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【連載版】結婚の約束をした幼馴染と再会しましたが、陽キャになりすぎていて近寄れません。  作者: 木山楽斗
第1章 幼馴染との再会

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第16話 幼馴染の部屋では落ち着けない。

「ろーくん、どうぞ」

「お邪魔します……」


 由佳の部屋に足を踏み入れて、最初に思ったのはピンク色だということだった。全体的な色が、彼女の髪と同じ色をしているのだ。

 髪の色にまでしているのだから、当然由佳はその色が好きなのだろう。それが部屋にも現れているということか。

 もっとも、その部屋は女の子らしいと感じる。いや、ピンク色だから女の子らしいというのは俺の偏見でしかないのかもしれないが。


「そこに座っていて。私、飲み物とか取ってくる」

「あ、ああ、すまないな……」


 部屋の中央にある机の前に俺は座った。そこで部屋を見渡しそうになって、俺は事前に言われていたことを思い出す。


「……目を瞑っておこう」


 正直な所、由佳の部屋は気になる。だが、見ないでと言われたのだから、見るべきではないだろう。そのためには、目を瞑るのが最適だ。

 とにかく今は、別のことを考えるとしよう。そういえば今日の数学の授業で出された宿題は無事に解けるだろうか。


「……由佳の成績はどうなんだろうな」


 そこで俺はふと、由佳の学力が気になった。彼女は、授業についていけているのだろうか。

 そう考えてから、俺はその考えを振り払った。そんなことは俺が気にするべき事柄ではないと思ったからだ。


「……というか」


 心を落ち着かせようと深呼吸をしようとした俺は、思わずそれを中断した。この部屋から由佳の匂いがすると理解したからだ。

 一度気づいてしまったら、もう意識しないなんてことはできない。目を瞑っていることもあってか、俺は匂いを感じてしまう。


「かあっ……」


 いい匂いだと思った。そう思った自分が妙に恥ずかしくて、思わず変な声を出してしまう。

 この匂いに浸っていたいという気持ちと今すぐ外に出て落ち着きたいという気持ちが、俺の中で戦っている。

 とはいえ、由佳を置いて出て行くなんてできないため、俺にはここにいるという選択肢しか残されていない。

 だが、この匂いを楽しんでしまったら人間的に駄目なような気がするので、俺はなんとか他のことを考える。


「ろーくん、お待たせ」

「え? あ、由佳か……」

「え? ろーくん、どうして目を瞑ってるの?」

「あ、いや、これはだな……」


 いっぱいいっぱいになり過ぎた俺は、由佳が帰って来たことにまったく気づかなかった。

 とりあえず目を開けてみると、驚いたような顔をしている由佳が目に入って来た。無論、客人が部屋の中で目を瞑っていればそんな顔にもなるだろう。


「ほ、ほら、見るなと言われたから見ないようにしていたんだ」

「そ、そうなんだ……ろーくん、律儀だよね」

「律儀、なのだろうか?」

「うん、昔からそうだった。ろーくん、時々変な所で頑固だったりしたし、そういう所は変わっていないんだね」


 由佳の言葉に、俺は少し驚いた。自分ではそのようにまったく思っていなかったからだ。

 俺はとても適当な人間であると自負している。決して律儀といった言葉が当てはまるような人間ではないはずだ。

 いや、昔は今よりもきっちりとしていたような気はする。もしかしたら、由佳はその時の印象に引きずられているのかもしれない。


「は、恥ずかしいけど別に見ていいよ。見られて困るものは、ない訳だし」

「いやしかし……

「ろーくんに見てもらいたいものも実はあるんだよね。ほら、勉強机の上とか」

「勉強机の上……?」


 由佳から許可が出たので、俺は勉強机の方を見た。すると、とあるものが目に入ってくる。


「な、懐かしい写真だな……」

「うん。そうでしょう?」


 勉強机のボードには、何枚かの写真が貼ってあった。それらは全て、俺と由佳が一緒に写っている写真だ。

 それを懐かしいと思いながら、俺は少し苦しくなっていた。その写真に写っている自分が、自分であるように思えなかったからだ。

 かつての自分は、今よりもかなり生き生きとしている。あの写真のような笑顔が、今の俺にできるだろうか。


「ろーくん、どうかしたの?」

「あ、いや、なんでもない」


 動揺していた俺だったが、由佳の言葉で正気に戻った。

 今、そのようなことを気にしても落ち込んでも仕方ない。由佳に心配をかける訳にもいかないし、なんとか頑張るとしよう。


「由佳は、あの頃の写真をずっと飾っていてくれたんだな。ありがとう、なんだか嬉しいよ」

「お礼を言われるようなことではないよ。私にとって大切な思い出だから、飾っているだけだし」

「そうか……そうだよな」


 由佳にとって、あの頃は本当にいい思い出になってくれているようだ。

 それはもちろん嬉しく思う。せめて昔は良かったと思ってもらえるのが、俺の望みであったからだ。

 改めて考えてみると、昔の俺は中々いい男であったのではないだろうか。それがどうしてこうなってしまったのか、我ながら情けない限りだ。


「……当然のことながら、この頃の由佳は髪が黒いんだな」

「え? ああ、そうだね」

「……その、聞いてもいいか? どうして髪をピンク色にしたんだ?」


 いい機会なので、俺は由佳に聞いてみることにした。

 彼女の髪は、明るいピンク色である。単に好きというだけなのかもしれないが、せっかくなのでその理由を聞いてみたい。


「ろーくんは覚えていない?」

「……何をだ?」

「昔、私にはピンク色が似合うって言ってくれたよね?」

「うん? えっと……ああ、確かにそう言った覚えはあるな」


 確かに俺はそのようなことを言った気がする。しかし、それだけで髪の毛の色をピンク色にするだろうか。


「しかし、何故髪を?」

「え? 何かおかしいかな?」

「いや……」


 俺の質問に、由佳は首を傾げていた。髪を染める。それは大変なことであると俺は思っているが、もしかしたらその認識が間違っているのかもしれない。

 四条や竜太も金髪である訳だし、彼ら彼女らは服を選ぶような感覚で髪の色を変えているのかもしれない。おしゃれというやつなのだろうか。

 髪の毛所か服装まであまり気にしていない俺にとって、それは理解できない世界だ。やはり、彼女は違う世界の住人であるのだと強く認識させられる。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「しかし、何故髪を?」 >「え? 何かおかしいかな?」 おかしいかおかしくないかで言えばおかしくはないけど、随分思い切った行動に出たなと。
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