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連合軍

 ───オルヴェリン中央庁。玉座の間。ジルが破れ、ハンゾーの生け捕りに失敗の報をエムナは受けていた。そして亜人たちが妙な動きを見せているということに。


 「エムナ、いよいよ恐れていたことが始まった。あの女……カーチェを中心に亜人たちが団結をし始めている。近々始まるぞ。人類と亜人の戦争が」


 五代表たちは震えていた。戦力でいえば人類は圧倒的である。そこに間違いはない。だが戦争とは民衆の不満を招くもの。自分たちの立場を脅かすものでもあるのだ。


 「最早猶予はない!急いで軍隊を組織しろ!迎撃の準備だ!戦争だ!」


 肩を震わせついに怒りの感情を露わにする。


 「宗十郎には我が魔法騎士団が有効だった!部隊を強化し編成を組み直せば……!」


 五代表たちは焦った様子を見せながら、宗十郎が脱走した日を思い出す。彼にとって魔法とは未知のものであり、効果があると確信していた。


 「無理ですな。あれは一度限り。宗十郎……ブシというのは四六時中、戦争ばかりしていたのでしょう?ならばもう宗十郎には魔法騎士団はあんま意味はないでしょう。


 だがそれをノイマンは否定する。彼は分析していた。ブシドーなる奇妙な存在を。そしてブシドーとは、そんな生半可なものは通用しないと分かっていた。


 「ヨシムラさん?あなたの知るブシはそういう人種なのでしょう?」


 ノイマンがそう尋ねると建物の影から現れる男が一人。ヨシムラと呼ばれる異郷者。ずっとそこで聞いていたのだ。気配一つ立てず。


 「前も言ったが、あっしの知る武士ど宗十郎は合致しねぁー。んだがら別物だよ。でもま……確がに根底は同じ。武士だら確がに同じ手は通じねぁーごった」


 独特な訛りの言葉を話すヨシムラと呼ばれた男は武士を自称していた。しかし、彼の知る武士と宗十郎の言う"武士道"はまるで一致しない。しかしその心は似たようなものだと感じていた。


 「なるほど、ブシに同じ手は通じない……それならばブシ同士ならばどうなのだ?」


 エムナは興味深そうに問いかけるとヨシムラは胸を張り堂々と答える。


 「武士ど武士の闘いに二度目はねぁー。どぢらががぐだばるまで闘い続げるのみ。それが武士道であり、戦の本質。ああ、エムナさん。おめの肚読めでしまったよ。あっしに行げど言うんだな?あのおっかねえ武士ど斬り合えど言うんだな」


 エムナは微笑む。慈悲に満ちた表情だった。


 「ヨシムラ。俺は無理強いはしない。お前がどういう経緯でここに来たのかも知っているからな。俺はお前のこともまた好きだよ。愛のために、義のために生きたお前の姿はまさしく人の陽の部分。だからこそ……お前には自分の頭で決めて欲しい」


 立ち上がり、ヨシムラにそっとエムナは耳打ちをした。

 瞬間、この空間を闇で染まる。五代表は情けない悲鳴をあげた。まるで火薬庫。少しでも刺激を与えれば大爆発を引き起こしかねない緊張感。殺気が、玉座の間を埋め尽くした。

 その気配は中央庁から溢れ出し、外にまで漏れ出す。鳥は生命の危機を感じ羽ばたき、童は泣きわめく。

 何も知らないものたちは理解不能の恐怖感に頭をやられ、パニックに陥った。そのどす黒い殺気の中心には、ヨシムラがいた。


 「あんの犬の糞にも劣るあめれ外道がいるどいうのが」


 その目には、強い殺意。怒りの炎。深淵の憎悪。先ほどの人の良さそうな姿からはまるで想像もつかない悪鬼がいた。


 「ヨシムラ、ノイマンが作り出した部隊を引き連れて行ってくると良い。一人じゃあ宗十郎と話をするのも難しいだろう?」

 「良がるべ。鏖殺だ。糞袋ぶぢ撒げで血祭りにしてける。覚悟せよ」


 ヨシムラは立ち去っていった。その凄まじい獣のような殺意を背負って。


 ───オルヴェリンより離れた原始林。各亜人たちの代表が集まり会議が始まった。議長はカーチェである。この世界にいる亜人は大きく分けて五つ。ゴブリン、エルフ、コボルト、フェアリー、ドワーフである。当然だが、いずれも人間とは敵対関係にある。


 「頭の固いエルフが協力しようなどと持ち帰るから来てみたんだが、なんだまさか他の亜人……まして人間と協力しようなどと恐れ入ったわい」

 「こちらこそ偏屈なドワーフがまさか応じてくれるとは思わなかったです」


 エルフの代表であるエルヴィンとドワーフの代表であるハルバージの間で火花が散る。

 エルフは耳が長く、金髪蒼眼。人間の目から見ても美しさを感じる。対してドワーフは筋肉隆々でがっしりとした体つき。だが衛生観念が低いのか薄汚れていて少し匂い、皆が多種多様なヒゲを生やしている。

