第31.5話 親友からの連絡④(舞視点)
『だからね。今日はすごく色々とあった一日だったんだ』
「そ、それはすごいわね……」
由佳からあいつとのデートの結果を聞いて、私は少し困惑していた。
今日という一日の間で、二人の間では色々なことがあったようだ。結果的に上手くまとまったらしいのだが、なんというか腑に落ちない部分が多い。
「……由佳、一つ聞いてもいい?」
『うん? 何?』
「抱き合ったのよね? しかも、由佳から要求して……観覧車の時は、非常事態だったみたいだけれど、その時は違ったのに。それに道中は手を繋いでいたっていうし……」
『あ、うん。そうだよ? 私からろーくんに抱きしめて欲しいって言ったし、帰る時はずっと手を繋いでた』
「……それで、付き合ってはいないの?」
『うん、それは残念ながら……』
男女で手を繋いだり抱き合ったりしておきながら、この二人はまだ付き合っていないようだ。それは、なんだか違和感がある。
しかも、道中はずっと手を繋いでいたとも聞いた。それらの行為は、普通は
一般的にそれは明らかにおかしい。親しい幼馴染であるため、その辺りが麻痺しているということなのだろうか。
『でも、これからはさ、抱きしめて欲しいって言えるようになったし、手も繋いでもらえるようになったし、これは大きな一歩だよね?』
「そ、そうね……」
私は、とりあえず由佳に同意しておいた。それでいいのかとも思ったが、わざわざ喜んでいる所に水を差すのはよくないと思ったのだ。
それらのやり取りは奇妙ではあるが、少なくとも由佳にデメリットはない。愛する人に抱きしめられているのだから、彼女はただ幸せなだけだろう。
あいつからしても、由佳のような可愛い子を抱きしめられるのだから、断る理由がないということなのだろうか。もしくは由佳に対する親愛から、そういう行為をしているということなのだろうか。
『ろーくん、あったかかったな……話してたら、また抱きしめてもらいたくなっちゃった……』
「……小さな頃は、そんな風によく抱きしめてもらっていたの?」
『え? あ、うん。そうだよ? 出かける時は手を繋いでたし、小さな頃に少しだけ戻れたって感じかな?』
「そう……」
恐らく、由佳とあいつは幼少期の頃の思い出が色濃く残っており、それによって従来の男女とは少々違う関係性なのだろう。
だから、これ以上今回のことは気にしないことにする。別に悪いことという訳でもない訳だし、由佳の言う通り一歩前進したくらいに思っていればいいのだろう。
『でも、少し心配なんだよね……』
「心配? 何が?」
『ろーくん、私のことをちゃんと女の子として意識してくれているのかな? 家族……妹みたいな感じに思われてないかな?』
「さあ、どうでしょうね……」
由佳は、ずっとあいつに女の子として意識されているかを気にしていた。
あいつの由佳に対する感情、それは私の中で未だに謎である。
間違いなく大切に思っているが、異性として見ているかは不明。私の中でのあいつは、そんな感じだ。
『今日最初に抱きしめてくれた時ね、なんだかあんまり意識している感じじゃなかったんだ……まあ、あれは非常時だったからそうだったのかもしれないけど』
「由佳から提案した時はどうだったの?」
『少し照れていたような気がする。でも、それは単純に大きくなったのに小さな頃のように抱きしめるのが恥ずかしいって、だけかもしれないし……』
「はあ、あいつは相変わらず色々とわかりにくいのね……」
あいつは、わかりやすい反応はしなかったようである。そういう所が、あいつの難しい所だ。
とはいえ、どちらにしてもあいつと抱き合えるようになったというのは由佳にとって大きなアドバンテージとなるだろう。その状況は、由佳が女の子であると示すのが容易い状況であるのだから。
「由佳、あいつがどう思っているかはわからないけど、あいつと触れ合えるようになったというのは、由佳にとって有利に働く事柄なのよ?」
『そ、そうなの?』
「ええ、抱き合っている時に、あいつに徹底的に由佳が女の子だってわからせればいいのよ」
『そ、それって……』
電話の先で、由佳が照れているということがわかった。照れているということは、何をすればいいかは理解しているということだろう。
「大胆にいった方がいいわよ?」
『う、うん……』
「あいつが由佳のことをどう思っていても、それは有効なはずよ。意識していないなら意識するようになるかもしれないし、意識しているならもちろんドキドキさせられるでしょうし」
『そうだよね……うん、頑張ってみる』
由佳とあいつの関係性は、今日で一歩前進した。だが、由佳が望んでいるのはもっと先の関係性である。
そうなるための努力を彼女は惜しまないだろう。それなら私は、それを手助けするだけだ。
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