26.ただ俺はそれを違うものだと言いたくなかった。
『風邪か、まあこの時期はそういう風に体調を崩してしまっても仕方ない時期だからな……』
風邪が治った俺は、とある人物と電話していた。
その人物は、俺の話を聞いて楽しそうな声を返してくれている。別に今の話に楽しい要素なんて一つもなかったというのに。
『いや悪いな。病み上がりに訪ねることになりそうで……』
「次の土曜日に訪ねて来るんだろう? その時には多分もう問題はないさ」
『そう言ってもらえると助かるな……』
俺が電話で話しているのは、篠崎勝馬という人物だ。彼は父さんの姉の子供、つまりは俺のいとこにあたる人物である。
勝兄は、俺よりも年上で既に社会人だ。そんな彼が今日、我が家に電話してきたのは、後日訪ねて来るからである。
「大体、俺のことなんて気にする必要なんてないさ。その……若菜さん側の都合もある訳だろう?」
『まあ、それはそうなんだが……』
「それにしても、驚いたよ。前々から付き合っている人がいるというのは聞いていたけど、それでもいざ結婚すると聞くと……」
『ははっ、皆同じような反応さ』
勝兄が家に来る理由は、結婚相手を紹介したいからだそうだ。
親戚の中でも親しい関係にある俺達と結婚相手を、結婚する前に会わせておきたいらしい。
『まあというか、俺だってきちんと実感が湧いているという訳ではないしな……』
「いつ実感が湧くんだろう?」
『やっぱり婚姻届けを出した時なんだろうか?』
「いや、俺に聞かれてもわからないんだが……」
親しい人の結婚というのは、俺にとって初めてのことである。
故に、どういう反応をするべきなのかいまいちわからない。もう少しテンションを上げるべきなのだろうか。
父さんや母さんは、結構喜んでいた。俺もそれに倣っておけばよかったのかもしれない。
『それにしても、九郎と会うのは随分と久し振りのことだな……彼女ができたって本当なのか?』
「あ、ああ、それは本当だ」
『由佳ちゃんだったか? 確かに、昔九郎と一緒に遊んでいたよな? いやまさか、その子と再会して付き合うなんてびっくりだ』
「それに関しては、俺も驚いている」
勝兄には、由佳と再会して付き合っているということは伝わっている。
これは俺が伝えた訳ではなく、両親経由でいつの間にか伝わっていたことだ。
「……よく考えてみれば、俺も由佳のことを勝兄に紹介しなければならないのか?」
『え?』
「ああいや、その……」
そこで俺の頭の中に、とある考えが過ってきた。
俺は由佳と将来結婚するつもりだ。本人にも彼女の両親にも了承してもらっているため、それは勝兄の状況とそう変わらない。
それなら、俺の方も由佳を紹介するべきなのだろうか。そう考えてしまったのだ。
『もしかして、由佳ちゃんとは将来を誓い合っているということなのか?』
「まあ、そうなんだが……」
『なるほど……』
俺の言葉に対して、勝兄は微妙な反応を返してきた。
それはそうだろう。俺達はまだ学生だ。これから何があるかわからない。結婚すると確定している勝兄とは違う。
ただ俺は、それを違うものだと言いたくなかった。青臭いことなのかもしれないが、俺のこの意思は決して揺るがないし、由佳もそうだと信じているからだ。
『……うん? なんだって?』
「え? 勝兄? どうかしたのか?」
『ああ、ごめん。若菜がさ。今の話を聞いていて……』
「ああ、聞こえる所にいたのか……」
『そうなんだ。それで、由佳ちゃんも是非紹介して欲しいって言ってきて……』
「……なんだって?」




