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第14話 幼馴染と遊ぶ約束をするのは久し振りだ。

 今日の昼休み、よくわからないが俺は恐らく失敗した。

 あの後、由佳は明らかにテンションが下がっていた。あそこからの会話はなんだかあまり盛り上がらなかったし、失言をしてしまったと考えるべきだろう。


「失敗したのか……」


 由佳を悲しませてしまったという事実は、やはり心にくる。言わなければよかったとか、言うにしてももう少し言い方があったのではないかとか、色々と考えてしまう。


「……まあ、由佳もこれで俺が変わったということを理解してくれるかもしれないが、いやそんな馬鹿みたいな考えはよそう」


 俺という人間は、どうしようもない人間である。それは自覚している所だ。

 だから、いつか失敗するということはわかっていた。それで失望されて由佳が離れていくと思っていた。

 ただ、それを言い訳にして開き直ってはいけないだろう。由佳を悲しませたのだから、とにかくは謝罪するべきだ。そこは筋を通そう。


「……ふう」


 とりあえず、俺は謝罪のメッセージを由佳に送っておいた。今日の昼は、余計なことを言った気がする。すまなかった。そんな単純な言葉しか出てこなかったが仕方ない。

 自分からメッセージを送る。そんなことは初めての経験だ。本当に届いたのかと心配になってくる。

 というか、こんな謝罪でいいのだろうか。俺はまだ何が悪かったのか完全に掴めているという訳でもないし、謝罪として不適切なような気もする。


「おっと……え?」


 既読がついた。そう思った次の瞬間、俺のスマホは震え始めた。どうやら、電話がかかってきたようだ。


「も、もしもし……」

『あ、ろーくん。こんばんは』

「あ、こんばんは」


 当然のことながら、電話をかけてきたのは由佳だった。

 時間が経って整理がついたのか、由佳の声は明るい。ただ、由佳が無理をしているという可能性もある。色々と心配だ。


『あのね、ろーくん。さっきメッセージを見たんだけど』

「あ、ああ……」

『気にしないで。というか、こっちこそごめん。あの時ね、私間違ったって思っちゃったんだ』

「間違った?」

『私ね、ろーくんと二人きりで遊びたかったんだ。ろーくんが皆のことが気になるからとかじゃなくて、ろーくんと二人が良かったんだ』

「そ、そうなのか……」


 由佳の説明に、俺は少しドキリとした。

 二人きりがいいと思ってくれている。その言葉が例え幼馴染だから向けられた言葉だとわかっていても、やはり心は動くものだ。


『でも、恥ずかしかったんだ……あの頃みたいに遊びたいって、やっぱり子供っぽいかな?』

「……いや、そんなことはないさ」

『そ、そう?』


 やはり由佳にそういう意図はなく、単純にあの頃と同じように俺を遊びに誘っていただけのようである。

 少し残念ではあるが、それは当然のことだ。そんなことで落ち込んでいる場合ではない。

 結局の所、俺は由佳のことを悲しませた訳だ。その償いはしておかなければならない。それなら、今やるべきことは一つであるだろう。


「そういうことなら、今からでも遊びの約束をさせてくれ。まあ、変なことを言ってしまったお詫びという訳ではないが、一日由佳に付き合うよ。なんでも言ってくれ。俺にできる限りのことはしよう」

