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第23話 待ち合わせの時間より早く来すぎてしまった。

「……俺は馬鹿だ」


 現在の時刻は八時二十五分、由佳との待ち合わせ時間である十時から、実に一時間半程前である。

 昨日変に気を張る必要はないと結論を出したはずだったのだが、俺は気付くと家を出ていた。当然、待ち合わせ場所に由佳はおらず、俺は自分の愚かさを痛感していた。いくらなんでも早く家を出過ぎだ。


「コンビニくらいしか開いていないし……」


 待ち合わせの時間まで暇を潰そうと思っても、朝早いため開いている店もあまりない。本当に、俺は何をやっているのだろうか。


「……うん?」


 そう思いながら周囲を見渡していた俺は、見知った顔を発見した。

 黒い髪に、赤いメッシュ。かつて教室で、俺を辱めた月宮千夜がそこにはいたのだ。

 無論、彼女が暮らしているのも当然この近くであるため、別にいてもおかしくはない。ただ、彼女が一緒にいる人物は少々女子高生には似つかわしくない人物だ。


「……父親という感じではないよな?」


 月宮の隣にいる男性は、四十代くらいに見える。普通に考えれば、それは父親や親戚と考えるべきだろう。

 だが、どうもそんな感じではない。男性は、月宮に何かを懇願しているように見える。そのためか立場が低いように思えるのだ。


「月宮、か……」


 そこで俺は、学校で聞いている噂のことを思い出す。

 月宮千夜は、遊び人だと聞いたことがある。ここでいう遊びというのは、男性関係だ。もしかして、あれもその一環ということなのだろうか。


「……まあ、俺には関係のないこと、でもないか」


 月宮は、由佳の友達である。彼女に何かあったら、由佳だって悲しむだろう。

 由佳の悲しむ顔なんて、俺は見たくない。という訳で、なんとか月宮を助け出したい所だ。

 そう思って歩き始めた俺だったが、具体的な方法は思いついていなかった。こういう時は、どうすればいいのだろうか。


「あ、ろーくんじゃん!」

「え?」


 そんなことを考えていた俺に、月宮は手を振ってきた。

 よくわからないが、俺は手を振ってみる。月宮が今相手しているのが誰かはわからないが、知り合いが来たら流石に引くだろう。

 結果として、それは効果があったようだ。男性は、気まずそうにしている。


「丁度いい所に来てくれた……行こっ!」

「行く? どこに……」


 俺の答えを聞く前に、月宮は俺の手を取っていた。

 女子と手を繋ぐなんて経験がなかった俺は、その手の柔らかさに少し鼓動を早めながらも、月宮に引っ張られていく。

 彼女はとにかく男性から距離を取りたいらしく走る。由佳との待ち合わせ場所からはどんどんと離れていくが、まだまだ約束の時間ではないので特に問題はないだろう。


「ここまで来れば、大丈夫かな……?」


 ある程度距離を取ってから、月宮は走って来た方を見ていた。その間も、俺と手は繋がれている。


「ああ、ごめんごめん」

「あ、いや……」


 その手を見つめていたからか、月宮は俺から手を離した。

 しかしながら、俺の心臓はまだドキドキしている。温かかった。そんな感想を抱く自分がなんだか気持ち悪い。


「……えっと、これは一体どういうことなんだ?」

「うん」

「うん……?」


 俺の言葉に、月宮はスマホを見ながらゆっくりと頷いた。

 恐らく俺の言葉は聞こえていない。意識がスマホに向いているのだろう。

 なんというか、それは少々失礼な態度のように思える。巻き込んでおいて、この扱いなのか。


「ああ、もう……」

「む……?」


 月宮は、スマホで何かを入力しながら険しい顔をしていた。どうやら、何か問題が起こっているようだ。

 失礼な態度であると思っていたが、これがいつもの月宮という訳ではないのかもしれない。今は非常事態といった所だろうか。


「……はあ」

「……終わったのか?」

「……ああ、ごめん! ろーくんのことを放っちゃってたね?」


 区切りがついたらしき所で話しかけてみると、普通に答えてくれた。やはり、普段は悪い奴という訳ではなさそうだ。


「それで一体何があったんだ?」

「うーん……まあ、それは秘密ってことで」

「秘密……まあ、無理に聞こうとは思わないが」

「ありがとう。ろーくん、優しいね。流石は由佳が見込んだ男の子って感じ」

「む……」


 そこで俺は、以前に月宮と教室で会った時のことを思い出していた。

 なんというか、色々と辱められたような気がする。もしかして、これからまたそれが起こるのではないだろうか。そんな恐怖が過ってくる。


「……確か、ろーくんは今日由佳とデートだったよね?」

「デ、デートなのだろうか?」

「デートでしょ?」

「……まあ、一緒に出掛けるというのは事実だ」

「ふふ、何それ?」


 俺の言葉に、月宮は笑う。デートだと頑なに認めなかったから、笑われたということだろうか。

 やはり、彼女は俺を辱めてくるタイプである。このまま話していると、なんだか恥をかきそうだ。


「……でも、こんな時間に待ち合わせなの?」

「いや、時間はまだそれなりにあるが……」

「あ、早く来すぎたんだ? 浮かれているんだねぇ」

「べ、別にそういう訳じゃ……」

「それならなんで早く来たの?」

「そ、それは……」


 月宮の質問に対して、俺は何も言えなくなっていた。その理由は単純である。浮かれて早く来たという言葉を否定できない自分に気付いたからだ。


「まあ、別に悪いことではないでしょ。待ち合わせは何時なの?」

「じゅ、十時だが……」

「十時か、まだ結構時間あるね」

「まあ、そうだな」

「それならさ、少し歩かない? 助けてくれたお礼に、デートの秘訣とか教えてあげるよ?」


 月宮はウインクをしながらそう言ってきた。

 デートの秘訣とやら、個人的に気にならない訳ではない。しかし、今日はいつも通りでいいと竜太から言われている。そのため、それは必要ないような気もする。

 それに、月宮と歩くというのもどうなのだろうか。ずっと辱められるような気がしてならない。


「……別に歩くのはいいが、今日は竜太からいつも通りでいいと言われている」

「あ、そうなの? まあ確かにそれでいいのかもしれないけど、なんだかつまんないなぁ……」


 とはいえ、月宮の提案を断るのはなんだか気が引けた。由佳の友達が友達であるとは思っていないが、それでも彼女の友人を無下にしたいとは思わない。そもそも、どうせ俺は暇なのだし。


「まあ、せっかくだから色々と話そっか」

「……ああ」


 月宮の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。

 とにかく彼女と歩いて時間を潰すとしよう。そうしている内に浮かれていた気持ちも落ち着いてくれるかもしれないし。

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― 新着の感想 ―
[一言] 自分は面倒な性格ではないと思うけれど流石にピンク髪は。。。 好きに楽しく生きてて欲しいとは思うけれど関わりたくないです(先入観おんりー)
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