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第47話 俺はこの場にいてもいいのかもしれない。

「まあ、家のことはこれからゆっくりと考えさせてもらうからさ。その……皆、色々とごめんね」

「別にそんなことは気にすることではないわよ」

「うん。迷惑なんて全然思ってないよ」

「千夜が荒れていた原因は私にもあるし、謝罪なんて必要ないかな?」

「まあ、俺は九郎に呼ばれただけだからな」


 俺を少しからかった後、月宮はゆっくりと頭を下げた。

 今回俺達は迷惑をかけられた謝罪がしたいということで呼び出された。それを果たしたということだろう。


「……」

「うん?」

「ろーくん、何か言ってよ」

「え?」


 そこで月宮の視線が俺の方を向き、そのようなことを言ってきた。

 確かに考えてみれば、俺だけ何も言っていない。流れからして、それはおかしかったかもしれない。それで月宮も心配になったということだろう。


「まあ、俺も気にしてはいないさ」

「そう? それなら良かったけど」


 俺の言葉に、月宮は笑顔を見せてくれた。大したことは何も言えなかったので、なんというか大袈裟な反応のようにも思える。

 ただ、俺の一言だけでこんなにも笑ってくれるというのは嬉しかった。無論、その笑顔は別に俺の言葉だけでもたらされたものではないだろうが。


「さてと、話は終わったし何か食べようよ。ろーくんじゃないけど、今日はおごってもいいよ? 迷惑かけたお詫びとして」

「竜太じゃないけど、そんなの必要ないわよ」

「まあ、それならそれでいいけど、でもせっかくだから私は何か頼むよ?」

「千夜が食べたいだけって訳ね」

「まあ、そういうこと」


 月宮はメニュー表を見ながら、楽しそうにしていた。謝罪の時間は終わり、いつも通りの月宮になれたのだろう。

 色々と心配していたが、これならもう大丈夫そうである。それがわかった以上、俺がこの場にいる必要もないだろう。


「さて……」

「九郎? どうかしたのか?」

「いや、話が終わったというなら、俺はそろそろ帰らせてもらおうと思ってな」


 俺が鞄を手に取ると、隣にいた竜太がいち早く反応した。

 タイミングを見計らって帰ることを言い出そうと思っていたが、そのおかげでスムーズに言葉が出てきた。タイミングを見計らうのは正直苦手だったので、これはとてもありがたい。


「ろーくん、帰っちゃうの?」

「え? いや、俺がこれ以上ここにいる意味はないだろう」


 気楽なことを考えていた俺は、由佳の言葉で固まることになった。

 なんというか、彼女はとても寂しそうにしている。俺がこの場からいなくなることを悲しんでくれているということだろうか。

 それはもちろん嬉しいのだが、本当に俺がここにいる意味は最早ない。月宮の謝罪が済んだのなら、後は四条一派の時間である。そこに俺が入るというのも違うだろう。


「……別にいればいいじゃない」

「……何?」

「いる意味とか、そんなの一々考える必要があるの?」


 俺の言葉に返答してきたのは、四条だった。

 彼女はいつも通り意味がわからないというような顔をして、俺を見てくる。

 だが、四条も慣れてきたのだろうか。なんというか、今までよりは少し口調や態度が優しいような気がする。


「私は藤崎に帰らないで欲しいな。せっかくだから色々と話したいし……」

「あ、そうだ。涼音とどんな話をしていたのか聞かせてよ」

「呼び出しておいて帰るなんて、あんまりじゃないか?」


 水原も月宮も竜太も、口々にそのように言ってきた。

 どうやら、俺はこの場にいることを由佳以外からも望まれているようだ。四条一派ではない俺を受け入れてくれているらしい。

 それなら、ここに留まってもいいのだろうか。そんな気持ちが、俺の中に芽生えてくる。


「ろーくん。私はろーくんがいてくれると嬉しいな。出来上がったグループに入れないってろーくんは思っているのかもしれないけど、もう皆ろーくんにとって知らない人ではないし、大丈夫じゃないかな?」

「それは……」


 由佳の言葉に、俺は一度周囲を見渡した。

 確かにここにいる者達とは、既に知り合いといえる関係である。出来上がったグループではあるが、個々と知り合っているのだから、この場にいて気まずいということもないのかもしれない。


「……まあ、そうだな。邪魔にならないというなら、いさせてもらうことにしようか」

「うん。ありがとう、ろーくん」

「……いや、お礼を言われるようなことではないさ」


 結局俺は、その場に留まることにした。もう大丈夫だと思えたからだ。きっと今の俺なら、ここにいても問題はないはずである。


「ふふっ……由佳ってわかりやすいよね?」

「え?」

「そうだね。笑顔になってる」

「そ、それはその、ろーくんがいてくれるから嬉しくて……」


 月宮と水原に指摘されて、由佳は顔を赤らめていた。

 俺がいることで喜んでくれるのが嬉しくて、俺は思わず笑ってしまう。

 だが笑ってしまってから、俺は月宮の視線に気づいた。彼女は、にやにやとしながらこちらを見ている。そこから何が起こるかは言うまでもない。


「ろーくんも嬉しそうだね?」

「あ、いや、それは……」

「由佳が喜んでくれて嬉しいの?」

「そ、それはまあ、そうだが……」


 月宮は、予想していた通りの言葉をかけてきた。

 ただ、わかっていても特に対策とかはなかったので、俺はいつも通り動揺しながら受け答えることしかできない。


「……由佳もろーくんも、結構素直だね」

「え?」

「そ、そうかな?」

「普通、そういう時は否定したり誤魔化したりするものなんじゃないの?」

「そういうものなのか?」

「よ、よくわからないけど、そうなのかな?」


 月宮の少し不満そうな言葉に、俺と由佳は顔を見合わせた。

 俺達の受け答えは、月宮からすると普通ではなかったようである。だが、あまりよくわからなかった。こういう時にする普通の返答とは、一体どういうものなのだろうか。

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