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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第35話 改めまして、初めまして

 個室の居酒屋。私、大君、三鷹さん。大君の予定など確認せずに、来てくれる前提で考えていたが、覆されなくてよかった。三鷹さんと二人だけだったら、絶対に変な空気になっていた自信がある。彼は絶対に恋愛の話しかしないだろうから。


「電話切った後に気づきましたよ。紫峰さん、ご飯に誘われたんじゃなくて、相談に誘われたんだと思ってたんですね」

「…………はは、すいません」

「それを言うなら俺の方こそです。俺、よく空気が読めないって言われるんです。急に一目惚れだって騒いで、驚かせましたよね」


 空気が読めない自覚はあったのか。いや、この場合、私の方が空気を読めてないのだけれど。

 私は恋愛経験がほぼないのに加え、恋愛ごとへの積極性を欠いているのが現状だ。どうにかしたい思いはあれど、どうにかする気力はない。これがこじらせている、というやつなのだろう。

 タイミングが悪くてずるずると引きずってしまっているが、その気がないのだから、さっさと断るべきなのだ。三鷹さんにも失礼であるし、はっきりした方が誠実な対応だ。


「……省吾。改めて、この前は、その……、悪かった」


 ……悪かった?

 乾杯よりも先に大君は頭を下げた。なんで。そういえば、実際に三鷹さんが入り江に乱入した瞬間の詳しい話も、私がネルちゃんと展望室にいる間にどんな話があったのかも聞いていない。

 というか、また当たり前に年上を呼び捨ててこの子は。


「いえいえ、結局は殴られませんでしたし」


 ……、どっちにだ。潮木兄弟はすぐ手が出る。


「俺こそ、邪魔してしまったみたいで、すみませんでした」

「……」


 どこまでも素直な大君は否定をしない。世の中を生きるには、もうちょっと融通が利いた方がいい気はするけれど、まあ、彼のいいところのひとつではある。

 この調子だと、三鷹さんは人魚の存在とともに大君の性癖まで知ってしまったわけか。数日の猶予があったとはいえ、冷静なことで尊敬する。私だったらパンクしているところだ。


「改めて、俺は潮木大河。よろしく」

「三鷹省吾です。よろしくね、大河君」


 二人の自己紹介を他人事のように見守り、ようやくの乾杯である。

 三鷹さんもコミュ力あるし、大君も男の人相手なら心配ない。個室だと突撃してくる人もいないのから今日は安心して飲める。

 今日もビールがおいしい、と手放しに楽しめないことだけが残念だ。


「紫峰さんはよくお酒飲まれるんですか?」

「はい。時間に都合がついて、人が捕まればすぐ飲みに行きます」


 三鷹さんとちゃんと話すのはこれが初めて。

 印象としては八重歯が可愛い、眼鏡、人がよさそう。全部、見た目の話。他愛ない世間話では人柄なんて分かるものではない。特に大人は。

 とりあえず、流星さんが補助員にと許可したのだから、変な輩ではないとは言い切れる。


「省吾って灯のこと好きなの?」


 思わず手にしていたジョッキを机に叩きつけてしまう。不可抗力。ごどん、と鈍い音とともにグラスの中身がぱちゃんと跳ねた。

 あなたも話題を恋愛寄りに傾ける天才でしたね、そうでしたね。まさか、大君を連れて来たのは失敗だっただろうか。


「はい。一目惚れです」


 よくもまあ本人を前にこうも堂々として言えるものだと思う。恥ずかしさを超えて感心すら覚える。


「俺、変な奴と灯が付き合うのは許せないから」

「大君」

「灯、恋愛能力低いし、すぐ騙されるし、ガード固そうなくせにお人よしだし。すげえ心配」

「やめなさい」

「変な男に乗っかられてからじゃ遅ぇんだぞ」

「はいはい」


 大君は好き勝手言っているが、私を心配してのこと半分、自分を構う人がいなくなるのが嫌なの半分だろう。

 喚くように私がどれだけ恋愛に向いていないかを語ることは、大君が三鷹さんの存在を知ったその日から始まっている。自分が恋人になるという妙な迷走はやめたようだけれど、私が恋人を作るのはやっぱり嫌らしい。


「大河君は紫峰さんの――」

「親友」


 とは思えない独占欲なんだよなあ。

 三鷹さんは意外そうに目を丸め、私と視線を合わせた。私が三鷹さんだったとしても同じ反応をする。え、こんなこといってる奴と付き合っていないの、と。


「紫峰さん」

「本当にお友だちです。弟みたいなもので」


 何の言い訳だ。


「じゃあ、紫峰さんの恋人になるには大河君のお眼鏡に適わないといけないんですね」

「勿論」

「……大君、最近本当におかしいからね」


 なんていうか、そう、流星さんに似てきた。大君に過剰な庇護欲を爆発させているときの流星さんに。私がそっち側の立場にいたはずなのに。


「灯は俺なんてどうでもいいのかよ」

「極端なこと言わない」

「本当に仲良しなんですね」


 三鷹さんは天然なのかもしれない。大君の強烈なかまってちゃんを仲良しで済ませるとは。

 気を遣っての発言かと思いきや、三鷹さんは「俺とも仲良くしてくださいね!」とお得意の晴れやかな笑顔を浮かべていた。大君の零距離コミュ力には憧れないが、三鷹さんのコミュ力は羨ましい。私にもその愛嬌があればなあ。


「省吾さあ、俺とか灯に敬語じゃなくていいんだぜ?」


 最近顕著になってきたことで、ひとつ、大君の駄目なところがある。自分と私を一緒くたにする気があることだ。

 敬語の有無くらいなら可愛いものだが、もう少し踏み込むと危険な依存関係に発展しそうなので、そろそろ注意すべきだと思っている。多分、渡しが苦言を呈する前に流星さんが釘を刺すことになるとは思うけれど。


「いや、俺は敬語が癖みたいなものなので」

「三鷹さんっておいくつですか? 私と同じくらいかなって思ってたんですけど」

「紫峰さんと僕、同い年ですよ。谷田さんに聞きました」

「やっぱり!」


 同年代と聞くと親近感が湧く。ジェネレーションギャップの心配がないだけで、会話のしやすさが違う。

 たとえ三年の差とはいえ、大君の話はたまについていけないことがある。私は顔に感情が出やすいので、その度に大君があれこれ説明してくれるのだが、いかんせん孫に構われているおばあちゃん気分になるのが悲しい。


「年齢と言えば、大河君と流星さんって結構年が離れてますよね?」

「おー、八離れてる」

「えっ」

「うっそ、灯、知らなかった?」

「知らなかった」


 流星さんが二十八歳。見えない。会社の二十八歳の先輩と違う。

 年上だとは思っていたけど、見た目だけなら年下と言われても、完成されたイケメンですねと返すだけで納得できてしまう。年齢不詳感がすごいんだよなあ。

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