11.意外なことに運動の習慣は続いていた。
意外なことに、体育祭が終わってからも運動の習慣は続いていた。
江藤が与えてくれたメニューを由佳と一緒にそれなりにこなす。それが俺達の日常になっていたのだ。
ただ残念ながら、夏の間その習慣は中止になっていた。理由は非常に単純で、流石に暑すぎたからである。
「少し涼しくなってよかったね……まあ、まだまだ日中は暑いけど」
「ああ、でもこのくらいなら大丈夫だろう」
九月も半ばに差し掛かった休日、俺と由佳は朝早い時間に起きて外に出てきていた。
すっかり間が開いてしまったが、俺達は運動を再開することにしたのだ。
「昔は運動なんて、絶対にやりたくないと思っていたんだがな……」
「それは私も同じだよ。ろーくんが一緒じゃなかったら、絶対にやりたいなんて思わないもん」
「まあ、実質的にはデートと言えなくもないしな?」
「ああ、言われてみればそうだね……」
運動が習慣になったのは、まず間違いなく由佳と一緒だからである。
彼女が隣にいてくれなかったら、俺はここまで続けられていない。健康のためなどという理由だけでは、絶対に無理だったはずだ。
「というか、そう考えていくと、俺の健康はほとんど由佳に支えられているといっても過言ではないか……」
「え? そうかな?」
「いや、弁当だって作ってくれているし、どっちの家でも俺は由佳の手料理をいただいている。つまり、今の俺の体を作っているのは由佳ということになるだろう」
「な、なるほど……それはなんか、嬉しいかも」
俺の言葉に、由佳は笑顔で応えてくれた。
しかしながら改めて考えてみると、食事と運動が彼女によって支えられている訳だし、俺の健康の由佳への依存度はかなり高いような気がする。
「でも、私そんなに栄養バランスとか考えられている訳でもないよ?」
「いや、そんなことはないだろう。野菜とかもバランスよく入っている訳だし」
「うーん。それはそうなんだけど、栄養についてしっかり知っている訳じゃないから……」
そこで由佳は、考えるような仕草を見せた。
もしかして栄養について気にしているのだろうか。これは、余計なことを言ってしまったかもしれない。
「由佳、別にそれはそんなに深刻な問題という訳ではないだろうさ。大抵の人は、大まかにバランスよくするって感じだろう。結局、美味しいのが一番だ。その点、由佳の料理はどれも美味い訳だからな」
「ありがとう、ろーくん。でも、私はろーくんにはずっと健康でいて欲しいから、その辺も考えていきたいかな?」
「そうか……まあ、由佳がそうしたいというなら止めはしないが」
由佳はなんだか、やる気を出していた。
それを見て俺は理解する。栄養バランスを考えるということは、彼女にとっては楽しいことであるのだと。
それなら別に、止める必要はないだろう。彼女がやりたいならそうしてもらいたい。俺としても、それは嬉しいことである訳だし。
「しかしだ。今はとりあえず運動をするとしようか」
「あ、そうだね。暑くなる前に行かなくちゃ」
「よし、それじゃあ出発だ」
「うん!」
俺の言葉に、由佳は力強く頷いてくれた。
こうして俺達は、早朝のランニングを始めるのだった。




