんは膝をついた。


「あなた自身はどうですか?」

「え?」

「恵まれた才能について覚えは?」


 私は閉口した。私には何の力もない――、特別のものも、普通のものも。私は人間としての性質が欠けている、と流星さんから聞かされた話に未だ自覚はないが、きっと、三鷹さんが言っているのはそのこと。

 でも、そうして三鷹さんがそれを知っているのだろう。


「考えていることが顔に出るのは紫峰さんの美点であって欠点ですね。ご自分の体質についてはご存じみたいだ」


 三鷹さんは壊れものを扱うようにそれはそれは丁寧な所作で私の顔についた砂やら土やらを払っていく。肌の上を滑っていた親指の腹が右目の下瞼のところで止まる。ぐいと押されて大きく肩が跳ねた。

 実際のところ張りついた土をはがしただけの動作だったのだけれど、私は眼球を潰されると本気で恐れていた。

 きょとんとして「そんなに怯えなくても、傷つけたりしませんよ」と微笑む彼の真意が分からない。


「市場についての知識はありますか? 知っての通り、異人は人間向けの商品になります。特に人魚や鳥人みたいに分かりやすく見目が鮮やかな種族は、観賞用として人気で高値がつくんです」


 情報処理能力はとっくに許容範囲を超えてしまっていて、こんな状況でおかしなことに――いや、もうおかしいかおかしくないかなんて気にしている場合ではないけれど――上手な営業トークだなと感心していた。続きが聞きたくなる、結論が知りたくなる。


「それとは逆のことも言えます。人間が異人向けの商品になる。大河君たちみたいに人間が食事になる夢魔や吸血鬼にはもちろん、生産性もなく虐げる目的のためだけの需要もあります」


 口を挟む隙はなかった。滔々と述べられる異人と人間の関係は異保管が取り締まらなくてはならない話だ。

 耳に届く言葉をどうにか受け取っては混乱に見舞われる。

 昨日まで自分でも知らなかった私の体質のことだけでなく、大君が異人であることもどこで知ったのか。最初から悪意を持って入り江に現れたのか、そもそも悪い仕事のために入り江に現れたのか――。


「そういった需要が存在する以上、供給するための組織が存在するのは自然の理」

「……」

「これはスカウトです」

「は……?」

「俺みたいな仕事をする人間にとって、紫峰さんの才能は喉から手が出るほど欲しい。人魚としか関わっていないあなたには分からないかもしれませんが、異人というものはほとんどが人間を本能で嫌悪するのです。友好的な種族を探す方が手がかかる」


 三鷹さんの瞳はきらきらと輝いていた。欲しいおもちゃを前にした子供のように無垢な煌めき。ぽんと私の肩に置かれた手に込められた期待。


「人間でありながら人間ではないものとして認識されることは天賦の才なんです! ブローカーとして!」


 彼が日本語を話しているのは理解できたけれど、何を言っているのかを瞬時には理解できなかった。遅れに遅れて、異人売買の犯罪集団に誘われているのかと呑み込んだ頃には、三鷹さんは「考えてみてください」とこの場を離れていた。

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