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第103話 家でも学校でも隣同士なのはいいものだ。

 夕食が終わってから、俺は由佳とともに勉強を始めていた。

 ちなみに彼女が泊まることに関しては、俺の両親も由佳の両親も快く了承してくれた。嬉しいことに、俺達の関係はお互いの両親に認めてもらえているらしい。


「……」

「……」


 そんな訳で始まった勉強会で、俺達はまずは数学に取り組んでいる。

 由佳がどれくらい理解しているかがわからなかったため、とりあえず最初は教科書の問題を解いてもらうことにした。

 時間と範囲は決めているため、由佳は問題を取捨選択して解くはずだ。それによって、何をどれくらい理解しているかもわかってくるだろう。

 ちなみに俺も同じように問題を解いている。一応教える側ではあるのだが、俺もきちんと解けているかは少々不安だ。


「……よし、由佳。一度答え合わせをしよう」

「あ、うん……」

「うん? 何か不安なことでもあるのか?」

「解けてない問題もあるから……」

「別に構わないさ。むしろ、そういうものを知るための時間だ」


 俺は由佳とノートを交換して、採点を始める。

 やはり由佳は、ある程度問題を取捨選択している。途中で飛ばしている問題などがあるのだ。その辺りが、由佳にとっては理解できていない部分ということなのだろう。


「む……」

「ろーくん、どうかしたの?」

「あ、いや、思っていたよりもできていると思ったのさ。由佳は数学は不安だと言っていたが、そんなことはないんじゃないか?」

「え? そ、そうかな?」


 採点の結果、俺は由佳が普通に問題を解けていることを理解した。

 不安視していたが、これならそこまで問題があるという訳ではなさそうだ。無論、教科書をある程度見られる今と本番のテストは違うが、これなら充分理解できていると言っても差支えない。


「……ちなみに、俺はどうだっただろうか?」

「あ、うん。一問間違えているかな?」

「そうか。俺もまだまだ理解不足ということだな……」

「そ、そんなことないよ。一問だったら全然すごいと思う」


 由佳は褒めてくれているが、こういう時に全問正解していないのはなんというか格好がつかなかった。教える側の立場であるのだから、できれば完璧に理解していたかった所である。


「やっぱりろーくんは頭がいいんだね?」

「いや、別にそういう訳ではないさ。ただ授業を真面目に聞いているというだけだ」

「それがすごいと思う。私なんか途中で寝ちゃいそうになったりするし……」

「俺だってそうさ。なんとか起きているだけだ」


 俺は基本的に授業は真面目に聞いていた。偶に眠気に負けそうになったりもするが、それでも起きているのがほとんどだ。


「でも、授業中って色々な人がいるでしょ? スマホいじったりしている人もいるし……」

「……由佳はそういうことはしていないか?」

「してないよ……ノートに絵を描いたりしたことはあるけど」

「なるほど、他のことをしていたことはあるんだな?」

「うっ……」


 俺の言葉に、由佳はゆっくりと目をそらした。どうやら彼女は、授業をそこまで真面目に受けているという訳でもないようだ。

 しかしながら、それにしては問題が解けているような気もする。課題なんかを真面目にやっているということだろうか。


「でも、最近は真面目に授業受けてるんだよ?」

「そうなのか?」

「うん。ろーくんと同じクラスになったから」

「俺と授業に何か関係があるのか?」

「ろーくんって基本的に真面目に授業を受けてるでしょ? だから、私も頑張らないとって思うんだ」

「そうか……まあ、俺の影響でそう思ってもらえているというのは嬉しいな」


 由佳の笑顔に、俺は照れてしまう。まさか俺の存在だけで、授業にやる気を出してもらえるとは思っていなかった。それはとても嬉しい。


「それに、隣の席になってからはね。授業中も全然退屈しなくなったんだ。だって、ろーくんの顔がいつでも見られるもん」

「それは……まあ、確かに俺もそうだな」


 由佳の言葉に、俺は隣の席になってからの授業中のことを思い出す。

 俺達は、何度か顔を見合わせていた。それは授業が退屈だと思った時に、お互いに相手の顔を見て癒される時間があったからなのだろう。


「本当にろーくんの隣の席になれて良かったって思ってる。しかも今は家も隣だし、すごく幸せ」

「それは俺も同じさ。俺達は本当に幸運だった」


 様々な幸運が重なった結果、俺と由佳は家でも学校でも隣同士になれた。

 それは本当に幸せなことである。ただ今が幸せな分、少々不安もある。


「次の席替えの時が怖いな」

「あ、それはそうだね……」


 家が隣同士なのは変わらないだろうが、席に関しては席替えによって変わっていくだろう。

 それで由佳と席が離れてしまったら、かなり寂しいのではないだろうか。今が幸せな分、喪失感もかなりのものになる気がするし。


「また隣の席になれるといいね。次の席替えがいつになるかはわからないけど」

「ああ、そうだな。そうなって欲しいものだ」


 由佳の言葉に、俺はゆっくりと頷いた。

 そこで俺は、あることを思い出す。俺達は今、勉強会をしているのだ。休息はもちろん必要であるが、こんな風にしんみりとしている場合ではない。


「さて、由佳。それじゃあ、わからなかった問題を一緒に解いていこう」

「あ、うん。よろしくお願いします」


 こうして俺達は、しばらくの間勉強に精を出すのだった。

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