16.別に話す必要が絶対にあるという訳ではない。
ファミレスで集合するということは、結構ある。
皆でご飯を食べる。それは案外、楽しいものだ。最近俺も、そう思うようになってきた。
ただ、俺は今まで気付いていなかった。この集合方法には、とある問題があることを。
「……」
「……」
目の前にいる金髪は、俺を見ることなくスマホを弄っている。
四条舞、この由佳の親友と俺は、二人きりでファミレスにいるのだ。
こういう時普段なら俺は由佳と一緒に来るのだが、今回は彼女が月宮と水原と一緒にお泊り会だったため、俺一人で来ることになった。
いつもならそれに参加するはずの四条だが、急に里帰りすることになったらしく、そこから帰ってきて、その結果こんな状況になったのである。
「はあ……」
「……」
よく考えてみると、俺は四条とそんなに個人的に仲が良い訳ではなかった。
竜太や水原、それに月宮とは個人でメッセージのやり取りをしているが、四条とはそんなことをしたことはない。
なんというか、四条に関して俺はまだ完全に友達とはいえないような気がする。それはここで二人きりになって、初めて認識したことだ。
「あんたさ、何見てんの?」
「え?」
「さっきからこっちをちらちらと、何か用でもある訳?」
そんな俺に対して、四条はそのような質問をしてきた。
この刺々しい態度は、いつも通りだ。由佳を挟んでいない時の彼女は、こんな感じである。
「いや……皆はまだかと思って」
「……まあそうね。確かに早く来て欲しいわ」
「そうだろう」
俺の言葉に、四条はゆっくりと頷いた。
やはり彼女も、俺と二人きりは厳しいようだ。それがなんとなく、態度から伝わってくる。
「由佳に悪いし」
「由佳に悪い?」
「不可抗力といっても、あんたと二人きりになっている訳でしょう?」
「ああ、そういうことか……」
しかし俺の考えは、すぐさま否定された。
四条が気にしているのは、由佳のことだったのだ。確かにこの状況は、彼女に対して不義理を働いていると考えられなくもない。
「何? あんたは違う理由な訳?」
「え? あ、いや、そういう訳ではないが……」
「……私と二人きりは、厳しいということ?」
「いや違う違う」
四条の言葉に、俺は大きく首を振った。
嘘をつくのは申し訳ないが、ここはこうした方がいいだろう。四条はちょっと傷ついたような表情をしたし。
どうやら俺は、大きな失敗をしてしまったらしい。なんというか、自分が情けなくなってくる。何故俺は、気まずいなんて思ってしまったのだろうか。
「その……正直な所、何を話そうか悩んでいたんだ。こうやって四条と二人で会話をする機会はないだろう。だから、何を話していいかわからなかったんだ」
「それなら別に何も話さなくてもいいわよ。話すだけが過ごし方じゃないでしょう?」
「それは……」
四条の言葉に、俺は呆気に取られていた。それは彼女の言葉に、ひどく納得したからだ。
確かに友人同士だからといって、話す必要が絶対にあるという訳ではないだろう。各々が好きなことをする。それも一つの形ではあるはずだ。
俺はそこに思い至らなかった。それはつまり、俺の方がまだ四条に対して壁を作っているからなのかもしれない。
「まあ別になんでもいいけど……」
「そうか……」
そして同時に、四条は俺にある程度気を許しているから、あのような態度だったということもわかった。
それが少し嬉しかった。だから俺は、再び自分を恥じる。俺は、四条の器の大きさを見誤っていたのだと。




