12.後輩とは割と未知の存在である。
俺は由佳とともに、ランニングを続けていた。
走るというのが案外気持ちがいいことであるということは、こうやってランニングをし始めなければわからなかっただろう。
最近は体を動かすことに対して面倒くさいとも思わなくなっている。むしろ、こうやって体を動かさなければ気持ちが悪いくらいだ。
そんな風に自分が変化したという事実は、我ながら驚くべき事柄である。
「……あれ? 由佳先輩?」
「……え?」
「ん?」
そんな感じで走っていた俺達は、聞こえてきた少し高い声に足を止めることになった。
声が聞こえてきた方に目を向けてみると、見知らぬ小柄な少女がいた。少し日に焼けている彼女は、由佳と俺を交互に見ている。
「あ、静良ちゃん。こんな所で奇遇だね?」
「静良……?」
由佳の呟いた名前は、俺が今までに聞いたことがない名前だった。
口振りからすると、彼女は恐らく一年生であるのだろう。後輩と関わりがない俺にとっては、割と未知の存在である。
しかし考えてみれば、由佳だって後輩とは関わりがないはずだ。部活にも入っていない訳だし、一体どういう知り合いなのだろうか。
「いやはや、本当に奇遇ですね。由佳先輩もランニングですか?」
「あ、うん。一応そうなるかな……」
「おっと、すみません。もしかして、私はお邪魔虫だったでしょうか?」
「あ、ううん。そんなことはないよ」
静良と呼ばれた少女は、嬉しそうな顔をしながら俺達の方に近づいてきた。
なんというか、由佳はかなり慕われているみたいだ。これは昨日今日知り合ったという関係性ではなさそうだし、もしかしたら中学時代の知り合いとかかもしれない。
「あ、すみません。藤崎先輩……ですよね? なんだか、置いてけぼりにしてしまいましたよね?」
「え? ああ、いや、別に構わないが……」
そこで、少女はこちらの方に目を向けてきた。その真っ直ぐな視線に、俺は思わず目をそらしてしまう。
既に察していたことではあるが、この少女はかなりコミュニケーション能力に長けてそうだ。この距離の詰め方は、四条一派と同じものを感じる。
「私は、高坂静良といいます。一年生です。静かで良いっていう名前ですが、まあ見ての通りそそっかしい性格で、両親にちょっと申し訳ないなって思っています」
「そ、そうか……」
高坂はすらすらと自己紹介をしてきた。付随してきた情報によって、彼女がどういう人間であるかもなんとなくわかる。
つまり高坂は、明るくて元気な少女であるということなのだろう。勝手な憶測でしかないが、結構人に好かれるタイプであるように思える。
「えっと、俺は藤崎九郎、二年生だ。もっとも、俺のことは知っているらしいな?」
「ええ、それはもうよぉく知っていますよ。由佳先輩から、色々と聞いていますから」
「なるほど……」
「あはは……」
高坂の言葉に、俺は思わず由佳の方を見てしまった。
こういう風に俺のことが知られているのは、今までも何度か経験してきたことである。やはり由佳が、色々と言っていたのだろう。
それによって、俺は実際以上の評価をされていたりすることが多い。今回もそうなっていないか、少々心配である。




