表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/226

第31話 俺の想いはあの頃と変わっていない。

『なるほど、今日は充実した一日だったみたいだな……』

「ああ、正しくその通りだ」


 家に帰って、無事に着いたことを由佳に報告した後、俺は竜太に電話をかけていた。

 今回、竜太には事前にアドバイスをしてもらった。そのお礼をするために電話をして、ついでに今日何があったかも話したのだ。

 竜太は、俺の話を真剣に聞いてくれた。そんな奴だからこそ、俺も色々と話すことができたのだと思う。


「なあ竜太、俺はさ。由佳からずっと逃げようとしていたんだ」

『……ああ、そうだったんだろうな』

「どうして逃げていたのか、その理由は単純だ。嫌われたくなかったんだ。落ちぶれてしまった俺を見て、由佳が俺を嫌いになるとそう思っていた」

『……なんとなくそんな気はしていたよ』


 俺は由佳に嫌われることを恐れていた。だから、彼女とは会わないようにしていた。両親にも頼んで、その関係を断ち切ろうとしたのだ。

 結局の所、俺は由佳を信じることができていなかったのである。彼女がそれくらいで俺のことを嫌いなるなんて、そんなのはわかっていたはずなのに。


「いや、俺は由佳の前ではヒーローでいたかったのかもしれない。嫌われるとかそんなことは関係なく、その事実を知られることが耐えられなかったのかもしれない」

『それは仕方ないことさ。恥じるべきことではない。お前は頑張っていたんだ。それに、今のお前はそれに耐えられるようになった。きっと時間が必要だったのさ』

「そう言ってもらえるのは嬉しいが、俺は結果的に由佳を悲しませてしまった。俺は由佳の笑顔が一番好きだったはずなのに……」

『……それなら、これからを変えていけばいい』

「……ああ、そうなんだろうな」


 どんなに足掻いた所で、過去が変えられる訳ではない。だから俺は、未来をかえていかなければならないのである。

 俺の望みはただ一つだ。由佳に笑顔でいて欲しい。ただそれだけなのである。

 どうしてそう思うのか、それを俺はもうわかっている。今まで考えないようにしていたが、俺の気持ちはあの頃からまったく変わっていないのだ。


「……あのさ、竜太。俺は、由佳のことが好きなんだよ」

『うん? ああ、そうだな』

「……うん?」


 俺が結構勇気を出して口にした言葉に対して、竜太はとても素っ気ない返答を返してきた。

 もしかして、聞こえていなかったのだろうか。俺はかなり重要なことを口にしたはずなのだが。


「なんだか反応が悪いな?」

『あ、いや、すまない……なんというか、知っていたから特に驚きがないというか……』

「何?」


 竜太の言葉に、俺は驚いた。まさか、ばれているなんて思っていなかったからだ。

 いや、しかしよく考えてみれば、聡いこいつなら気付いていてもおかしくはないような気もする。


「そういうのって、本当にばれるものなんだな……」

『いや、九郎の場合はわかりやすかったというか……』

「わかりやすかった? そ、そんなに?」


 わかりやすいとまで言われてしまって、俺はまた動揺してしまった。

 そんなに露骨な態度などあっただろうか。そんな覚えはないのだが、なんだか少し心配になってくる。


『ああ、まあ……由佳や舞なんかは、気付いていないのかもしれないが』

「なんだ、それなら竜太がすごいというだけか……」

『いや、あの二人が少し鈍いというか……おっと、これはまずいな』


 竜太の声色が、そこで変わった。自分が今何を言ったのか、理解したのだろう。

 今のは、失言である。もしも四条に聞かれたら、大変なことになりそうだ。


『こ、このことは舞にはどうかご内密に……』

「いや、もちろん言わないさ……やっぱり、心配なんだな?」

『それはもちろん、舞は怒ると怖いからな……』

「ああ、それはよく知っている」


 竜太にとっても、やはり舞はそれなりに怖い対象であるようだ。前に俺が怒られていた時は助けてくれたような気がするが、あれは結構勇気を振り絞っていたのかもしれない。


「……交換条件という訳ではないが俺の気持ちのことも黙っていてくれよ? まあ、今までわかっていながら何も言わなかったのだから、問題はないと思うが」

『それはもちろん。無粋な真似をするつもりはないとも』

「ああ、お前のその言葉は何よりも信頼できる」

『いや、それは大袈裟じゃないか?』


 竜太はこう言っているが、俺はこいつのことを信頼できる男であると思っている。だから、俺の想いは必ず黙ってくれているはずだ。


『……というか、告白とかを今すぐするつもりとかはないのか?』

「え? 今すぐ? いや、それは流石に……」

『そうか。まあ、そういうのは折を見てという奴だな』

「こ、告白というのは、一体いつするべきなんだ?」

『いや、それは人に依るんじゃないか?』

「ひ、人に依るのか……」


 告白という言葉を聞いた瞬間から、俺は動揺していた。

 確かに、俺は由佳のことが好きなのだから、何れは告白するということになるのだろう。

 だが、そのタイミングというものがわからない。一体、いついかなる時に告白をすればいいのだろうか。


『とりあえず告白するという奴もいるだろうし、確信が持てたら告白する奴もいるだろう。まあ、告白したらどちらにしても関係性は変わる可能性が高いから、慎重に考えるべき事柄なのだとは思うが……』

「……なるほど、まあ色々と考えてみるとしようか」

『ああ、大いに悩むといいさ』


 どうやら、告白のタイミングというものは案外複雑であるようだ。

 現状、告白しようとはあまり思えない。それはやはり、由佳が俺のことをどう思っているか、まだよくわかっていないからなのだろう。

 大切に思われているのは、間違いない。ただ、果たして俺は男子として見られているのだろうか。


 今日、俺は由佳と抱き合った。というか、彼女の方から要求もされた。だが、これは男子として意識されていないからこその提案であるような気がする。

 意識しているなら、そういう要求をするのはおかしいのではないだろうか。少なくとも、俺は由佳にそんな提案を気軽にすることができない。


 なんだか訳がわからなくなってきた。由佳は、俺のことをどう思っているのだろうか。それが気になって仕方ない。

 そういうのがある程度理解できたら、告白できるということなのだろうか。

 とりあえず、男子として意識されているのかどうかを確かめる。それが俺の当面の目標ということになるだろうか。

最後までお読みいただきありがとうございます。


よろしかったら、下にある☆☆☆☆☆から応援をお願い致します。


ブックマークもしていただけるととても嬉しいです。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