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天敵

 ここに来て、幽斎がこの世界でしてきたこと……つまりアイドル活動が宗十郎の頭の中で一つの結論が導き出されたのだ。それは即ち。全ての黒幕はオズワルドと五代表だということに!勿論、それは誤解ではあるのだが、怒りの矛先としては正しい!何故ならば、幽斎の肉体を変容させたのを紛れもない事実だからだ!本人の意思はともかく!


 「ひっ……!く、くそ!嘘だ!こんなことが!!」


 幽斎を取り囲んでいた青白い光はまるで生き物のように宗十郎にまとわりつく!幽斎が洗脳できないというのならば、宗十郎をという腹積もりなのだ!


 「このような……児戯が……ブシドーに効くかァッッッ!!」


 強い衝撃!ガラス窓のガラスが全て割れて、一瞬吹き飛ばされそうな勢いであった!

 オズワルドと五代表は察してしまった。エムナを殺すべく、異世界からの刺客を喚び出すはずだった。だが、どうして今になってその可能性を考えなかったのだろう。ヤグドールの精神操作が一切通用しない。それは……それは……。


 「天敵───」


 そう、天敵。決して勝てぬ相手。どう足掻いても、相性的に敵わない相手。考慮するべきだったのだ。異世界から、ヤグドールの天敵がやってくることを。

 そしてそれは現実として起こってしまったのだ。ブシドーという名の、悪夢のような世界からの来訪者たちが。

 彼らは悠久の時を経てエムナを殺害し、その力を我が物にしようと企てた。だが、石橋を叩きすぎたのだ!彼らは!五代表は!あろうことか、本来この世界に存在し得なかった……自らの天敵を喚び出す手引きをしてしまったのだ!


 慟哭。オズワルドは発狂した!自らがしでかしてしまった過ちに!


 「消え失せよ!この外道がッッ!!」


 叫ぶ!敬愛すべき師への侮辱!今、ここにこの剣で終止符を打ったのだ!

 だが、それは同時に起こる。首を刎ねた瞬間、オズワルドの身体が風船のように膨れ上がるのだ。そして膨らみは臨界点を迎え破裂!爆弾のように弾け飛ぶ!!青白い血漿が撒き散らされる!


 「ぬっ……これは……カーチェ!少しの間、辛抱してもらうぞ!」


 自爆!青白い血漿!その正体はヤグドールの一部。それに触れた瞬間、精神は汚染され侵食されるのだ!だがしかし、ブシドーを流し込むことでそれは無効化される。ブシドーとは魂の調べ!その力通して邪悪を祓うのだ!それは一瞬のことであったが、五代表にとっては十分であった。気がつけば姿が消えている。


 「五代表どのも往生際が悪い……いや、私の知らないところでまだ何かあるのか……?」

 「ノイマンとやら、お主とお主の連れも取り急ぎ……」

 「ああ、心配ない。私とアリスくんはワクチンを打っている。ヤグドールによる多少の呪いならば問題はない。それよりも外を見たまえ。最後の悪あがきという奴だろうか」


 ノイマンは割れた窓の前に立ち街を見下ろす。街が動いていた。いいや、街が動いているのではない!無数の存在が、蠢いているのだ!そして……それは一斉に舞い上がった!

 五代表がエムナを殺害し生み出された亜人たちは全部で四つ。彼らは後にエルフ、ドワーフ、コボルト、ゴブリンと呼ばれた。だが一つだけ、起源が明らかにない存在がいる。


 ───フェアリー。


 エルフたちは言っていた。いつの間に湧き出した、よくわからない存在であると。街には、オルヴェリンには、無数のフェアリーが蠢いているのだ。

 クスクス、キャハハ……フェアリーの無邪気な笑い声が、ここまで聞こえてくる。


 「フェアリーはですね、他の動物に卵を植え付けるんです。そしてその相手に好んで人間を選ぶんですよ」


 リンデの言葉が木霊する。あれだけのフェアリー……そしてここオルヴェリンは、人間の街。カーチェは窓から急ぎ飛び降りようとする。それを宗十郎は引き止めた。


 「離せ宗十郎!あれは、放っておいてはいけない存在だ!あれは……あれは……!」

 「落ち着け!ここは何階だと思っているのだ!ブシドーでないお主は墜落死免れぬぞ!」

 「だったら早く行ってくれ!分かるだろう、フェアリーがどういう存在なのかを……!」


 今すぐにでも五代表を追いかけなくてはならない。だが五代表はヤグドールの力を使う故にブシドーの自分が行かなくてはならない。

 しかしフェアリーに襲われる人々を助けるには、この高層ビルから平気で飛び降りることが可能なブシドーでしか不可能だ。

 どちらかを選ばなくてはならない。多くの市民を犠牲にして、五代表を確実に追い詰め倒すか、市民たちを助けに行き五代表を取り逃すか。最善の選択肢など、なかった。それはカーチェにも分かっていた。卑怯な女だと自己嫌悪する。最悪の選択肢を、よりにもよって無関係な異郷者に委ねているのだから。


 「カーチェ、俺は……」


 宗十郎が答えようとした時である。街の中で閃光が走る。この剣圧は見覚えがある!今一度、宗十郎は外を見た!そしてその姿を確認したのだ!


