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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第49話 あなたの語る私の人間像

「紫峰はどうして大河と仲良くなれたと思う?」

「え? ……大君をストーカーから守ったからですかね?」


 急な話題転換に首を傾げる私の隣で、流星さんはおもむろにソファーから立ち上がった。それから、白皙の手を私へと差し出す。屋外での活動も多いはずなのに、日焼けとは無縁のようだ。


「……なんですか?」


 コーヒーのおかわりを淹れてくれるのかと思い、手にしていたマグカップを差し出した。カップを取りあげられこそしたものの、テーブルの上の流星さんのカップと並べて置かれただけ。違ったらしい。


「流星さん? ……え?」


 ふらり、揺れる影。ぎしり、軋むソファー。

 流星さんは私の足に跨るようにソファーに膝をついた。体重こそかけられていないけれど、傍から見たら身を寄せ合う男女の体勢でしかない。

 なんで――と、驚く間もなく、顔の両脇に伸びてきた手。ソファーの背もたれを掴んだその手に囲われ、私は身動きもできなくなった。


「――、りゅ、流星さん?」


 もう一度、名前を呼んでみても返事はない。

 近い。近すぎる。目線を上げられない。俯き気味の私の目に見えているのは流星さんの鎖骨で、首筋だけで色気を感じさせる彼にくらくらした。

 中身が悪魔だとしても、異性にこうして迫られれば奇妙な気持ちにもなってしまう。羞恥、緊張、驚愕。というか、流星さんは一体どういうつもりでこんなことを。心臓がどごどごどどどと重低音を奏でている。


「あの、ど、どいてもらえませんか?」

「こっち向いて、紫峰」


 錯覚だろうが、誘う声が甘ったるく聞こえた。

 急な空気の変わりように心が耐えられない。突然の色仕かけは耐性のない私には刺激が強すぎる。

 流星さんの右手は背もたれから離れ、私の頬の輪郭をなぞって滑った。さらりとした指の腹の感触に背筋がぞくぞくと震えた。顎で止まった人差し指がとんとんと優しく叩くように動き、顔を上げることを催促してくる。こういう動作ってどこで覚えるんだろうか。いや、そんなの今はどうでもいいか。やばい、混乱している。


 ――意を決して顔を上げれば、当然に視線が交わった。


「紫峰みたいな人間って本当に損だと思うよ」


 真っ黒の瞳、――深い黒は光の届かない海のようだと思った。綺麗だ。

 貶すような言葉の選びだけれど、彼の態度からして褒められている気がする。


「…………私みたいって。どんな、ですか?」


 声が震えるのも仕方ない。

 深海色の瞳が柔らかく目が細められ、口元は緩やかに弧を描く。直視できない。しかし、顎を固定する流星さんの指が私の視線が外れることを許さなかった。

 近づいてくる端正な顔。反射的にぎゅっと目を瞑れば、こつん、と額同士がぶつかる。

 私は今、何をしているんだ。さっきまで、他愛ない会話を楽しんでいたはずだ。どうしたらこうなる。額から発火したように顔が熱い。


「社交性を失わないままで、心を閉ざしている人。そのうえで、悲劇に甘えず、不安を抱えて、本能を歪めてる。危うい糸の上、動けなくなってそのままじっとしているんだ。自分だけで手一杯なのに他人を放っておけない。善意の行動が当然だと思ってる」


 流星さんの言葉を聞いて、どきどきと忙しかった鼓動が急に大人しくなった。

 彼の語る私の人間像はまったく私に自覚のないものである。しかも、ちょっと癖のある言い方をされて分かりにくい。

 それなのに、それがまさしく自分のことであるという納得がすとんと胸に収まる。精神と肉体の異なる反応にちぐはぐとした違和感があるけれど、どちらも間違いではないと思う。


「でも、紫峰自身の幸せを考えるなら、もっと自分に興味を持った方がいい」

「……私の、幸せ?」

「自分を過小評価しすぎじゃない? ストイックなのは悪いことじゃないけど、君のはネガティブだよ」


 それだけを言うと、流星さんはゆっくりと私から離れていった。

 宵闇の色の瞳が一瞬だけ赤く見える。至近距離で見たからだろうか。テレビの色が映ったのだろうか。

 私は呆然としたままで「流星さん、優しいですね」とうわ言のように呟いていた。ときめきよりも呆然に傾いた頭と心では、単純な感想しか出てこない。

 流星さんは私の言葉を鼻で笑う。いつもの馬鹿にしたような嘲笑ではなく、随分と柔らかい苦笑のようなものだった。


「僕はもう部屋で休むよ。二階の客室は扉が開いてるのが空き部屋だから、キッチンもシャワーも好きなように使って」


 自分のマグカップだけを拾い上げた流星さんは、動けないままの私を置いて行ってしまう。階段に辿り着いたところで「明日は朝一で戻るからね」とこちらを見ずに言い残した。

 それが魔法を解く言葉だったかのように、私の耳にテレビの音が聞こえてくる。ニュース番組は終わっていて、バラエティ番組が始まっていた。外はすっかり夜の色で、豪雨が激しく暴れ続けている。

 力が抜けて、立てそうにない。

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