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第24話 昔も今も俺は臆病だったのかもしれない。

「ろーくんはさ、由佳と幼馴染なんだよね?」

「ああ、そうだ。家が近所で、物心つく前に俺達は出会っていたらしい」

「ふぅん。それじゃあ出会いは覚えてないんだ?」

「そういうことになるな。気づいたら一緒にいたんだ」


 月宮の質問に、俺はゆっくりと答える。その辺りのことは、両親から聞いただけなので、俺もよくわかっていないのだ。

 由佳との思い出は、俺の中に刻まれている。だが、流石に出会った頃の記憶はない。物心つく前の記憶なんて、由佳に限らず覚えてないのだ。

 ただ、その頃から俺達は仲が良かったと両親は言っていた。俺も由佳も、ずっと一緒にいようとしたらしい。


「……あれ? なんか赤くなってない?」

「い、いや、なんでもない……」

「ふふ、何か思い出したんだ?」

「……まあ、そうだが」


 そんな時から一緒にいたという事実に、俺は思わず照れていた。それを月宮は、嬉々として指摘してくる。なんというか、本当に楽しそうだ。


「私もね。涼音とは結構長い付き合いなんだ。小学校からの友達だけど、それも幼馴染って言っていいのかな?」

「まあ、いいんじゃないか。別に幼馴染という言葉に明確な年齢があるとは聞いたことがないし」

「そっか。それなら、涼音は私の幼馴染ってことだね」


 月宮と水原の付き合いは、かなり長いようである。小学校からということはもう十年以上になるだろう。

 それは、とても長い期間である。それだけ長い間仲が良いということは、余程相性が良かったということだろうか。


「ろーくんは、由佳とどんな感じだったの?」

「どんな感じ?」

「色々とあるでしょ? 引っ張られていたとか引っ張っていたとか」

「ああ、そういうことか……」


 月宮の質問の意図は理解できた。俺と由佳との関係性、それはかつて今とは少し違う感じだったような気がする。


「由佳は明るい子だったんだが、人と関わることにあまり積極的ではなかった。内弁慶というのが、正しいのだろうか。俺の後ろとかによく隠れていた」

「ああ、確かにそれは由佳から聞いたことがあるかも」


 昔の由佳は、身内に対してはとても明るい子だった。

 しかし、彼女は人見知りが激しかった。外に出て知らない人に会うと、大抵は俺の後ろに隠れて、その人と関わらないようにしていたのだ。


「でも、信じられないな。だって由佳は、そんなに人見知りとかしないし」

「そうだな。そういう部分は、随分と変わったものだ……まあ、でもそういう部分は小学校に入った頃くらいにはもうなくなっていたような気もするな。由佳はクラスの女子とも仲が良かったはずだし」


 由佳の人見知りは、段々と改善されていったのだろう。成長するに連れて、高いコミュニケーション能力を身に着けたのだ。

 逆に俺の方は、友達すらいない有様である。いつの間にか、俺達の性格というのは反対になっていたようだ。


「ただ少なくとも小学校に入る前まで、俺は由佳を守っていた……いや、守っていたなんていうのは大仰か」

「うーん……まあ、守っていたでいいんじゃない? 実際に、由佳はろーくんの後ろに隠れていた訳でしょ?」

「そうだな……」

「ろーくんは人見知りとかしなかったの?」

「……ああ、あの頃の俺は、そんなに人見知りするタイプではなかったな。今思えば、由佳が後ろにいるからそうなれたのかもしれない」


 昔の俺は、同年代であろうが大人であろうが、まったく人見知りすることがなかった。むしろ、積極的に話していたような気もする。

 それがどうしてこうなってしまったのだろうか。あのまま成長していれば、結構いい男になれた気がするのだが。


「ふふ、そういう部分は今も同じなんじゃない?」

「同じ?」

「ろーくん、私が由佳の友達じゃなかったら、こんな風に話さなかったでしょ?」

「それは……」


 月宮の指摘に、俺は驚いていた。確かに俺は彼女と一緒に歩く際に、由佳の友達だからと考えた。

 つまり、俺は幼少期の頃も今も由佳が関わっていると積極的になれるということなのだろうか。それはそれで、なんだか情けないような気がする。


「別にそんな顔しなくてもいいんだよ? 守りたい者のために頑張っているってことなんだから、むしろ誇っていいくらいじゃん」

「いやだからそんな大そうなものじゃないんだよ」

「そうかな?」

「単純に俺は由佳の悲しむ顔が見たくないというだけで……まあ、それに関しては一度大きな失敗をしている訳ではあるが」

「やっぱりそうなんじゃん」


 月宮は、自分の意見を決して曲げなかった。しかし、俺はどうも自分がそんな立派な思考をしているとは思えない。

 結局の所、俺は臆病なだけなのだろう。由佳と再会して彼女が俺に冷たい視線を向けてくるのが怖くて逃げて、今は由佳の悲しむ顔が耐えらないからそうならないようにしているだけだ。

 幼少期の頃も、もしかしたらそうだったのかもしれない。俺は自分が可愛くて、自分勝手に行動しているだけなのだろう。


「なんかいいよね。そういうの……私も、ろーくんみたいな幼馴染がいてくれたら、色々と変わっていたのかな?」


 月宮は少し悲しそうな表情をしながら、そう語っていた。

 俺なんかにそんな力はないと否定しようと思ったが、それはやめておく。多分今のは、俺に向けられた言葉ではないからだ。

 きっと彼女にも色々とあるのだろう。俺なんかが必要だったと思うくらいの何かしらが。


「あ、所でさ。今日は由佳とどこに行くの?」

「……それは知らない」

「……知らない?」


 ふと思いついたといった感じの質問に対する俺の答えに、月宮は目を細めた。

 そういう反応をされることはわかっていた。だが、知らないものは知らないのだから仕方ない。


「由佳に任せることにした。俺は友人と出かけたことなんてないから、どこに行けばいいのかがわからない」

「あ、そうなんだ……」

「どこに行くと思う?」

「うーん……由佳でしょ? あ、例えば、ろーくんとの思い出の場所とかじゃない」

「思い出の場所、か……」


 月宮の回答は、的を射ているような気がした。由佳なら昔と同じように遊びたいとそういった場所を選びそうである。

 俺達がかつてよく遊んでいた場所といえば公園だ。だが、流石にこの年になってそこに遊びに行くというのは考えにくい。

 それなら、両親に連れて行ってもらった場所だろうか。遊園地や動物園、候補としては色々とある。


「まあ、なんとなくだけど由佳は遊園地とか行きそうだよね」

「遊園地か、もう長らく行っていないな……」

「お化け屋敷とかいいんじゃない?」

「お化け屋敷? 何故?」

「由佳が抱き着いて来るかもよ?」

「……」


 月宮の言葉に、俺は何も言えなくなった。

 由佳が抱き着いてくる。その非常に魅力的な提案が、俺の思考を麻痺させたのだ。


「……観覧車なんかもいいよね? 密室に二人きりだし。ジェットコースターは……まあ、吊り橋効果が期待できるかもね」

「……」

「ろーくん、色々と想像してる?」

「い、いや、そういう訳ではないさ……断じて違うとも」


 遊園地というのは、そんなに素敵な場所だったのだろうか。俺は自らの認識を少し改めることになった。

 しかし、そんな邪な考えではいけない。俺は頭の中にある煩悩をなんとか振り払うのだった。

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