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第107話 どちらかというと俺はお兄ちゃんなのかもしれない。

「ろーくん、そろそろ休憩にしない?」

「ああ、そうしようか」


 テスト期間が始まってから、由佳は毎日俺の部屋に来ている。ここで真面目に、勉強しているのだ。

 恐らく、今回のテストは特に問題ないだろう。これだけ勉強していれば、追試なんてことにはまずならないはずである。


「……そういえば、由佳に聞きたいことがあるんだが」

「聞きたいこと?」

「ああ、竜太と四条のことなんだが……」


 そこで俺は、少しだけ気になっていたことを聞いてみることにした。

 竜太と四条は、俺にとって友人といえる二人だ。しかし俺は、あの二人のことをそこまでよく知っている訳ではない。


「舞と竜太君のこと? 二人がどうかしたの?」

「……まず前提として、二人は付き合っている訳ではないんだよな?」

「ああ……」


 俺の質問に対して、由佳は納得したような表情を浮かべた。

 どうやらあの二人の関係性というものは、親しい由佳にとっても色々と思う所がある関係であるようだ。


「付き合っている訳じゃないよ。そういう噂も流れているけど……」

「ああ、俺もかつてはそうだと思っていた。二人の様子的にもそうだと思ったしな……」

「そうだね。そう思ってもおかしくはないと思う」


 俺の言葉に、由佳はゆっくりと頷いてくれた。

 四条一派の噂というものは、根も葉もないものも多い。そのため俺も実際に関わるようになってからは、そういう噂をそこまで信じてはいなかった。

 ただ竜太と四条に関しては別である。あの二人はなんというか、付き合っているような雰囲気があったのだ。


「舞と竜太君は、友達以上恋人未満みたいな関係なんだと思う」

「ふむ……」

「普通の友達って感じじゃないんだよね。でも恋人ではなくて……ちょっと特別な関係性かな?」


 由佳は俺に対して、ゆっくりとそう語ってくれた。その語り的に、やはり由佳の中でもあの二人の関係性は難しいものであるのだろう。


「友達以上恋人未満か……考えてみれば、少し前の俺達もそう言えるような関係だったのかもしれないな」

「……言われてみればそうだね」


 俺の言葉に、由佳は少し頬を赤らめていた。その照れた表情が可愛くて、俺は思わず笑みを零してしまう。

 言葉にした通り、付き合う前の俺と由佳もそのような曖昧な関係性だったように思える。今考えるとあれを友達というには幼馴染というものを含めても、無理があるような気がするし、間違っているという訳ではないはずだ。

 ただ、そんな俺達と竜太達は同じ関係性という訳ではないだろう。あの二人の空気感には、なんというか慣れがあるような気がする。


「なんというか、あの二人は姉と弟というような関係に思えるな……」

「姉と弟?」

「ああ、仲の良い姉弟……恋人でないとするなら、そういう感じがする」

「そういう風に考えたことはなかったな……でも、そうかも。舞ってお姉ちゃんって感じがするし」


 基本的に、四条は姉御肌であるのだろう。それは今までのやり取りからわかっている。

 そういう姉を守ろうとする弟、今の俺の竜太の印象はそんな感じだ。

 かつてはあいつのことを騎士のように思っていたが、今はそんなにきっちりしたような印象はない。なんとなく、竜太は必死なように思えるのだ。


「私もろーくんと一緒にいると、お兄ちゃんってこんな感じなのかなって思うことがあったけど……」

「……お兄ちゃん?」


 そこで俺は、思わず変な声を出してしまった。

 由佳にお兄ちゃんのように思われている。それ自体は嬉しいことだ。

 ただ、少々問題がある。なぜなら俺は、彼女にお兄ちゃんと思われるには無理な前提があるからだ。


「一か月の差である訳だが、由佳の方が俺より先に生まれているだろう……」

「あ、うん。それはそうなんだけど……」

「逆じゃないのか? 俺が弟というか……いや」


 由佳は八月生まれあり、俺は九月生まれでである。つまり俺は、彼女のお兄ちゃんにはなれない。一か月の差とはいえ、年下だからだ。

 しかし自分で言ってから思ったが、由佳にお姉ちゃんといった感じがあったかというと、それは微妙な所だ。確かに俺も、由佳のことは妹のように思っている部分があるのかもしれない。


「……確かに、どちらかというと俺がお兄ちゃんだったかもしれないな」

「やっぱり、そう思う?」

「ただ、由佳は包容力があるからな。そういう部分はお姉ちゃんだといえるのではないだろうか?」

「包容力……?」


 俺が思い付いた由佳のお姉ちゃんな点に、彼女は何故か自分の胸元に視線を向けた。

 別に俺は、そういう意図があった訳ではない。精神的な面で、由佳はいつも俺を包み込んでくれていると言いたかっただけだ。


「ろーくんは私に……お姉ちゃんに甘えたいの?」

「え? いや、それはまあ、甘えたくないといえば嘘になるが」

「それなら、どうぞ」

「どうぞ?」


 そこで由佳は、両手を広げて俺にそう言ってきた。

 そのどうぞという言葉は、一体どういうことなのだろうか。まさかそこに飛び込めということなのだろうか。

 俺の額から、ゆっくりと汗が落ちていく。ここで俺は、どうするべきなのだろうか。

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