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王の降臨

 「え、え!?ち、ちちちがい、……の、のノイマンさんいきなり何してるんですか!?」


 当然アリスの耳にはこんなこと入っていない!困惑しかないのだ!


 「裏切り?何を言うのかと思えば、裏切ったのはそちらが先ではないかな五代表どの?私、エムナさんから全てをお聞きしていますよ?何とも浅はかな選択をとるものですなぁ!」


 ノイマンはエムナの本音を聞かされていた数少ない異郷者だった。この世界の成り立ち、過去もすべてエムナから教えられている。

 はじめてそれを知った時、ノイマンはあまりにも愚かな人々に吐き気がした。彼自身、元の世界で歴史書を読んでいる時、とんでもない愚者がいるものだと微笑いながら読んでいたことがあったが、目の当たりにすると別の感想を抱くもの。


 「そうか、外でヤグドールの反応がなくなったのも……ずっと狙っていたのか!!」

 「素晴らしい戦いでした!エムナさんも待ち続けていた甲斐があったでしょう!」

 「ぐぬぬ……ふざけるなッ!お前たちに何が分かるといのだ!どれだけ時間をかけて、この安寧を維持し続けたか!それを異郷者の貴様らが全て台無しにするなど!許されない!」


 断末魔の如く叫ぶ。だが戦況は絶望的。残された唯一の戦力であったノイマンも裏切り、残されたのは無力な権力にしがみついているだけの老人たち。最早、勝ち目などなかった。


 「宗十郎さん、積もる話はありますが今は彼らを始末しますぞ。大方エムナさんから話は聞いているのでしょう?」

 「……ああ。安心せよノイマン」


 宗十郎は五代表に歩み寄る。介錯である。

 今、ここに確実に葬り去るためにブシドーをもってして断ち切るのだ。五代表たちも万事休すか抵抗らしい素振りは見せなかった。宗十郎はサムライブレードに介錯ブレードをエンチャント、そして放つ。


 「怨嗟魔窟の老獪ども。俺は俺の武士道に従い貴様らを斬る。辞世の句を読むが良い」


 刀身が輝く。それは宗十郎の武士道そのものだった。いつの世界でも変わりない。目の前で虐げられている人々を救うことこそが、彼にとっての武士道である。


 その時であった。ガラス窓が突然ぶち破られる。何者かが侵入してきたのだ。

 その殺気に宗十郎は思わず身構える!まだ……残された強敵がいたのだと!


 「はぁ……はぁ……くく、間に合ったぞ!五代表様!ご無事でしょうか!?」


 ぶち破られたガラス窓とは反対方向から息を切らした様子でオズワルドがやってくる。五代表の秘書官である。そして馴れ馴れしい手付きでガラス窓を破ってきた者に近寄る。


 「いやぁよくやってくれました。長い間、目障りであったエムナの殺害。今こそ、我々の悲願が成就するときです五代表様」


 その侵入者の顔をここにいる全員は知っていた。当然だ。つい先程まで行動を共にしていた。知らないはずがないのだ。見覚えのある黒く長い髪。それは不吉を喚ぶカラスを彷彿させるとドラゴンの代表リリアンは言っていた。

 そう、ガラス窓を破り、弾丸のように突入してきた侵入者の名は……


 「あれは……」


 宗十郎は呟く。細川幽斎。彼女の姿は紛れもなく、彼の師匠である幽斎そのものであった。


 ───この世界の地下深くにナニカが脈動している。気がついたのは遥か昔のことだった。

 宗十郎はエムナから伝えられた、この世界の成り立ちと、真の敵。打倒すべき悪。

 かつてこの世界では命は平等だった。

 だが例外があった。稀に生まれる存在。それらは希少種と呼ばれた。例えば馬から産まれた筈なのにその額には巨大な角が生えていたり、あるいは牛から産まれた筈なのに二足歩行で立ち上がり肉食性を示すものがいた。もっともそういった者たちは寿命が短く自然淘汰されていく。その中には人間の希少種も当然存在する。


 彼らは他と比べ外観に大差はないが脳が異常に発達していた。故にその寿命の短さを理解した上で、生存戦略を立ち回り、少しずつではあるが勢力を広げていく。

 彼らは願った。死にたくないと。そして一つの手段を導き出した。悪魔と呼ばれる存在をこの世界に喚び出すことである。

 悪魔との契約により、自分たちの寿命を延ばす。そして、そのおぞましい儀式は完成した。自分たちを救う救世主の降臨を信じて。


 しかし、その儀式は失敗した。降臨したのは悪魔ではなかった。今はエムナと呼ばれる異郷者であった。

 エムナは悪魔とは対極の存在。異世界にて人類の導き者として名を残した英雄であった。もっとも悪魔に近しい力を持ったエムナを見て、彼らはエムナを悪魔と誤認した。

 エムナは自分が喚び出された理由をすぐに察し、彼らが邪悪な存在だと認識した。自分がここにいる理由は一つ。正しき世界のために彼らを皆殺しにすることだと確信したのだ。


 だが、ことは単純ではなかった。彼らを生み出した存在。即ち、希少種などという歪んだ存在を作り出しているものが、この世界に蠢いていることを知ったのだ。そしてあろうことか……その存在は実験をしていたのだ。この世界の生命体で、どれが一番自分の器に都合が良いかと。

 そしてそれは人類を見て結論づけた。


 エムナはあらゆる人類を愛していた異郷者であった。

 故に許せなかった。例え異世界だろうと、人の生命を弄ぶ存在が。故に決意した。この存在を討ち滅ぼすと。

 その名をヤグドール。無限の細胞生命体にして精神の支配者。外世界の怪存在である。


 「■■■■さん!見てください、ついに出来上がりました!私たちの街です!」


 気がつけば人々はエムナに付き従っていた。そして付き従う人々の数は膨れ上がり、一つの街が出来上がった。


 「これからきっと、この街で多くの人々が産まれて育つんです。今までのように、恐ろしい怪物に怯える日もなく、安寧な日々を……。そんなことすら知らない子どもたちが育っていくんです。みんな■■■■さんのおかげです。本当に、本当にありがとうございます」


 こうして生まれたのがオルヴェリン。人類最後の安息地。この世界に生まれた楽園。そしてその最初の王としてエムナは君臨した。

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