14.その関係性は珍しいという訳でもない。
ランニングが終わった後、由佳の部屋で彼女と一緒に寛いでいた。
シャワーを浴びたため、お互いに体はぽかぽかだ。俺にもたれかかっている由佳からは、いい匂いがした。シャンプーの匂いと由佳の匂いが、俺の鼻孔をくすぐってくる。
「……なあ、由佳。一つ聞いておきたいことがあるんだが」
「うん? どうかしたの?」
「高坂のことだ。あの子はもしかして新見のことが……」
「ああ、うん。そうだね。ろーくんが思っている通りだよ」
俺の質問に、由佳はすんなりとそう答えてくれた。
ただ、その表情は少し暗い。それが俺は、少し気になった。
「なんだか歯切れが悪いな?」
「うーん……これが中々難しい問題なんだよね」
「難しい問題……?」
「その、これはね、私も最近知ったことなんだけど……」
「ほう……」
由佳は、俺の耳元で小さな声を出してきた。
それは恐らく、秘密の話であるということなのだろう。
もちろん、部屋の中には俺達しかいないのでそんなことをする必要はない。だというのにそういう仕草を見せる由佳に、俺は少しときめいてしまう。
ただ、今はそんな風にときめいている場合ではない。真面目に由佳の話を聞くとしよう。
「孝則君にはね、どうやら他に好きな人がいるみたいなんだよね」
「なるほど……それはなんとも、難儀な話だな?」
「うん。私もそう思う。静良ちゃんのことは応援してあげたいけど、でも孝則君が他の人のことを好きだっていうなら、それも応援したいし……」
「どちらとも友人である由佳にとっては、厳しい状況という訳か……」
由佳の説明に、俺はため息をつくことになった。
二人の状況は、珍しいという訳ではないだろう。好いた好かれたが一致していない。俺達の周りには偶々両想いが多いが、そういうことだってあるはずだ。
それは仕方ないことである訳だが、どちらの想いも知っている由佳としてはやりにくいだろう。どちらも心から応援することはできない訳だし。
「……新見の想い人というのは、わかっているのか? いや、わかっていたとしても聞いていいのかどうかはわからないが」
「んっとね、ろーくんが知っている人ではあるんだよね。これが……」
「ほう? 誰なんだ?」
「私の隣の席の……臼井京香ちゃん」
「へえ……」
由佳が口にした名前に、俺は少し唸ることになった。
臼井に関しては、確かに俺も知っている。席も近いこともあって、最近はそれなりに話をするくらいの関係だ。
基本的にはクールだが、それなりにノリがいい。それが俺が彼女に抱いている印象である。
「どういう繋がりなんだ?」
「一年の時に、同じクラスだったらしいよ?」
「なるほど……」
「私は京香ちゃんとは、最近仲良くなったんだけど、それを聞いた翔真君が孝則君が好きだってことを教えてくれて……まあ、京香ちゃんの方は、孝則君のことをクラスメイトの一人って思っているみたいなんだけどね?」
「そっちも脈があるかどうかは、わからないってことか……」
状況から考えると、高坂の恋路は中々に大変な道のりであるようだ。
本人もそれをわかっているから、あんな顔をしていたのだろうか。仕方ないこととはいえもしもそうなら、それはなんとも悲しい事実である。




