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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第39話 解決ではないの

 驚愕の表情でこちらを窺い、言葉を失っている三鷹さんに「おはようございます」と挨拶をすれば、いつでも愛想がいい彼にしては珍しく上ずった声で「お、おはようございます。なぜ、海から……」と返してくれた。

 全身ずぶ濡れの私に引き気味で挨拶を返してくれた彼に、怒鳴り散らしてしまいたい気分だった。驚かせないでくださいよ、さっきのさっきまで恐怖でどうにかなりそうだったんですよ、と。怖かった。海水とは別に安心の涙が頬を滑っていく。

 三鷹さんは私と手が繋がった少年人魚を見つけると「わあ、子供の人魚ですか?」と、あなたの方が子供ではと言いたくなるような朗らかな笑顔を浮かべた。

 先ほどまでの緊張感とのギャップに頭も体もついていかない。


「迷子だそうで」

「迷子? この辺って潮の流れは強くないんでしたよね?」

「そう聞いてます」


 少年人魚は私の後ろに隠れるようにして三鷹さんを窺っている。好奇心に満ちた瞳は年相応のものだ。微笑ましく見守れればいいのだが、誘拐事件が頻発している以上、心の赴くままにとは応援できない。


「そもそも、ネルちゃんも海岸に近づかないように注意してるはずなんですけどね」

「注意?」

「はい。人魚の誘拐があって、それを警戒して」

「…………、えっ!? そんなことが――」

「シア!!」


 もはや悲鳴だった。

 この場にいた全員の視線が海に繋がる入り江の出口に向けられる。煌めく翡翠が青い海から跳びあがった。


「ネルちゃ――へぶっ!」


 あっという間に距離を詰めてきたネルちゃんは、私の膝裏に引っついていた少年人魚の元へ飛び込んで来る。その勢いに怯えてか、少年人魚が私の膝に体当たりするかたちになり、必然と私はその場に崩れ落ちた。

 こんにちは、白い砂。濡れた顔面に細かい砂がくっついて気持ちが悪い。砂と海水が口に入り、苦しみに手を伸ばすと三鷹さんが慌ててその手を取ってくれた。命の恩人よ。

 しかし、そんなふざけたことを口にできる雰囲気ではなかった。


「海岸に来ちゃ駄目って言ったでしょう!!」

「ひ、あっ」

「泣いても駄目よ! どれだけ心配したと思ってるの!!」


 この入り江では狭すぎるとばかりに響き渡る怒声。

 ネルちゃんが説教をする気持ちは分かる。迷子だったからよかったものの、これが誘拐だったら……。先ほどまで身近に感じていた恐怖を思い出し、再びに体が震える。

 ネルちゃんにしてみれば、流星さんから連絡が行くまで、あの子が安否分からずの行方知れずだったのだから不安も募っていただろう。そんなの心が潰れてしまう。

 少年人魚の青い目に溜まった涙がぼろぼろと流れる。ネルちゃんの声も涙声になり、私はたまらずに仲介に入った。


「ネルちゃん」

「うっ、灯ちゃァん……!」


 ネルちゃんは優しい。十八歳にして責任を負って同族のために仕事をして、本当に心から頭が下がる。今だって、説教をしたくてしてるわけじゃないはずだ。

 ぐしゃぐしゃに泣く彼に手を差し出せば、力なくもたれかかってくる。身体に力が入っていないが、ぐっと私の腕を掴む力は強い。私の心も痛い。


「ネルちゃんは君のこと心配してただけで、ただ怒ってるんじゃないんだよ。怖がる必要はなくて、その、泣かないで」


 ネルちゃんも少年人魚もわんわんと声を上げて泣いていたから、私の言葉は届いていなかったかもしれない。私も冷静ではなかった。どうにか、ネルちゃんに悪意なんてものはなくて、少年のことを思っての言動だったのだと伝えたかった。

 少年人魚の手を取れば、これまた力強く握りしめられた。迷子になった認識もなかったのだから、怒られたことが怖くて泣いてしまったのだと思う。落ち着いてから、もう一度、話さないと。ネルちゃんがこんなに頑張っているのを少しでも知って欲しい。


「……、紫峰さん、優しいですね」

「いや、目の前で泣かれたら、誰だってこんな感じになるんじゃないですか」


 一塊になっている私たちを優しく傍観していた三鷹さんは「タオル借りてきますから、待っていて下さい」と言って踵を返した。

 砂だらけだし、びしょびしょだし、酷いものである。まあ、私の惨状は置いておくとして、事件じゃなかったならそれでいい。

 ただ、問題は何も解決していない。この迷子の少年人魚はどうやってこの入り江に来たのか。

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