表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/75

第43話 恋と人魚

「灯ちゃんはここに来るのは初めてよね?」

「うん」

「あの湖も綺麗だけれど、南の浜がとても綺麗なのよォ」


 そう言って、ネルちゃんに案内されたのはそれはそれは美しい浜辺だった。白い砂に寄せる波の色は無色透明で、深くなるにつれて澄んだ水色に染まっていく。船を泊めた北側に相対するように南側は遠浅らしく、海底を見せる水面が先に続いていた。光の加減でエメラルド色にも見え、ネルちゃんの鱗が同化して溶けている。

 悠然とした広い浜の端っこで、私とネルちゃんは身を寄せ合うように並んで座った。

 流星さんは上手くやれているだろうか、シア君はないていないだろうか。

 騒がしいのは頭の中ばかりで、ここでは静かに寄せては返す波の音だけが心地よく耳に届いてくる。


 涼しい海風、耀く海面。西に傾き始めた太陽に照らされるネルちゃんの横顔が目に入り、私は無意識のまま「綺麗だなあ」と呟いていた。偽りない心の声。先ほどシア君がしていたように、慌てて自分の口元を両手で隠した。


「なァに?」

「…………ネルちゃんの顔を見てるだけで幸福感があるなって」

「あら、顔だけかしら?」


 受け取り方次第では失礼すぎる私の言葉にも、ネルちゃんは優しく笑ってくれる。からかうような声がくすぐったい。

 アメジストみたいな瞳が水面に反射する夕日に飾られると、この世のものとは思えない宝玉のようだ。ぞわわと鳥肌が立ち、心臓の奥の方が締めつけられるように痛む。


「ううん。違うよ。お話してるときは楽しい。ネルちゃんって話し上手で聞き上手だから。機構員の仕事に慣れてない私のことたくさんフォローしてくれるし、優しいし、いっぱい気を遣ってくれてるなって分かるし。感謝してる」


 ネルちゃんは万人の理想から生まれた結晶のように思える。私が知る人々の中でも、突出して出来た人間――人魚だ。暴走しがちなところといえば、恋に恋しているところくらいだ。それだって、十八歳らしい感情である。欠点ではない。


「いつもありがとう。ネルちゃん」


 ネルちゃんの問いかけの軽さに対し、私が淡々とした口調だったせいで、ちょっとしんみりとした空気になってしまった。

 夕日の色は感情の深いところを揺さぶる。この自然の前にセンチメンタルな気持ちになっていたことは否めない。

 

「……、灯ちゃんはいつも人のこと褒めてばかりね」


 仕方がなさそうに苦笑交じりで返された言葉はとても静かだ。すぐに波の音にさらわれて消えてしまう。

 私は聖人君子ではないから、嫌な奴には嫌って言うよ。ネルちゃんが褒められてばかりだと思うなら、それは私が彼のことを好意的に思い、尊敬しているからだ。さすがにそこまで正直に告白はできなくて、声もなく曖昧に笑って返事をする。

 ネルちゃんは黙って受け止めてくれた。こういうとことが優しいというのだ。


 ここは本当に私が生きている世界なのだろうか。日常と違い過ぎる。

 静寂に身を任せているいるうちに、ふとクルーザーで流星さんとした会話を思い出して「そうだ、ちょっとご相談に乗ってくれませんか」と伺えば、間髪入れずに「喜んで」と色よい返事をしてくれた。


「実は――」


 そうして、私はここ最近、一番に私を悩ませる存在――三鷹さんのことを相談すべく、言葉を慎重に選びながらネルちゃんに自分の考えを伝えた。どうしても主観になってしまうから、私の言い分が勘違いの嫌な女の発言に聞こえてしまいそうで難しい。

 私が言葉を尽くせば尽くすほど、ネルちゃんの瞳はきらきらと輝いた。


「やだ、灯ちゃんから恋バナされるなんて!」

「いや、恋バナでは……、うん……」


 年相応のはしゃいだ顔だ。甲高い声できゃあきゃあと騒ぐ彼は大層可愛かったが、私としては楽しい話をしている気分ではない。

 うんうんと頷くネルちゃんは「実はね、知ってたの」と突然に爆弾を投げつけてきた。


「……私、ネルちゃんに三鷹さんとのこと話してないよね?」

「ええ。大河ちゃんが」


 ――あの子、本当に口が軽い。

 多分、面白おかしく話したんじゃなくて、私が恋人を作ったらどうしようという相談を紐解いた結果、その震源に辿り着いたのだと思うけれど。


「灯ちゃん、ちょっとでもあの人のこといいと思ってる?」

「うーん、私とはタイプが違うからなんとも」

「それ以前な気がするけどォ」


 鋭いな、ネルちゃん。

 心の奥底の本音はいいとも悪いとも思っていない。ただ、世の中的に見た自分の立場や歪められた恋愛志向、三鷹さんの人間性や私への立ち振る舞い――と、いろいろを加味したとき、私がどういう行動をするのが正解なのかが分からない。

 紆余曲折を経て、高慢なことに、付き合ってみてもいいのではと思い始めているのだ。絆されている。

 付き合ったとして、自分の頑張りは必要だが、普通に幸せになれる気はする。それこそ絵にかいたような恋人に……。


「灯ちゃんってどんな人が好みなの?」

「……、…………、普通の人かなあ」


 普通に幸せ、普通の人――、じゃあ普通ってなんだっていう話なんだけれども。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