 「そうか……はは……なるほど!ああ、お主は確かに英雄だ!それが、それがお主のブシドーというわけだな……!ジークフリート!!」


 その一閃は巨竜すら屠る一撃。それが連続で放たれている。暴力的な光の前に藻屑と化していくフェアリーたち。彼の握る聖剣バルムンクは、あらゆる悪を滅するのだ!


 「全員聞け!俺は亜人連合軍でもなければオルヴェリン軍でもない!ただ、ここにいるだけの異郷者だ!だが今、為すべきことは唯一つ!この街に蔓延る邪悪を断ち切る!!」


 地面に突き立てたバルムンクを中心に脈動的に魔力が炸裂する!神力混じったその聖剣は、人を傷つけず害ある魔物だけを吹き飛ばすのだ!


 「オルヴェリンの皆のために……戦ってくれているのか……!」


 カーチェはジークフリートの姿を見て膝をつき安堵の表情を浮かべる。彼女にとってオルヴェリンとは故郷である。ここに住む人々も、昔なじみで……例え酷い言葉を浴びせられても、それでも守りたいという気持ちがあったのだ。


 「余韻に浸る暇はないぞカーチェ。あの男は強力な戦士ではあるが、多勢に無勢。犠牲者を減らすためならば加勢は必要になる」

 「ああ……ああ、そうだな宗十郎!五代表の後始末は……お前に任せて良いか?」

 「無論だ、奴らの力はブシドーでしか対抗できぬ。故に、俺が適任」

 「そうだなシュウ。儂ら二人であの五代表を追い詰めようぞ!」


 いつの間にか、幽斎が笑顔で宗十郎の隣に立っていた!満面の笑みである!


 「……?いや、師匠はカーチェと一緒に街に急ぎ下りて加勢してください」

 「え?……え?なんで?」


 幽斎は困惑の表情を浮かべる。ようやく二人きりになれる機会、しかもここぞとばかりに勇姿を見せる絶好の愛弟子ポイント稼ぎスポットを、他ならぬ愛弟子本人に否定されたからだ!その心境、濁流に呑まれし蛙の如し!


 「これは拙者の我儘です。あのヤグドールとやらの力、対抗できるのも治癒できるのもブシドーのみ。そして今、ブシドーは我らしかいないのです。大将首を師に先んじて弟子が取るなど無礼千万は承知の上です。故に拙者がカーチェたちと共にフェアリーたちの相手をして、師匠は総大将の首を取りに向かう。確かに正論です。ですが!師匠ならば!今、街で苦しむ多くの人々を、拙者よりも多く救えるはずなのです!どうか……!どうか!」


 宗十郎は今、自分の意思で、より多くの人を救うために初めて、ブシドーに反するのだ。深く頭を下げる宗十郎を見て幽斎は弟子の成長に心震わせながらも複雑な思いであった!


 「ぐ……ぐぅ……ぐぅぅ……!わ、分かった……そうだな。街に降りよう……!」


 苦渋の決断だった!今までの宗十郎の好感度から逆算して、ここで無理に同行してもおそらくは愛弟子ポイントは下がることはない……だが、重大な局面で自分の意見を聞いてくれないのではないか……と宗十郎に思われてしまうのではないかということが幽斎にとっては大きかったのだ!繰り返し言おう、苦渋の決断なのだ!


 「師匠……ありがとうございます!」

 「う、うむ……精進せよ」


 頭をあげてパァっと笑顔を浮かべる愛弟子の姿を見て、それだけでも価値があると幽斎は感じた。


 「それでノイマンとやら、お主にはついてきてもらうが構わぬな?」

 「はっはっはっ!待っていましたぞ宗十郎さん!既に私たちの準備は万端!さぁ共に五代表に天才的引導を渡しましょうではないですか!!」

 「え、え、ぇぇ!?私たちって、それ……わ、わたしも含まれているんですかぁ?」

 「ちょっと待って?」


 ノイマンとアリスが宗十郎の呼びかけに応えた時、幽斎は遮るように透き通った声で間に入った。

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