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第72話 もう少し一緒に(由佳視点)

 ダブルデートが終わって、私はろーくんに送ってもらっていた。

 江藤君と美冬さんは、いい雰囲気だったように思える。多分、江藤君の目的は達成できたのではないだろうか。

 それは私にとっても嬉しいことではある。二人には幸せになって欲しい。せっかく恋人なれたのだから、ぎくしゃくするなんてもったいないだろう。


「ろーくん、今日は本当に楽しかったね?」

「ああ、楽しかったな……」


 二人は順調に進めたような気がするが、一方で私とろーくんの関係が今日のダブルデートで変わったかというと微妙な所である。

 自覚の有無などはあったが、今日は色々とアプローチできたと思う。でもその効果がどれ程あったのかはわからない。


「また一緒に遊べるといいね?」

「そうだな……まあ、あの二人はしばらくあの二人の時間を過ごすとは思うが」

「あ、そっか……確かに基本的には私達はお邪魔虫だもんね」


 今回のダブルデートは、基本的には四人で行動していた。アトラクションなどでは二人ずつに分かれたが、それでも四人一緒だったといっていいだろう。

 江藤君も美冬さんもそれはそれで楽しかったと思ってくれているはずだ。ただ今日を経て、二人はしばらく二人のデートを楽しむだろう。というか、せっかくぎくしゃくも解消されたのだから、そうして欲しい。


「でも不思議だよね? あんなに仲が良さそうなのにぎくしゃくするなんて……」

「……まあ、関係性が変わるということはそれ程大きいことだったのだろう。無論お互いを想い合っていた訳ではあるが、その出力の仕方がよくわからなかったということなんじゃないか?」

「うーん……難しいんだね」

「いや俺も別にそういう経験があった訳ではないから、正確なことは言えないんだが……」


 ろーくんはそう言っているが、多分その予測は間違っていないと思う。

 幼馴染から恋人になる。それがどういうものなのか、私には想像することしかできない。

 でもそれは絶対に大きなことだ。だから何が起こってもおかしくはないだろう。


「……あっ」

「むっ……」


 そんなことを話している内に、いつの間にか私の家の前まで着いていた。

 楽しい時間というのは、本当にすぐに終わってしまう。もう今日はこれでろーくんとお別れなんて、すごく悲しい。もう少し一緒にいたいと思ってしまう。


「……ねぇ、ろーくん」

「……由佳、どうかしたのか?」

「あのね……お泊りのことなんだけど」

「あ、ああ、そのことか……」

「……このまま泊まっていかない?」

「え?」


 別れが悲しかったので、私は思わずそのような提案をしてしまった。

 その提案に、ろーくんは目を丸くしている。それは当然のことだ。前々から決まっていたとはいえ、今日の今日急に泊まれる訳もない。


「ご、ごめん。今の忘れて。そんな急に泊まったりなんてできないよね?」

「……由佳のお父さんとお母さんの許可は取れているのか?」

「あ、うん。二人はいつでもいいって言ってくれているけど……」

「そうか……でも、このまま泊まるのは無理だな」

「そ、そうだよね……」


 ろーくんは、私の提案を断ってきた。

 それは当たり前のことだ。でも、やはり残念である。もっとろーくんと一緒にいたかったから。


「俺にも準備が必要だからな……泊まるとしても、一旦家に帰って荷物をまとめてからということになる」

「……え?」


 ろーくんの言葉に、私は固まってしまった。その言葉が予想外だったからである。

 それはつまり、今日お泊りでもいいということだろうか。それがだんだんと理解できてきて、私は思わず震えてしまう。


「今から帰って準備をしてくる。それでいいか?」

「……うん!」

「うおっ……」

「あ、ごめん……」

「いや、別に問題があるという訳ではないが……」


 あまりにも嬉しくて、私は思わずろーくんに抱き着いていた。

 勢いがあり過ぎたからか、ろーくんは少し怯んでいる。でも、それでもしっかりと私を支えてくれている。それがまたとても嬉しかった。


「それじゃあ、ちょっとこのままでもいい?」

「あ、ああ……」

「嬉しい、ありがとう、ろーくん」

「いや、別に気にするな……」


 許可が得られたため、私はろーくんの胸に顔を埋める。

 ろーくんの温もりや匂いが感じられて、すごく落ち着く。でも、同時にドキドキもする。

 でもそれが、すごく心地いい。ずっとこうしていたい。その想いがさらに強くなっていく。

 ただ今日はそんなに長くこうしてはいられない。ろーくんは今から家に帰ってまたここに来てもらわなければならないので、そろそろやめるべきだろう。


「ろーくん……ありがとう」

「むっ……もういいのか?」

「うん。だってこの後もろーくんと一緒にいられるし」

「……そうか」


 私はろーくんから、体を離した。すごく名残惜しかったが、今日は我慢だ。この後いっぱい一緒にいられるのだから、大丈夫である。


「……なるべく早く戻る」

「そ、そんなに急がなくてもいいんだよ? もう暗くなってきているし、危ないから……」

「ああ、安全に気を付けて急ぐさ」


 ろーくんは、私の頭にゆっくりと手を置いた。

 そしてその後表情を変える。自分の行動に驚いているようだ。


「す、すまない……つい」

「あ、ううん。大丈夫だよ。むしろ嬉しい」

「そ、そうか……」


 小さな頃、ろーくんはよくそうやって私の頭を撫でてくれていた。多分、その癖が出てしまったのだろう。

 ろーくんは後悔しているみたいだけど、私はむしろその癖をどんどん出して欲しかった。ろーくんにそうやって撫でられるのは、とても嬉しいから。


「えっと……まあ、とにかく一旦帰るよ」

「うん。また後でね、ろーくん」

「ああ」


 ろーくんは帰ると言いながら、その場を動かなかった。それが私を待っているのだとわかったから、私は家の中に入る。

 また会えることはわかっているけど、それでも寂しい。ただ私もそれに浸っている場合ではなかった。色々と準備をしなければならないからだ。

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