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第56話 今週の日曜日はいつにも増してテンションが上がらない。

 最近俺は、日曜日を少しつまらないと思うようになっていた。

 元々次の日が学校であるということから土曜日よりはテンションが上がらない日ではあった。しかし、それでも休みだったので楽しくて仕方ない日であったはずだ。

 それがこのように感じられるようになったのは、やはり由佳に会えないからなのだろう。


「ふぅ……」


 ただ、今日テンションが上がらないのは別の理由もあるからだった。俺は、江藤のことが気になっているのだ。

 穂村先輩に告白すると言っていたが、それはどうなったのだろうか。無事に成功していればいいのだが。

 そもそも、両親との話し合いはどうなったのだろうか。それも特に連絡はなかったので、気になる所だ。


「……うん?」


 そんなことを考えていると、俺のスマホが音を鳴らし始めた。電話がかかってきたのだ。相手は、江藤である。


「……もしもし」

『もしもし、ろーくん?』

「ああ、俺だ」


 電話に出た瞬間、概ね結果はわかった。江藤の声が、明るかったからだ。

 しかしながら、それで確信ができるという訳ではない。仮に成功していなくても、後腐れない終わり方をしたというだけかもしれないし。

 そう思ったので、俺はできるだけ冷静になることを心掛けた。俺がぬか喜びして江藤を傷つけたりするのは、嫌だったからである。


「無事に終わったのか?」

『ああ、終わったよ』

「……結果は?」

『あ、うん……』


 俺の質問に対して、江藤は言葉を飲み込んだ。呼吸を整えているのがわかる。次の言葉を出すために間を置いたのだろう。

 それは結果がどちらであっても当然のことだ。成功していても失敗していても、一呼吸置かなければ、冷静に話すことはできないだろう。

 ただ、その一瞬の間は俺にとってとても長かった。数秒にも満たないはずの時間が、永遠のように感じられる。


『……成功したよ。美冬姉も、ずっと僕のことが好きだったって言ってくれた』

「……そうか」


 江藤の言葉を聞いて、俺の体はとても自然に動いていた。

 ガッツポーズなんてするのは、一体いつ以来だろうか。それ程に俺は喜んでいた。江藤の想いが届いたことが嬉しくて仕方ない。


「月並みの言葉しか言えないが、おめでとう」

『ありがとう、ろーくん。とても嬉しいよ』


 江藤は興奮を抑えたような喋り方をしている。やはり、まだ告白が成功したという熱が冷めていないのだろう。

 それも当たり前のことだ。そう簡単に冷静になれる訳はない。むしろ江藤がここまで抑えられているのが、すごいといえるのではないだろうか。


「……これで江藤と穂村先輩はめでたく付き合えたという訳だな?」

『付き合えた……ああ、そうなんだよね?』

「うん?」

『あ、その……お互いに好きだと言ったけど、よく考えたら付き合うとか付き合わないとかは言っていないような気がして……』

「まあ、お互いに好きなのだから、付き合うということなんじゃないか? ……ああ、いや」


 江藤の不安そうな声を聞いて、俺はあることを思い出した。

 よく考えてみれば、まだ俺はお見合いなどのことが解決したかを聞いていない。そちらに問題があった場合、好き合っていても付き合えないのかもしれない。


「お見合いの話は、どうなったんだ?」

『ああ、それに関しては解決したよ。好きな人がいるなら、別に問題ないって父さんは言ってくれた』

「それなら特に問題はない訳だし、付き合えるんじゃないか?」

『そ、そうだよね……よかった』


 江藤の言葉に、俺は安心していた。

 その問題も無事に解決したなら何よりだ。これで江藤と穂村先輩の間に障害はない。二人はきっと楽しい毎日を送れるだろう。

 そう思うと、少し江藤が羨ましくなっていた。いや、少しではない。正直、かなり羨ましい。


『えっと……それじゃあ、ろーくん。そろそろ切るよ。立浪とか、連絡したい人もいるからさ。ああ、父さんや母さんにも伝えた方がいいのかな?』

「……俺に最初に伝えたのか?」

『そうだよ。ろーくんには、一番に伝えたかったからさ……あの日、ろーくんは僕に勇気を与えてくれた。だから今度は、僕がろーくんに勇気を与えたいって、思っていたんだ』

「勇気……」

『ろーくんも頑張って……それじゃあ』

「あ、ああ……」


 江藤には、由佳とのことは言っていなかったはずだ。

 だが、多分見抜かれていたのだろう。竜太は俺のことをわかりやすいと評していたし、江藤にばれていても特に違和感はない。

 その上で、あいつは俺のことを激励してくれた。それがとても嬉しかった。なんというか、気合が入ったような気がする。


「羨ましいと思う前に、俺も行動しなければならないということか……うん?」


 少しやる気が出た俺は、スマホが再び音を鳴らし始めたことに気付いた。

 よく画面を見てみると、江藤と電話している間にも電話があったことが表示されている。

 かけてきたのは由佳だ。何度かかけていることから、急ぎの用であると考えるべきだろう。


「もしもし」

『あ、ろーくん。今、大丈夫?』

「ああ、大丈夫だとも。どうかしたのか?」

『あのね。実は、千夜のお母さん、まあ小百合さんなんだけど……今から、舞の家に来るんだ』

「ほう……」


 由佳の言葉に、俺は事情を大体理解することができた。

 つまり、今度は月宮の件が解決しようとしているということなのだろう。

 ただ、どうして由佳はこのタイミングで電話をかけてきたのだろうか。解決してから電話をかけてくるならわかるのだが。


『それでね、もしもろーくんが大丈夫だったら、こっちに来られないかな?』

「……俺が?」

『その……千夜がね、できれば見届けてもらいたいって言ってるんだ』

「……そうか。わかった。すぐに準備する。四条の家の住所を教えてもらってもいいか?」

『あ、うん』


 由佳に事情を説明してもらって、俺はすぐに決断していた。

 俺なんかが行っても意味がないなんてもう思わない。友達が俺にいて欲しいというなら、それを叶えよう。そう思ったのだ。

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