『別に気にしなくてもいいんだけど……そういうことなら、早速明日付き合ってもらってもいいかな?』

「明日か……まあ、俺はいつも暇だから構わないが、どこに行くんだ?」

『私の家に来て欲しいんだ』

「……え?」


 由佳の言葉に、俺は言葉を詰まらせてしまう。家に来て欲しい。彼女は確かにそう言った。しかし、それはかなり大変なことなのではないだろうか。


「い、家って……」

『子供の頃は、よく来てたよね?』

「ま、まあ、それはそうなのだが……」

『あの頃みたいに、めいっぱい遊ぼう?』

「むぐっ……」


 由佳の家に行く。その事実に、俺は震えてしまう。

 当然のことながら、俺はあの頃と同じ気持ちで由佳の家に行くなんてことはできない。色々と考えてしまう。あんなことやこんなことを。

 しかしながら、俺は先程なんでも言っていいと言った。それを今更覆していいのだろうか。

 いや、そうではなく、単純に俺は由佳の家に行きたいだけなのかもしれない。なんだか、自分の気持ちがわからなくなってくる。


『お母さんもお父さんも、きっと喜ぶと思うし』

「む? ああ、そうか……」


 混乱していた俺は、由佳の言葉で少しだけ冷静さを取り戻せた。

 よく考えてみれば、由佳の家には当然彼女のお父さんやお母さんがいる。完全に二人きりという訳ではないのだ。

 なんというか、俺はまた早とちりをしてしまったようである。いや、これは早とちりなのだろうか。昼休みに失敗したため、判断は慎重に行わなければならない。

 とはいえ、両親がいるというならあまり色々と考えるべきではないだろう。気持ちを切り替えておこう。もちろん、それでもドキドキはするが。


「えっと……由佳のお父さんとお母さんは元気なのか?」

『うん、元気だよ。二人ともとっても仲良しだし』

「そうか。それはいいものだな……」


 由佳の両親は、当然俺も知っている。二人とも由佳に似て、いや由佳が二人に似た訳ではあるが、とても優しい人達だ。少々抜けたような所もあるが。


『ろーくんのお母さんとお父さんは元気?』

「ああ、元気だとも。仲も良いし、父さんに関しては出世もしたし、順風満帆といった感じだな」

『あ、そうなんだ。出世なんてすごいね』

「実はその出世でこっちに帰ってくることになったんだ。丁度、受験の前に話が決まって、俺もこっちの高校を受けることになった訳さ」

『そうなんだ。それなら、ろーくんのお父さんに感謝しないとね。そのおかげで、私はろーくんと再会できた訳だし』

「はは、由佳にお礼なんて言われたら、父さんは泣いて喜ぶだろうな……」

『それは大袈裟じゃない?』


 由佳は笑っているが、もしも由佳にお礼を言われたら父さんはかなり喜ぶはずである。

 俺も由佳の両親に可愛がられたが、俺の両親も由佳のことを可愛がっていた。そんな由佳が成長して、お礼を言ってきたからきっと感動するだろう。

 それに、由佳が俺との再会を喜んでいるという事実に、父さんは喜ぶはずだ。それはきっと母さんだって同じである。


「まあ、いつになるかはわからないけど、由佳にも俺の父さんと母さんに会ってもらいたいな。二人も喜ぶだろうし」

『え? もちろん、いいよ。大歓迎だよ』


 由佳と再会したことは、父さんや母さんには伝えていない。だけど、いつまでも黙っていてはいけないと思っていた。

 いい機会だから、二人に色々と話すとしよう。もしかしたら両親は、俺の愚かな行いに怒るかもしれないが、それでも構わない。


「……いや」

『うん? ろーくん、どうかしたの?』

「すぐに会ってもらいたいという訳ではないから、そんなに気負ったりはしないでおいてくれ。気楽に考えてもらえると、こちらとしてもありがたい」

『別に、ろーくんのお母さんとお父さんに会うのに気負ったりしないよ』

「よ、予定が未定ということだ」

『う、うん。わかった』


 言ってから俺は気付いた。俺は既に慣れてしまったが、由佳はあの頃と見た目が随分と変わってしまっている。

 それを両親にはよく話しておかなければならない。二人とも髪の毛がピンク色の人と会ったことなどはないだろうし、誤解されないように詳しく丁寧に説明しておくべきだ。


「とにかく、俺は明日由佳の家に行くということでいいんだよな?」

『うん。色々と準備しておくね』

「準備? そんなに大そうなおもてなしは求めないぞ?」

『でも、せっかくろーくんが家に来るんだから、色々と準備したいよ』

「まあ、そこまで言うなら俺としても嬉しいし、断る理由はないが……」


 準備という言葉を聞いて、俺はとても大切なことを思い出した。

 今日は、由佳が弁当を作ってきてくれた。それはとても嬉しかったのだが、お礼の他にも言っておくべきことがあるのだ。


「そういえば、由佳。今日の弁当は本当に美味しかった。ありがとう」

『え? あ、うん。それならよかったよ』

「だが、もしも仮に明日も弁当を作ってきてくれるつもりなら、それは必要ないからな」

『え? どうして?』


 俺の言葉に対して、由佳は驚いていた。こういう反応をするということは、明日も作ってきてくれるつもりだったということだろう。そうなる前に由佳と話せてよかった。


「由佳は料理を作るのが楽しいと言っていたが、それでも大変だし、それに何より弁当もただではない。何度も作ってもらうのは悪いよ」

『で、でも……』

「どうしてもというなら、材料費と人件費を払おう。由佳のおかげで、俺の昼食代は浮く訳だからな。それを渡そう」

『そ、それは、なんだか違う気がする……』


 俺は、由佳が断るように敢えて言葉を放った。

 由佳のことだから、もしも止めなかったなら毎日弁当を作ってきそうだ。それは流石に悪い。だから、そうなる前にきっぱりと断っておかなければならない。


「そういうことだから、弁当はしばらくいい。まあ、例えば作り過ぎたおかずを食べてもらいたいというなら、俺に断る理由はないが」

『……そっか。それなら、そういう時には頼もうかな?』

「ああ」


 由佳は今の所は、俺に弁当を作るのを楽しんでいるようだ。やはり、料理をするにしても誰かの反応が欲しいのだろう。

 それを全てシャットアウトするというのは、なんだか違う気がした。それに何より、俺自身も由佳の作ってくれたものが食べたいという気持ちはある。

 という訳で、俺は逃げ道を作っておいた。これなら由佳も、そこまで無理のない範囲で料理を作ってきてくれるのではないだろうか。


「さて、それじゃあそろそろいい時間だ。お互いに寝る準備をした方がいいだろう」

『え? もう少しお話ししない?』

「明日の朝が辛くなるだろう。放課後は遊ぶのだし、そのために休息は取っておいた方がいい」

『あっ、確かにそうだね。明日のために体力は残しておかないと。あ、でも楽しみで眠れないかも……』

「いやいや、遠足の前ではあるまいし……」


 きりが良かったので、俺はそこで話を終わらせることにした。

 夜更かしというのは体に良くない。そう言える程に俺は健康的な生活を送ってきた訳ではない。

 だが、電話の先にいる由佳には、勝手ながらできれば健康的な生活を送って欲しいと思ってしまった。特に今日は早起きした訳だし、早めに休んでもらいたい。


「とにかく、お休み。えっと……また明日」

『うん、お休み、ろーくん。また明日ね。声が聞けてよかったよ。今日はなんだかいい夢が見られそう』


 最後にそう言って、由佳は電話を切った。

 当然、俺は結構動揺している。最後の最後まで、由佳は俺を平静でいさせてくれない。


「……いい夢か。それなら俺も見られそうだ」


 暗くなったスマホの画面を見ながら、俺はそう呟いた。色々な憂いも消えたので、今日は本当にいい夢が見られそうな気がする。

 とはいえ、明日の心配がないという訳でもないのだが。

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