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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第34話 お誘い合わせのうえ

 ネルちゃんの――ひいては、人魚の存在が三鷹さんにばれた。

 私とネルちゃんと大君はこの世の終わりのように、それぞれが自責の念に苛まれている。防ぐ余地があったということが、負の思考に拍車をかけていた。

 ”ネス湖のネッシー”よろしく”美湊の人魚”が、オカルトちっくなゴシップ雑誌の見出しを飾る日がきてしまうかもしれない。そんな大事件の原因となった私は、人魚の噂と伴に異保管に存在を抹消されてしまうのではないか。想像もできない処罰に戦々恐々としながら仕事に勤しんでいるが、正直、気が気ではない。

 大君とネルちゃんに至っては、しばらくの接近禁止令が出され、研究所の展望室で会うことも許されていない。携帯での連絡はいいらしいが、二人とも当然のようにそれも自粛をしている。


  沈みに沈んだ私たち三人に対し、部下の不始末を抱え、面倒で大変な立ち位置であろう流星さんはなぜかあっけらかんとしていた。

 それはそれで不思議というか恐ろしかったけれど、さらに不可解なのは流星さんは不機嫌ながらも三鷹さんを補助員に迎え入れたのだ。

 ここのところの不機嫌さの原因も、人魚にまつわる秘匿事項の懸念からではなく、三鷹さんの子犬のような無邪気さが合わないという至極個人的な理由だった。一緒に仕事をするからには態度に出さないようにするよ、と前向きな発言をしていたのは一昨日のこと。


 今日から平日、本業に頭を切り替えなければならないが、事件が尾を引いていることに加え、うまく切り替えられない理由があった。


「紫峰さん、こんにちは。今日も暑いですね!」

「こんにちは、三鷹さん。暑い中、ご来訪いただき、ありがとうございます」


 そう、私と三鷹さんはお互い本業でも顔を合わせるのだ。取引先である美湊環境計測株式会社御一行様が会議のために弊社にご来訪なされ、私は友達を遊びに誘うよう名気軽さで谷田に会議へ召集されていた。

 会議室には前回と同じメンバー。

 三鷹さんと顔を合わせるのは、一昨日――私がネルちゃんへの説教という名の懺悔に行った以来である。一昨日は私がネルちゃんとともに負のスパイラルに陥っている間に、流星さんと三鷹さんの姿は消えていて、研究室では大君が一人、ソファーで塞ぎ込んでいた。


「こんなに暑いと仕事になりませんよね」

「私は社内で作業することがほとんどですから。営業さんは外回りが大変ですね」


 三鷹さんとの距離感は未だに掴みきれていない。なぜかって、私を恋愛的な意味で好きになる人間がいると私自身が思わないからだ。つまり、彼は完全にUMA。

 私と三鷹さんとで温度差のある雑談をしていると、谷田に思いっきり肘で小突かれた。痛い。戯れなんてレベルじゃない。

 尾野の口の軽いこと軽いこと。私が初対面の三鷹さんに一目惚れだと告げられた話で、次の日のランチは大盛り上がりだった。尾野と谷田が。


 気もそぞろな会議が終わったあと、三鷹さんは皆がいる前で「後で電話しますね」と爆弾を落として去っていった。本当にやめていただきたい。ドキドキよりもひやひやである。再び、谷田に小突かれ、私は力の限りでやり返してやった。ひしゃげた呻きに少しだけ溜飲が下がる。

 会議室から執務室に戻る間に携帯が震えた。三鷹さんである。有言実行、しかも早い。でも、鳴っているのは私物のスマホだ。出る、出ない、出る――、出なければここに戻ってくると危惧した瞬間、通話一択になっていた。


「はい、紫峰です」

「三鷹です。先ほどはありがとうございました」

「いえ、こちらこそ」


 三鷹さんとの電話番号交換については未だに納得がいっていない。

 交換したこと自体はいいのだが、私の番号は流星さんから三鷹さんに伝えられ、三鷹さんから私に電話がかかってきたのだ。そこに私の意思はない。断りの一言くらいくれてもよかったのでは。


「紫峰さん、よかったら一緒にご飯に行きませんか?」

「……ええと」

「いろいろ話たいことがあって」


 いろいろ、に心当たりはある。ありすぎる。

 私だって異保管補助員として波乱の初日を終えたあと、一緒に帰っていた大君とそのまま飲みに行った。あまりの情報量に頭の中で考えがまとまらず、目にしたすべてが虚構にしか思えなかったからだ。大君がいなかったら、頭に収まりきらなかった分の情報をぶつぶつと独り言にしていたかもしれない。

 異保管の話をする相手に流星さん、大君、私の三択なら、三鷹さんの場合、元から知り合いの私が誘いやすいだろう。


「……分かりました」

「本当ですか? やった!」

「大君も一緒でいいですか?」

「え――」


 大君を誘う理由は二つ。ひとつは、大君の方が異保管に詳しいから。異保管や人魚の話をするために誘われているのだ。新人の私よりは大君の方が頼りになる。もうひとつは、大君に三鷹さんと二人でいるところを目撃された場合、彼のご機嫌を損ねる心配があるからだ。恐ろしいことに自意識過剰ではない。何もないから堂々としていればいいのだろうが、これ以上拗らせたくない。

 ただし、一つ不安があるとすれば、大君が三鷹さんに興味を持つ可能性がゼロでないこと。下手したら、さらなる混沌を巻き起こす可能性もある。


「もしかして、僕のこと意識してくれてます?」

「へ?」

「俺も二人だと緊張してしゃべれなくなっちゃう気がするので、大河君がいてくれた方が有難いです。いずれは二人で行きましょうね」


 三鷹さん、恥ずかしくないんだろうか。勇気がある。私だったらこんな台詞絶対に口にできない。相手が好きな人だとしても。


「……、定時であがれると思うので、終わったら連絡します」

「はい!」


 仕事中に何をやっているんだろう、と頭を抱えたくなる。この妙にそわそわする感覚をどうにかしたい、落ち着かない。

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