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人型異生物保護管理機構のお仕事  作者: 真名瀬こゆ


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第11話 夢想と現実

「大河君、そんなに女の人苦手なんか」

「初めて聞いたけど」

「お前に気遣ってたんじゃね」

「そんな気遣いできるタイプじゃないんだけどな」

「実物、マジで格好よかったあ。心底ファン」


 谷田は枝豆をつまみながら、感極まった感想をこぼす。谷田の尻軽感は否めないが、大君のファンが増えることはいいことだ。人気商売だろうし。尾野が来たら谷田の自慢話が止まらないだろうな。尾野も大君のことが気になっていたようだし、きっと残念に思うんじゃないだろうか。


「なあ」


 短い呼びかけ。それはいやに真剣な声色だった。

 声をかけてきた同僚はくいと顎で店の出入口を示していた。導かれるままに差された方を見てみれば、駆け足で出て行くスーツの女性。先ほど、大君に声をかけていた彼のファンの子だ。ぞわり。


「……谷田、どう思う?」

「どう見たって、大河君のこと追って行ったっしょ」


 私の目にもそう見えた。


「助けに行かなくて大丈夫かよ?」

「助けって――」

「紫峰の同僚の女子でも無理って判断するくらいじゃん? 結構、深刻じゃね?」


 一理ある。私との初対面のときの言動や、今日の同期飲みに混ざってきたフットワークの軽さに実証されているように、彼は人見知りという気質とは無縁だ。

 ということは、大君が唐突に帰ることを決めた理由は、今から合流するのが女性であることにひっかかったから。友達の友達の男性はよくても、女性はよくない。

 私は「おかわり頼んどいて」と谷田に追加注文を押しつけ、転がるように走り出していた。杞憂ならそれでいいのだ。ただ大君を見送って戻ってくればいい。


 まだ深い時間ではなくとも、日が暮れれば繁華街は人の往来が激しい。雑踏。一瞬で発見などという芸当はできなかったが、大君が使う路線の方へ歩いていけば、その姿を見つけるのは簡単だった。

 そして、彼は予想通りに例のファンの子に捕まっていた。


「お友達になってもらえませんか」

「……、悪いけど、俺、知らない人とは――」

「わたし、ずっとあなたのこと応援してきて。あ、じゃあ! この後一緒に飲みに行きましょう。ね?」


 二人に近寄って聞こえてきた会話の内容に一瞬だけ躊躇する。大君は自分の害になりそうな相手には、秒で口を閉ざして忍者のごとく気配を消す。守ってあげなければと判断がつくくらい露骨な対応をするのだ。彼女にはちゃんと対応しているということは、大君のファンであることには間違いないのだろう。

 もし、いや好きな人がいると公言しているのだから多分ないとは思うが、本当にもし、大君が女の子と遊びたいと思っていたら、私の手助けはむしろ邪魔なのではないか。

 私が声をかける前に、視線を泳がせていた大君と目が合った。安堵。助かったと表情が緩むのを見て、私は寸前の悩みをすべて捨てた。踏み出した一歩がうるさいくらいの足音を立てる。


「大君! 忘れ物!」


 大君はファンの子に断りを入れ、こちらへと走ってきた。あの子の目線から見ると、女の人のところに行く姿を見せられてがっかりしてしまうかもしれない――、そんな心配は大君の顔色の悪さの前に吹っ飛んだ。夜の暗さに紛れていただけで、すっかり血の気が引いている。さすがに人気がどうこうより、大君の精神的安静の方が大事だ。


「助かった」

「ようございました」

「忘れ物って」

「嘘だよ」

「……ありがとな、灯」


 大君みたいな人間がいることに、何度でも驚かされる。

 大君とはよく会っているが、女の人にちょっかいを出されていることは確かに多い。顔が良いだけでこんなに声をかけられるものなのだろうか。変なフェロモンでも出しているんじゃないか。


「答えにくかったらごめんなんだけど、大君ってそんなに女の人苦手なの?」

「んー、いや、なんていうか、その、悪い奴ばっかじゃねえってのは分かってる。仕事上、知らない人が俺を知ってることがあんのも分かってる」


 大君は目を伏せ、言いにくそうに言葉を濁す。言い訳のようにもごもごと一般論らしいことを連ね、それから眉を下げて困ったように笑った。


「でも、どうにかしてやろうって人がいるのも本当で。怖くて、構えちゃうんだよな」


 私の目は節穴だ。こんなに女の人に絡まれ続け、ひいては殺されかけたことのある大君を知っているというのに、どの口が女性が苦手とは知らなかったと言うのか。

 自分が大君の立場だったとして、すれ違う女の人全員がストーカーに見えるくらいの不安に陥っているのが容易に想像できる。人となりを知る前から女性というだけで拒否反応がでてもおかしくない。


「ごめん。嫌なこと聞いて」

「いやいや。灯には言おうと思ってたから」


 へへ、と取り繕うようにする大君はあまりにも哀愁が漂っていた。心痛がする。私に気なんて遣わなくていいのに。

 すっかりとほろ酔いも消え去ってしまった。

 大君と友人になれたのは奇跡なのかもしれない。きっと道端で落とし物を拾ったような出会いでは、苦手な存在を越えることはできていなかったはずだ。なんなら、受け取ってもらえないまである。あの日、臨死体験をした事件で大君を庇ったから、彼は私に気を許した。


「もう大丈夫。ごめんな、谷田さんのこと待たせてるんだろ?」

「一人で帰れる?」

「ん、平気」

「……本当に?」

「ほんと。ほら、戻って戻って」

「分かった。またね。気をつけて」

「おう、またな」


 大君は人混みに紛れて消えていく。

 行かせてよかったのだろうか。この後、もしかしたらまた誰かに足を止められることがあるかもしれない。いつでもどこでも助けてあげることができるわけではないが、心配なものは心配である。大君のお兄さんもあのとき、こんな気持ちだったのかな。

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