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第63話 休みの予定がどんどんと増えていく。

「ろーくんに少し聞いて欲しいことがあるんだ」

「お、おお……」


 明日からいよいよゴールデンウィークという日の朝、江藤はそのようなことを言ってきた。

 最近の江藤は、よく穂村先輩のことを相談してくる。恐らく、今回もその類なのではないだろうか。

 最初は俺なんかが役に立つはずはないと思っていたが、こういうのは誰かに話すだけでも気が和らぐと江藤は言っていた。

 だから、それは聞こうとは思っている。しかし、こんな朝早くに相談とはどういうことだろうか。何か大変なことでもあったのだろうか。


「実は明日僕と美冬姉で出かけるんだけど、ろーくんも付いて来てくれないかな?」

「は?」


 江藤の言葉に、俺は思わず変な声を出してしまった。

 江藤と穂村先輩が一緒に出掛ける。それはつまり、デートであるだろう。

 それに俺がついて行く。その意味がまったくわからない。そんなことをしたら、俺は馬に蹴られてしまうだろう。


「馬鹿を言わないでくれ。どうして俺がお前と穂村先輩のデートに同行するんだ? おかしいだろう?」

「あ、いや、何もろーくん一人でという訳ではないさ。流石の僕でも、そんな誘いはしないよ」

「なるほど、それはすまなかった。俺の早とちりだったみたいだな……でも、俺一人でないにしても、せっかく穂村先輩と出かけるのに誰かを同行させるのか?」

「ろーくんは、ダブルデートというものは知っているかな?」

「ダブルデート? それはもちろん知っているが……」


 流石の俺も、ダブルデートの意味がわからない訳ではない。二組のカップルが一緒にデートするというあれのことだろう。

 話の流れからして、江藤はそれを実行しようとしているはずだ。そこから導き出されるこいつの考えは、なんとなく予想することができる。


「……由佳と俺を誘おうとしているということか?」

「その通り、流石はろーくんだ」

「いや、しかしそれは……」


 予想していた通り、江藤は自分達と俺と由佳でダブルデートをしようとしているらしい。

 だが、それは前提が少々間違っている。俺と由佳は、付き合っている訳ではない。それは江藤だって、知っているはずなのだが。


「ろーくん、僕と美冬姉とろーくんと瀬川さんには、共通点があるだろう?」

「共通点……幼馴染であるということか?」

「ああ、そうだとも。ただ、僕と美冬姉の関係性は、最近随分と変わった」

「まあ、付き合ったんだから、それはそうだろう」

「僕達がデートをしたことは、ろーくんにも話しただろう? そして、少し変な感じだったということも」

「……ああ」


 俺は江藤からデートに関しても相談されていた。

 付き合ってから二人は放課後や祝日を使って一緒に出掛けたらしいのだが、なんというか上手くはいかなかったらしい。

 関係性が変わってすぐということでお互いにぎくしゃくとしてしまい、微妙な空気だったようなのだ。


「恋人のように接することも、以前のように接することも、今の僕達は難しい。そういった距離感を僕達はわからなくなってしまっているんだ」

「……だが、そういったものは時間が解決してくれるだろう。少しずつでも前進していくものなんじゃないか?」

「そうなのかもしれない。でも、もう何度も失敗してしまっているからね……そこで、ろーくんに力を貸してもらいたいんだ」

「俺に?」


 江藤の言葉の意味が、俺にはよくわからなかった。

 こいつが困っているというなら助けてあげたいとは思うが、一体それに関して俺がどのような手助けをできるのだろうか。

 別に俺は恋愛関係に関して秀でているという訳ではない。それをすぐに解決できる策など思いつかないのだが。


「別にろーくんは特別なことはしなくてもいい。ただ瀬川さんと一緒に、僕達のデートに同行して欲しい」

「それが、何になるんだ?」

「二人は、仲の良い幼馴染だろう? そんな二人を見て、僕も美冬姉も何かを掴めるかもしれない。はっきりと言ってしまえば、少し刺激が欲しいんだ」

「刺激か……」


 説明によって、江藤の考えはなんとなく理解することができた。

 つまり江藤は、同じ幼馴染という関係の男女を改めて見ることによって、自分達を見つめ直すことができると思っているのだろう。

 それに効果があるかどうかは、正直わからない。ただ別にそれを断る理由は俺にはなかった。江藤がそれを必要だと思っているなら、喜んで協力しようと思う。


「まあ、事情は概ね理解できた。でも、それだけではないんじゃないか?」

「……え?」

「正直に言ってくれ。これは俺のためでもあるんだろう?」

「……いや、それは」


 俺の質問に、江藤は言葉を詰まらせた。それはつまり、図星ということなのだろう。

 同じ幼馴染で恋人になった二人、江藤はそれで俺と由佳を刺激しようとしているのだ。俺の恋路を応援するために。

 途中からだが、俺はそれを理解した。もちろん言った通りの意味もあるのだろうが、わざわざ俺を誘ったのにはそういう意図もあったのだ。


「ありがとう」

「いやいや、これは僕自身のためでもあるんだから……」

「それでも嬉しいのさ」

「ろーくん……」


 俺は自然にお礼の言葉を口にしていた。

 なんというか、他に言葉が思い付かなかった。竜太や月宮もそうだが、こうして友人に恋路を応援してもらえるというのは、なんと幸せなことなのだろうか。


「まあ、由佳に聞いてみないことにはわからないが、その申し出はありがたく受けさせてもらいたい」

「ああ、よろしく頼むよ」

「頼むのは、こちらの方かもしれないがな……」

「いやいや、そんなことはないよ」


 俺としては、江藤の提案はとてもありがたかった。

 幼馴染でカップル。そんな二人を見たら、由佳の気持ちも何か動くかもしれない。それに俺自身だって、何かを発見できる可能性もある訳だし。

 ただ、由佳が受け入れてくれるかはわからない。図としては完全にダブルデートになる訳だし、行かないという選択を取る可能性もあるだろう。

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