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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第16話 海の見える研究所

 家の最寄駅から目的の駅まで急行で二十分。海方面に向かう路線に乗り、向かうは美湊みみなと駅。

 海沿いの駅ではあるが近くに海水浴場はない。美湊は岸壁と岩場に沿った場所で、浜辺からは遠いのだ。局地で釣りはできても泳ぐことはできない。


 しかし、海に人が入れない場所ということを利点にした施設があり、観光地としては機能している。海に直結した大型の水族館、それから日本随一の海中公園。特に後者にある海中展望塔からの眺めは一見の価値があり、恋人とのデートにも家族のお出かけにもお勧めされる美湊の定番スポットだ。

 恋人もいなければ、家族も近くには住んでいない私にはまったく縁のない場所である。


 私の今日の目的地は美湊駅から徒歩で三十分、または、バスで十分。商業施設が並ぶエリアからは逆方向にある美湊海洋生物研究所である。

 私以外に乗客のいないバスに乗って三分、景色は一気に閑散とし始めた。何にも遮られることなく育っている森林に、私は実家のある田舎を思い出す。自然豊かな間に敷かれた道路には信号機も珍しく、たまにある建物は取り壊し忘れたような廃屋が多い。

 いや、これなら実家の方がまだ栄えているな。


 ”美湊海洋生物研究所前”という漢字を連ねたバス停前で、唯一の乗客を降ろしたバスは来た道を折り返すようにして去っていく。ここは僻地なのだろう。バスの時刻表に書かれた本数がそれを物語っていた。

 研究所は開けた海沿いの広大な土地を贅沢に使った施設。

 低い塀に覆われた敷地の中には複数の建物が立っている。建物同士の移動を可能にする通路があったり、離れた位置に棟があったりと、施設案内がなければそれぞれの用途は分からない。やけに駐車場が広く、ここに通勤する術として車が多用されているのは一見で分かる。確かにここはコンビニに行くのも一苦労する場所だ。


 すぐそこに大海が広がっている。なんなら、海にも施設の一部が建造されていた。

 海上に歩道が伸びていて、先には展望塔のような建物がある。海中公園にあるものと似ているが、違うのは人気のなさ。しんと静まり返ったここでは潮風の音と鳥の鳴き声が聞こえるだけだ。

 新しくはなさそうであるが、古く廃れた様子のない綺麗な建物群。人里離れた場所に壮大な設備、まるで秘密施設のようでちょっとテンションが上がる。

 しかし、その高揚も研究所の門に掲げられた看板前に立つ白衣の男を認めて一気に冷めた。そうだ、私はここには仕事に来たのだ。


「ようこそ、紫峰さん。遠いところを朝からありがとう」


 潮木流星。悔しいけれど、白衣がとても似合う。風に揺られてはためく白が眩しすぎる。これで眼鏡もかけていたりしたら、私は降伏せざるをえなかっただろう。


「いえ、こちらこそ。有難いお話をいただいて」

「利害が一致したのは偶然だよ。声をかけたのは僕なんだから、助かったのも僕の方」


 結局、潮木兄から提案された副業の話を受けた。割の良さに揺らいでいたところ、大君に熱心な説得を受けたのだ。

 実家に帰って見合いをしたくないという気持ちと、仕送りを続けながらギリギリの生活することへの不安から、稼ぎに心配を抱いていた私としては、親友に「サポートするよ」と後押しされてしまったら後は頷くだけだった。大君との飲み会の回数を減らすという選択ははなから頭になかった。大君の恋路の進捗によっては解散になってもいいとは思っている。


 潮木兄に殴られたことに関してはもう何とも思っていない。心の奥底に打ち込まれていた恨みの杭も抜いた。

 恋多き大君があの調子であって、彼に絶対敵わぬ恋心を寄せる女子が次々とストーカー化する現実を前にしたら、私だって潮木兄のように過保護になると共感してしまったのだ。

 大君が変な男と結ばれるくらいなら、私はお兄さんの過剰警備を応援する。


「迷いはしなかっただろうけど遠かったでしょう」

「そうですね」

「いい土地なんだけど交通の便が悪い。車で来てもいいよ。交通費は出すし」

「いえ、車は持ってないですし、免許はありますけどペーパードライバーなので」

「じゃあ、せめて駅からここまではタクシーを使ったら?」

「……い、いえ、バスで十分です」

「そう?」


 毎回タクシーで出勤するとは、たとえ許されたとしても貧乏性の私には慣れないものだ。バスが全くないわけでもないし、あの道のりなら自転車でもいいかもしれない。森の中の道は夏でも涼しそうだし。


「まずは研究室のある棟に案内するよ」

「分かりました」


 そう言って、潮木兄は厳かな門を通り抜けて敷地の中に入っていく。私はその後ろを数歩の距離を保って追った。


「今入ってきた扉が関係者専用口だから、次からはそこから入ってきて。カードキーはあとで渡すから」

「はい」


 潮木兄はこの施設で一番大きい建物を通り越し、整備された歩道を歩いていく。途中、建物間を自転車で移動する人を見かけ、大学生の頃の記憶がちらついた。結構広いんだな。


「歩かせて悪いね。僕の研究室はあの建物にあるんだ」


 潮木兄が指さしたのは、入り口から一番遠い場所にある円柱状の建物だった。他の建物よりも幾分か小さい。ついでに新しく見える。何階建てだろうか。

 屋上には木々や花々が茂っているのが遠くからでも見え、私のイメージする研究室とはちょっと違っていた。子ども向けアニメ映画のヒロインが住んでいそう。

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