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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第32話 世界の中心

「大君、前に私に好い人が見つかったらいいな、って言ってくれてなかった?」

「灯には幸せになって欲しい。けど、俺との時間がなくなっちゃうのはヤダ」

「…………そこまで想ってくれてるのは嬉しいけど、それは単純にワガママだよね」


 きっと、大君は勘違いを起こしてしまったんだろう。滅多に仲良くならない女性と友人になり、物珍しく思っているのだ。だから、妙な執着を覚えている。

 大君の元々の人間性なのか、年下の友人を甘やかした私が悪いのか。とにかく、関係性がこじれようとしているのは事実だ。


「それから、相手を捕まえておくのに恋人関係になればいいっていう発想。よくないと思う」

「……今まではそれで上手くできてた」

「でも、恋人はネルちゃんだけしかいらないんでしょう? 浮気するの嫌だって言ってたじゃん」


 ハリボテのデートから一変、この場は説教の場になった。

 スイッチの入った外面から素に戻った大君は、唇を尖らせてあからさまに拗ねている。

 私だって大層なことを言える立場ではないが、大君は人間関係の構築が下手らしい。恋愛脳というか、そんな言葉では済まされない気がする。

 女の人が苦手で、男の人と関わるのが大半だったうえ、恋愛対象も男の人。友人を作るよりも恋人を作る方が大君には簡単だったのだろう。この見目にあの性格なら、絆される人がいても不思議ではない。

 そうして、時間をかけて形成された処世術が関係性の維持に自分の身を差し出すという暴挙。


「大君。大君はどうしたいの?」

「……」

「私と恋人になりたいんじゃないでしょう? 私に特別な人を作って欲しくないだけで」


 これだけだど、私がとんだ勘違い女のようであるが、反論が出ないので図星なのだろう。

 大君は私と視線を合わせずに、机の上のビールを見つめていた。もう、泡もすべて消えてしまう。ジョッキについた結露がつつつと下に向かって滑っていく。


「回りくどいことしないで、言ってくれればいいんだよ。寂しくなっちゃうから、恋人作らないでって」

「――えっ、それじゃあ!」

「いや、一生独り身で過ごしますとは誓えないけど」

「はあ!?」


 裏切られましたという顔で声をひっくり返した大君は恐ろしく素直だった。呆れよりも心配が募る。子供に言って聞かせるように「考えてることを教えて欲しいって言う話と、それに対して私がどうこうするのは別の話だから」と返せば、感情の起伏が激しい友人はむっと頬を膨らませた。


「今のところ三鷹さんと付き合うつもりはないけど、他に誰といつどうなるかは何とも言えない」

「なんで!?」

「な、なんでって……。じゃあ、私も飲み友達がいなくなるのは嫌だから、大君はネルちゃんと付き合わないでいてくれる?」


 絶対に無理だと思うけど。想像通り、大君は苦々しい顔で呻るだけで明確な返答を口にはしなかった。その反応は正しい。私だってここで肯定が返ってきたら大慌てで撤回しているところだ。


「大君が言っていることはそういうことだよ」

「灯の意地悪」

「いじ……、大君がワガママなんだってば。さっきも言ったけど、ネルちゃんに同じことされたら嫌でしょう?」


 私がネルちゃんなら今頃、泣いている。それどころか、大君を諦めようと考え始めるレベルだ。

 大君は何とも言い難い顔でもごもごと口元を動かしている。人との絆は恋愛だけで繋がるものではないと分かっているのだろうか。


「私だって、昔は友達に恋人ができたりしたら寂しかったよ。一緒に遊ぶ時間は減っちゃうし、置いて行かれてような気分になったりして」

「……」

「それでも、折り合いはついてくものだと思う」

「…………いつから?」

「いつの間にか」


 私はいつ頃から分別がつくようになっただろう。

 思い返してみても、明確な日付なんか分かりはしない。人と関わって、成長して、社会を知って、そうしているうちに、そういうものだと自然に受け入れていた。

 私の場合、周りのことよりも自分のことに手一杯だったというのもあるから余計曖昧だ。積みあがる釣書き、お見合いを強要する両親、私を守ってくれる兄姉と幼馴染。周囲からの異物を見つめる冷めた視線――、何の話をしていたんだっけ。


「……俺、灯のこと、誰かに独り占めされるの嫌」

「そっか。でも、万が一に恋人ができても、大君の友達を止めたりはしないよ。それじゃ駄目? 今よりは遊ぶ時間減っちゃうかもしれないけど」


 次は男女に友情が成立するかという議論が必要になるかもしれないが、大君の場合は恋愛対象が男性なのだから、私が彼を好きにならない限りは友情しか成立しない。

 つんとしたままの大君はこちらを見ずに、きゅっと眉間に皺を寄せた。


「…………ワガママ言って、ごめん」


 全然、納得してなさそうだな。


「ううん。私も偉そうなこと言ってごめんね」

「灯、俺のこと、嫌いになった?」

「まさか」


 むしろ、二十歳で中学生のようなワガママを平然と言う姿に庇護欲が増したよ。少なくとも、自分の身を売るような人間関係の作り方はやめた帆がいいと思う。

 大君は真正の魔性だ。この子から目が離せない。ちっとも面倒に思わないとまでは言えないけれど、放っておけないし、平穏に過ごして欲しいと思う。着実に流星さんと同じ道を歩んでいる。

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