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いつも通りの教室

俺の声は、俺の手は届かなかった。。


一青は重力にしたがい落ちていく。それからは見ていない。


俺は後ろによろめいた。


足の力が抜けて座り込んだ。


頭が真っ白になっていた。


俺の手はかすかにふるえていた。


俺はそこから動けずに座っているとしたから叫び声が聞こえた。


誰かが一青を見つけたんだろう。そして下から人の声が聞こえてくる。


何分経ったがは知らないが俺はまだそこに動けずにいると誰かが屋上のドアを開けた音がした。


俺は振り向く。そこには俺のクラスの担任の桜井がいた。桜井は、いつも顔にしわを寄せてなんでも大声で怒る。


自分の意見を他人に押し付けるようなやつでそのうえに短気なので生徒からもあまり人気はない。「おまえそこで何をしている!?」


先生は、信じられないような、怒ったような、恐れているような複雑な表情をしていた。


「お。。おれ。。。は。。。」俺は言葉に詰まった。俺は何をしていたのか?そんなの俺も知らない。


何も戸惑っている俺に先生はボソッと言った。「まさか。。お前が一青を突き落としたんじゃないか?」独り言かどうかわからない。それは俺に聞いてほしいという意思を持って行ったのか、それとも単なる独り言なのか俺にはわからなかった。


俺は何も言わずただ先生を見ていた。いいや正確に言えば何も言えなかったのだ。俺が一青を突き落とした?冗談じゃない


桜井は何も言わない俺をじっと睨む。


そこに割って入ってくるように保健室の大野先生がやってきた。


「高橋君?!なんでここに??」先生は驚いた以上の顔をしていた。


「とにかく。。中に入りましょう。話はそれからよ。立てる?」大野先生は俺に駆け寄って肩を差し出した。「あれは何かしら?」大野先生は俺から視線をそらして屋上のふちに一青が乗せたスケッチブックを見る。


大野先生は俺から手を放して、スケッチブックを手に取る。


俺の角度からは大野先生が前にいるせいでスケッチブックはあまりよく見えなかった。


だけど先生はそのスケッチブックを手に取った瞬間、心配していたような表情から目つきが変わった。真剣にスケッチブックを見つめていた。


先生は俺のほうを向く。そしてスケッチブックを体の後ろの俺の見えないように隠した。


「桜井先生、高橋君を保健室に連れて行って上げて下さい。保健室の中には誰も入れないように。とにかく、高橋君を一人にしてあげて。」大野先生は優しくそう言った。


桜井はおとなしくなって俺を連れて中に入った。校舎内はいつもよりもシンとしていた。人が少ないのもあるかもしれない。


今日は運動部はほとんど来ていない。もう帰ったはずだ。教室をちらっと除くと泣いていたり、窓の外を気がかりに見ていたりしていた人がいた。


廊下を歩いている生徒とすれ違うと視線がいたい。


そりゃあそうだ。こんな大事があったすぐあとに俺は桜井に連れられて歩いているのだから。「もしかして高橋。。なんか一青さんとあったんかな?」「高橋何やってるんだろ」変な勘違いを生んでしまった。


しんとした廊下でそんな声が聞こえた。俺は何が起こったのかわからない。


俺は何かに締め付けられたような気がした。


だけど、俺はただ顔を伏せて誰とも目をただあわせなかった。ただ、そうしたくなかった。ああこうしているうちに俺は、保健室についた。


桜井はいつの間にか持っていた保健室のカギを使って保健室を開けた。


夕方のオレンジ色の光がかすかに部屋を照らしていた。


なかなかきたことがない保健室。俺は置いてあった木の椅子に座った。


救急車の音が聞こえてくる。それがだんだんと大きくなって、鼓膜が悪くなりそうなほどおおきな音で近づいてきた。俺はただ床をじっと見つめていた。


何が外で起こっているのかは想像がつく。


俺は無心のままただ保健室の天井を見つめていた。どれくらいたったかは知らないが、いつの間にか大野先生は保健室に入ってきていた。


「落ち着いた?」大野先生は俺に聞く。


落ち着いた?何がだよ。俺はいまなぜか怖いほど冷静だった。落ち着いた?俺は逆にこんなに落ち着いている俺が怖い。


俺は何も言わなかった。大野先生が何か持ってるのに気づく。


それは一青のスケッチブックだった。俺が大野先生が持っているものに気づいた、大野先生は俺を見た。「高橋君。何があったのか話してくれないかな?」大野先生は言う。


俺は言葉が詰まった。なぜ俺が屋上にいたのか?だろうか。


それともあの一青が飛び降りた瞬間のことだろうか?それとももっともっと前の。俺が一青と話したことのないときからだろうか。


わからない。俺はそのまま黙っていた。


「少しのことでもいいんだ。別に今じゃなくてもいいんだよ。話したくなったら話してくれていいから。」話したくなるなんてあるはずがない。少なくとも思いだしたくない。


わずかに、沈黙が続いた。

だけど俺はその沈黙を壊して言った。


「そのスケッチブックって一青のですよね」俺は言った。


先生かかえていたスケッチブックをチラ見して、「これはね。。ごめんね。今は見せられないんだ。明日、朝に学校来れる?8時に。そしたら見せるね。説明。。といったほうがいいかな。」大野先生は言った。俺は「はい」と言ってうなずく。保健室を俺は出る。そしてリュックを背負いなおして俺は家に帰った。

次の日。

俺は、チャイムぎりぎりに登校した。冷静でいつも通りのようだが、ぎりぎりのため廊下にはあまり人はいない。

俺は2年四組ではなく保健室へと向かった。


『8時に保健室に来てね』 大野先生にそういわれたからだ。扉を開けるのにやけに緊張する。


手が震えている。いつものように冷静だが、胸のどこかで締め付けられている感覚があった。


あのスケッチブックに何が書かれているのか。俺はゆっくりと扉を開ける。


「大野せんせ。。。」扉の向こうは保健室ではなかった。ただ二年四組の景色だった。


「は?」言葉が口からこぼれた。チャイムぎりぎりのため、教室には全員いる。一青も。


「おはよ、今日はぎりぎりだな!早く準備しねえとチャイムなるぞー」アキトは言う。


え?は???


俺の目の前にあったのはいつも通りの2年4組の教室だった。


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