15.その並びが重要なのかどうかはわからない。
荷物を置いて、周囲を見渡す。するとそこには、見知った顔と見知らぬ顔が並んでいる。
修学旅行の一日目、クラス単位でお寺などを巡った俺達は宿屋へと辿り着いていた。
宿屋の部屋は、五人一組である。この部屋にいるのは、俺と竜太と江藤、それから小早川と佐久間という奴らだ。
「さて、それじゃあ布団の並び順を決めないといけないね」
「む? ああ、そうか。どこに寝るかということも重要な訳か」
「それはもちろん」
俺の言葉に、江藤はゆっくりと頷いた。
部屋に並んでいる布団は、誰のものであるかなどは決まっていない。確かにそれは、重要なことなのだろうか。別にどうでもいいことであるような気もするが。
「僕は、ろーくんの隣ってことでいいかな?」
「え? まあ、別に俺は構わないが……」
「皆も異論はないかな?」
江藤が周囲に呼びかけると、竜太達はゆっくりと頷いた。
という訳で、俺と江藤が隣になることが決まった。
それ自体は別に構わない。構わないのだが、そんなに俺の隣というのが重要なのだろうか。それはちょっとわからない。
「まあ、それじゃあ俺と江藤がこっちの端で九郎を挟んで、小早川と佐久間がそっち側ということでどうだ?」
「ああ、俺はそれで大丈夫だ」
「俺も構わないぜ」
竜太の鶴の一声によって、部屋の中での並び順が決まった。
なんというか、決めるまでもなく決まったような気がしてしまう。これなら、わざわざこんな風に話をする必要もなかったのではないだろうか。
「いや、それにしても晴臣は本当に藤崎のことが好きなんだな?」
「え?」
「俺達が班に誘った訳だけど、ひょっとしてそっち側に入りたかったとか?」
「ああいや、そういう訳じゃないさ。二人と同じ班なのも嬉しいことだよ」
そこで江藤は、小早川と佐久間に詰められていた。
あの二人は、江藤と班を組んだ二人である。普段からも江藤とつるんでいる奴の友達だ。
そんな二人と接する時の江藤と、俺と接する時の江藤は、なんというか少し違うような気がする。俺と接する時の江藤は、少し幼い感じがするのだ。
「ふむ、九郎、この部屋は中々にいい景色だぞ?」
「うん? ああ、そうなのか?」
「この辺りが見渡せる。いい宿に泊まれたな……」
「おお、確かにそうだな……」
そこで俺は、竜太の呼びかけで窓の外を見た。
そこからは、確かにいい景色が見える。今日一日で巡った場所が見えるという訳ではないが、それでもその少し古風な街並みは、いつも見ている景色と違っていて面白い。
「……今日は色々な所を巡ったな? 九郎はどうだった?」
「どうだったか? まあ、楽しかったと思う。由佳も楽しんでいたしな……」
「ふふ、九郎にとってはそれが楽しいかどうかの基準という訳か……」
「まあ、それはそうさ」
竜太の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。
有名な観光地を巡るという今日一日は、とても楽しかった。由佳も終始笑顔だったし、修学旅行一日目は何も言うことはない。
多分、これから二日間もそれが続いてくのだろう。これまでと違って今回の修学旅行は、本当に楽しいものになりそうだ。