 相互、仲が悪いのは知っていたがここまでとは思わなくてカーチェは頭を抱える。


 「俺としてはゴブリンが人間と協力することに驚きだねぇ。何を企んでやがる?」

 「私個人としては人間というより宗十郎に協力しているだけです。コボルトの皆さんは……特に深い考えは無さそうですね」

 「おうよ!気に入らねぇ人間どもを皆殺しにできるなら何でも良いぜ!!」


 意気揚々と物騒な言い回しをするのはコボルトの代表であるフェン。そしてゴブリンの代表はリンデである。

 コボルトとゴブリンはエルフやドワーフと違い人間と大きく外見が異なる。ゴブリンはそれでも比較的人間には近い……背丈の低い子鬼のような外観をしていてその全てが男性という特異な性質を持つ。リンデという例外を除いて。

 一方コボルトに至っては完全に犬である。二足歩行する犬。ゴブリン同様、人の言葉を発しないが意思疎通はできるフェンは例外のようである。

 だがそれでも毛皮に包まれた体躯に犬耳と犬歯、そして鼻をひくつかせ舌を出しているのだ。紛うこと無く犬である。


 「もうほんと無理……犬面はガサツで乱暴で……カーチェだっけ?私たちフェアリーは勿論、あなた達、人間との協力は大歓迎!オルヴェリンの人から私たちにアプローチしてくれるなんて嬉しいな」


 そして最後にフェアリーの代表であるルルである。小さな愛くるしい外見、半透明の羽根。人形のような姿をしている。彼らは他の種族と違い更に身体が小さく、手のひらに乗れるようなサイズだ。

 以上がオルヴェリン亜人五種族の特徴。そして代表たちである。彼ら代表五人が今、一つの目的のために集い会議を始めるのだ!

 会議の題目は部隊の編成や各種族の戦力、役割の再確認や駐屯地、兵站など様々なことを考えていた……つもりだった。


 「良いから早くオルヴェリンに行こうぜ!こんだけいれば余裕だろ!」

 「わしらドワーフの装備をこいつらに提供しろだ?ふざけたこと言うんじゃねぇよ!」

 「とりあえずコボルトとドワーフは水浴びすることを提案します、臭くてたまらない」

 「ねぇカーチェ?……二人でこっそり抜け出さない?良いところがあるんだ……?」


 カーチェは溜息をつく。これが彼らが団結しようにもしない理由である。あまりにもあくが強すぎて、まとまる気配がない。リンデは慣れた様子でやれやれと冷めた目で他の種族達を見ていた。


 「最悪こいつら囮にすれば良いんじゃないです?」

 「いくらなんでもそれは無謀だ……」


 リンデの半ば諦めたような愚痴に同意しそうな自分が怖い。そんなグダグダとした空気の中、突然会議室の扉が空いた。


 「カーチェ、作戦会議をするならば何故言わないのだ。俺はともかく師匠は軍略を学んでいる。会議に混ぜるべきであろう。此度は師匠の代わりに俺が来たが……」


 突然の来訪者に一同の視線が集中する。特に熱い視線を送っているのはルルである。


 「わぁ、凄い逞しい人!これが噂の異郷者?これならたくさん……」


 席から離れその羽で宗十郎の周りをくるくると飛び回る。


 「ルル、宗十郎から離れて」

 「あれれ、リンデちゃん怒ってるの?ダメだよこういうのは早いもの勝ち……美味しそうなのを目の前にして黙ってるなんてできるわけないじゃん」


 宗十郎の登場で一旦、会議室は静まり返ったがまた先程のような雑談が始まった。


 「なるほどな……おい、そこの者よ!こぼるとと言ったか!」


 フェンが振り向く。先程から攻めよう攻めようと意気揚々に語っている。


 「そんなに戦場に出たいのならば、まずは主らが先陣を切るのはどうだ?亜人連合軍の先発突撃隊。誉のある努めよ」


 ブシドーにおいて先発隊の役割は大きい。敵にどういった者たちがいるのか、命を賭して仲間たちに伝えるのだ。故に誉のある役割とされている。


 「おう、何だお前話が分かるじゃねぇか!じゃあ早速、オルヴェリンに行くぞお前ら!」

 「いや、向かうのはオルヴェリンではない。まず攻めるのは外郭部……オルヴェリン周辺に作られた集落だ。そうであるなカーチェ?」

 「あ、あぁ!それと宗十郎は先陣と言ったが殺し合いではない、胸に刻んでくれ!」


 集落ではオルヴェリンの永住権を持たないものたちが暮らしている。彼らは少なからず不満を抱えている。そんな彼らを味方につけて、前線基地とするのが目的なのである。

 会議はようやくマトモに進み始め、集落での計画について話が進んだ。


 「宗十郎、カーチェ、ちょっと良いですか」


 会議が終わり解散したあとにリンデが二人を呼び止めた。先程の会議で疑念が確信に変わったからである。即ち、連合軍の脆さ。空中分解しそうな危うさである。その中でもとびきりの爆弾があるのだ。


 「フェアリーたちは裏切りますよ」


 リンデはそう断言する。彼らのことはよく知っている。それが宗十郎にとっての毒となるのであるならば、露払いをするのが未来の妻の務めだと思ったからである。


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