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第18話 過去のことを打ち明けるのはつらい。

 失敗を重ねてしまうことは、もうこの際仕方ないことのように思える。

 元々、俺という人間は優れた人間であるという訳ではない。いつかボロは出ると思っていたのだから、それに一々落ち込んでいたらきりがないだろう。


 という訳で、俺は昨日の失敗を引きずらずに学校に来た。すると由佳の方も昨日の微妙な態度は消え去っており、俺達は表面上は普通の関係に戻った。

 ただ、由佳の中の俺の評価は多少変わっているかもしれない。今の所、それが表面上に現れていないだけで。


「九郎、少しいいか?」

「む?」


 そんなことを考えながら過ごしていた日の昼休み、竜太が話しかけてきた。

 四条よりも相性が良いとは思っているが、こいつも結局は違う世界の住人である。そのため、俺は身構えてしまう。一体何のようなのだろうか。


「良かったら、一緒に食べないか?」

「……俺とお前が?」

「ああ、嫌か?」

「嫌という訳ではないが……」


 一人で昼食を取ることが好きという訳ではない。話し相手がいる方がいいと思うことはある。

 竜太は四条一派の中では、由佳の次に話せる相手だと思っている。そのため、その提案はそれ程嫌という訳ではなかった。

 ただ、どうしてそんな提案をしてくるのかわからない。四条一派は、どうしたのだろうか。


「実の所、今日は男子がバラバラでね。女子四人の中に入るのは気が引けるし、俺は一人なんだ」

「そうなのか……」


 竜太の事情は理解できた。流石のこいつでも、女子の中に一人というのは厳しいようだ。

 ただ、どうして俺を誘うのだろうか。他にも友達なんていっぱいいるだろうに。


「まあ、別に付き合うことに異論はないが、俺なんかよりも楽しく話せる奴がいるんじゃないか?」

「そういう訳でもないさ。俺はお前と一番楽しく話せると思っている」

「おお……」


 竜太の言葉に、俺は思わず唸っていた。

 真っ直ぐに目を見てそんなことを言われたら、面食らってしまう。こいつのことだからきっと誰にでも言っているのだろうが、それでも心が揺さぶられる。


「そういうことならいいんだが……知っているかもしれないが、俺は食堂で食べるつもりだったんだが」

「ああ、もちろん知っているさ。こっちは弁当を持参するから行くとしよう」

「よし」


 俺と竜太ともに、食堂に向かうことにした。それは別に、問題があることではない。俺はそう思っていた。

 しかし廊下に出てから、俺はその考えが甘かったことに気付いた。よく考えてみれば、竜太も有名人なのだ。廊下を歩くだけでもある程度視線が向く。

 そして、その隣にいる謎の人物に訝し気な視線が投げかけられる。なんというか、視線がとても痛い。


「有名人というのも大変だな……」

「うん? どうかしたのか?」

「こんな風に視線を向けられるというのに俺は慣れていない。なんだか、少し怖いというかなんというか……」

「ああ、まあ、慣れてしまえば問題はないさ……なんて、俺も昔はこういう視線が怖かったんだけどな」

「……そうなのか?」


 竜太の表情は、少し暗かった。こいつの過去に色々とあったということは、なんとなくわかっている。その内容が関係しているのだろうか。


「九郎は俺の髪の色をどう思う?」

「髪の毛の色? まあ初めは驚いたが、もう慣れたな。由佳の方がもっとすごい色をしているというのもあるのかもしれないが、まあそれがそっちの普通だということはわかったからな」

「ふふ、やっぱり染めていると思っていたんだな」

「……何?」


 竜太の言葉に、俺は驚いた。染めていると思っていた。その言葉が意味することは、その髪の色が染めている訳ではないということだ。


「……地毛だったのか?」

「ああ、実はそうなんだ。舞は染めているがな」

「……」


 竜太にとって、この話題はあまり触れたくないものなのだろう。その口調から、それが伝わってくる。

 地毛が金髪だった。それがどうしてなのかはわからないが、それによって起こる事象は理解できる。多分、それが竜太と俺の相性が良い理由であるのだろう。


「髪の色のせいで、昔は色々と言われたんだ。やっぱりさ、他の人と違うといい目で見られないんだよ。そんな時に助けてくれたのが舞だった」

「四条が?」

「綺麗な金髪だって言ってくれたのさ。それで、私も金髪にするって言ってくれて……あいつ、染めたんだよ。自分の髪を」

「……それはすごいな」


 四条のことは、はっきりと言って苦手だ。あまりいい印象は抱いていなかった。

 だが、流石に由佳の友人だけあって、見所がある人物であったようだ。少なくとも、竜太にとっては恩人といえる存在であるだろう。


「それから俺は、胸を張って生きるって決めたんだ。今は自分の金髪を誇りだと思っている。かっこいいだろう?」

「……そうだな」


 竜太は自分の金髪を撫でながら、笑顔でそう言ってきた。

 確かにこいつにはその髪の色がよく似合っているように思える。それはきっと、竜太が胸を張っているからなのだろう。


「……お前にはいい出会いがあったんだな」

「ああ、そうだな。舞と出会えたのは、本当に幸せなことだと思う」

「……俺にはそんな出会いはなかった」

「……九郎」


 俺は自然とそのようなことを呟いていた。

 だが、竜太になら話せるような気がする。今まで、誰にも打ち明けることができなかった過去を。


「父さんの仕事の都合で、俺はこっちから引っ越すことになった。でも、引っ越した先で上手くいかなかったんだ」

「……そうか」

「新しい学校で馴染めなかった……それで結局そのまま、また父さんが転勤することになってさ。でも、次の学校でも駄目だった。俺は、駄目な奴だったんだ」


 過去のことを話すのは、とても苦しかった。だが、少しだけ心が軽くなったような気もする。同じ痛みを味わった奴に聞いてもらえているからだろうか。

 だが、俺の過去なんて竜太に比べればありふれたものであるかもしれない。俺は特別な髪の色をしていた訳でもないし、劇的な出会いがあった訳でもない。

 俺は平凡な失敗者だったのだ。竜太のように仕方ない理由がある訳ではなく、ただ駄目な奴だっただけなのである。


「……そんなことはないさ」

「竜太……」

「俺はお前と会ってまだ数日ではあるが、それでもお前の良い所をたくさん知っている。お前が駄目な奴なんて、そうは思わない」


 俺の言葉に、竜太は首を横に振ってくれた。

 やはりこいつは良い奴だ。俺はそれを改めて認識する。

 かつては同じような境遇にあったのかもしれないが、俺とこいつは大きく違う。それを乗り越えて強くなった者と引きずって腐った者、その差はきっと大きなものだ。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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