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第48話 幼馴染を独占したいという感情が俺の中にはある。

 昼休み、由佳が昼食の誘いをしてくるかもしれないと身構えていた俺は、それが杞憂であったことを理解した。

 先日ファミレスで食事をしたため、学校でも誘ってくる可能性はあると思っていた。だが、由佳も俺がまだ四条一派の竜太以外の男子と知り合っていないことを考慮してくれたのか、そういった誘いは遠慮してくれたらしい。


「まあ、いつも通り食堂に行くか……」


 俺は、ゆっくりと席から立ち上がり食堂に向かうことにした。

 別に一人が寂しいという訳ではない。それに関しては、もう慣れている。

 そもそも、例え由佳が誘ってくれても俺は断っていた。やはり、竜太以外の男子がいると気まずいと思うからだ。


「……うん?」


 廊下に出た俺は、見慣れた髪色を見つけて足を止めることになった。

 その髪色の人間はこの学校には他にいないため、その人物は間違いなく由佳である。彼女は、廊下で足を止めて男子と話をしている。その人物は、四条一派とは関りのない人物だ。


「あいつは……」

「うん? 九郎?」

「あ、竜太……」


 思わず曲がり角に隠れて由佳のことを見ていた俺は、竜太に声をかけられて少し驚くことになった。

 どう考えても、これは覗き見の体勢である。それが見つかってしまい、少々罰が悪い。


「何をやっているんだ? おっと……あれは由佳と江藤(えとう)か?」

「……ああ」


 由佳と話をしているのは、同じクラスの江藤晴臣(はるおみ)という男子生徒だ。

 その男のことは、俺もよく知っている。彼はこの学校において、四条一派と同じくらい有名な生徒だからだ。


 江藤は、サッカー部のエースである。一年の時からレギュラーであり、その才能はかなりのものであるらしく、しかも容姿も端麗で性格も良いそうだ。

 運動部の花形でイケメンでおまけに優しい江藤は、女子生徒からかなり人気がある。だが、江藤にはどうやら想い人がいるらしく、誰の告白も受け入れていないようだ。


「まさか、江藤の想い人とは由佳なのか……?」

「うん? ああ、いや、そうではないさ」

「え?」


 俺が思わず呟いた予想を、竜太ははっきりと否定してきた。

 極めて自然で断定的な否定の言葉であったため、何かしらの確信があっての言葉なのだろう。それが理解できて、俺はほっとする。江藤が恋敵であったら、かなり手強い相手だと思っていたからだ。


「……って、どうしてそんなにはっきりと否定できるんだよ?」

「それは俺があいつの想い人が誰であるかを知っているからだな」

「そ、そうなのか?」

「ああ、以前に本人から聞いたことがある。まあ、それはあいつの名誉のためには言わないが……」


 竜太は二人の様子を見ながら、俺にそう言ってきた。

 本人に聞いたのなら、それはもう間違いないだろう。まさか、わざわざ嘘を言う訳もあるまいし、江藤の想い人は由佳ではないと考えるべきだ。

 しかし、竜太と江藤がそこまで親しいということは知らなかった。一年の時に同じクラスだったとかではなかったような気がするのだが、どこかで繋がりがあるのだろうか。


「……由佳はなんだか楽しそうだな?」

「うん? ああ、まあ、そうだな……」


 江藤と話す由佳は、なんだかとても楽しそうだった。

 由佳の笑顔は今まで何度も見てきたが、あれは心からの笑顔であるように思える。その笑顔が江藤に向けられているのが、少し辛い。

 由佳が分け隔てのなく優しく明るい性格であるということはわかっていた。しかし、やはりそれを実際に見せられると色々とくるものがある。

 それはきっと、俺が自分の想いを認めたからなのだろう。嫉妬という感情が、俺の中で明確に芽吹いてしまっているのだ。


「まあ、由佳は誰にでもあんな感じなんだよな……」

「……妬いているのか?」

「……ああ、少しな」


 竜太の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。

 由佳を独占したい。俺は強くそう思っている。それは随分と前からわかっていたことだ。

 わかっていたが、諦めによって蓋をしていた。それが再熱してしまっているらしい。


「九郎、いいことを教えておいてやる。由佳のあの笑顔は、普通の笑顔ではない」

「……何?」

「あれは特別な笑顔だ。あることを話している時、由佳はあのような笑顔になる」

「と、特別な笑顔って……」


 いいことを教えてやると言われたが、これは果たしていいことなのだろうか。

 特別な笑顔を江藤に向けている。それはバッドニュースだ。いや、もちろん俺が知っておいた方がいい情報ではあると思うが。


「九郎、最後まで聞いてくれ。あの笑顔はな、ろーくんのことを話している時にする笑顔なんだよ」

「ろーくん……つまり、俺のことか?」

「ああ、そうだ。それだけ由佳にとって、ろーくんは特別ということだ」

「な、なるほど、それは嬉しいな……うん?」


 由佳が俺のことを話す時に特別な笑顔になってくれるという情報に、俺は舞い上がった。

 しかし、そうなると疑問が湧いてくる。どうして、由佳が江藤とろーくんの話をしているのだろうか。


「やっぱりその予測は間違っているんじゃないか? 由佳が江藤に俺の話をするとは思えない」

「いや、大抵の知り合いにしているぞ?」

「そ、そうなのか……いや、でも、そもそも江藤と由佳に関わりがないんじゃないか?」

「まあ、それはそうだな……でも、別に些細なきっかけで話すことにはなるだろう?」

「些細なきっかけで、俺の話に?」

「……確かに、どういう流れで九郎の話になったんだろうな?」


 俺の言葉に、竜太も首を傾げていた。

 廊下で偶々話すことになったクラスメイトに昔の幼馴染の話をする。そんなことがあり得るのだろうか。

 無論あり得ない訳ではないだろうが、どうにもしっくりとこない。俺としては竜太の言葉を信用したいのだが、やはり単純に江藤と話すのが楽しいということなのだろうか。


「ろーくん?」

「……え?」

「何してるの? 竜太君も一緒だし……」


 そんなことで悶々としていた俺は、由佳と江藤がいつの間にかこちらに近づいていたということにまったく気付いていなかった。それは竜太も同じらしく、驚いた顔をしている。

 なんというか、とても気まずい。そもそも覗き見していたのも悪いことではあるし、俺は一体どうしたらいいのだろうか。


「……うん?」

「……」


 そこで俺は、俺のことを驚いたような顔で見てくる江藤の視線に気付いた。

 どうして、そのような顔を向けられなければならないのだろうか。俺が覗き見をしていたことに対するリアクションならもう少し適切なものがある気がするし、その顔の意味が少しわからない。

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