届かない声と手
それから一週間がたった。普通の。俺はすこし一青を意識して遠ざけた。もうかかわりたくなかったから。だけどそれがいけなかったのか俺はひどく後悔することになる。
朝、俺は少しだけ、気分が乗ったからいつもより10分早く登校することにした。
俺の家は学校から近い。
だから友達とは登校していなかった。
家をでてエレベーターに乗る。いつも通り。
何も変わらない。
学校の表門を通るところに先輩が元気に「おはよう!」と挨拶をしてくる。俺は先輩のほうを向いて小さく首を動かした。こういう時ってどうすればいいのだろうか?俺はいつも悩んでしまう。
そしてまだあまり人けのない学校に入った。教室にはまだ3,4人しか来ていない。いやもしかしたらカバンが置いてあるのでもう1,2人は来ているか。俺は自分の席に向かった。
3,4分すると続々とクラスに人が入っていき騒がしくなった。廊下からも声の数が増えていく。その時だった。
一青が教室に入ってきたのだ。何も言わず、いつも浮かべているような笑みは浮かべていない。俺の目はその光景をとらえてしまった。
たぶん遠ざけようと意識していたから勝手に目がいってしまったんだろう。見てしまった以上俺は一青に違和感を抱えた。
いつもなら空気を突っ走っていくのに、今日は空気に溶け込んで消えて言ってしまいそうな感じだった。
誰も一青が来たことに気づいていないようだった。
一青はそのまま俺の後ろの席に座った。
俺は誰にもばれないように一青を見る。
一青はただボーっと窓の外のグランドを見つめていた。
まるで人が変わったようだ。
そんなことを思っていると背中をバンっと強くたたかれた。
「よお!、どしたそんな朝からボーっとしてよ。また夜更かしか?」朝から元気に友達のアキトが言った。
「まあ、ううん、うん」俺はあいまいに答えた。
「どっちなんだよw」とアキトはツッコんだ。
「たぶん、好きな人とかできたんじゃねーの?」ほかの友達ケイがいう。
「ヒューヒュー、青春ですねー。ところでその女の子は?」冷やかすようにふざけてあおるようにアキトは言う。
「ちげーよ」俺は言った。
「あ。。ごめん男子だったか。」アキトが言う。
「ちげーってw。真剣っぽくそこいうなよ。」俺はこの会話でさっきの違和感なてどこかに吹き飛んで行ってしまった。
そして一青のことなんて頭に入ってなかった。
放課後。一青が教室から空気のように出ていくのが目に映った。
行ってみようか。俺は一瞬思ってしまった。どうせやることなんてない。
「なにやってんだ?駿、早く帰ろーぜー」アキトは言う。
「俺、やることできたから今日は先帰っといて。」
「ういーす。」アキトは言う。
俺は教室から出て自然な形で一青の後を追った。
自然ふるまうは得意だ。
俺は一青が俺の視界に入らない距離をとった。
どうせ行先は決まってる。4階まで階段で上る。
そこで一度立ち止まった。
俺は、屋上の扉が閉まる音が聞こえるとゆっくりと屋上に続く階段を上り始めた。
そして恐る恐る屋上の扉のドアノブに手をかける。
ひんやりと冷たかった。俺はドアノブをゆっくりと回した。
そして少しだけ扉を開ける。
屋上の景色が見えた。
俺は少しずつ音を立てないように扉を開けて体を屋上に滑りこませる。
なにやってんだ俺は。
一青は屋上のど真ん中にバックをほりなげていた。そしてスケッチブックを手に持って絵を描き始めるのかと思ったら屋上のふちに立った。
今日はグランドには誰もいない。
運動部部活は今日は休みなのだ。
俺は一青が何をしているのか俺にはさっぱりわからなかった。スケッチブックを立っている足元に置いて手をまっすぐ横にして屋上のふちを歩き始めた。
危なっかしいことをする。
ほんとうに考えていることがわからない。そしてグランドを一青は見下ろした。
待てよ。。おい。。。まさか。。。。。俺は一瞬、ある言葉が脳を横切った。一度は聞いたことがある。。。。
「自殺」という言葉を。。
一青は体を前にのめりだして屋上のふちを思いっきりけって腕を上に振り上げた。
一青の体がグラウンド側に宙に浮く。
「「「待ってって!!!!!」」」俺は反射的に叫んだ。
一青は一瞬こっちを振り向いた。
時間がスローもショーンのように見えてきた。
一青は優しい笑顔でこちらを見ていた。
俺はリュックを投げ捨てて屋上のふちへと、一青のほうへと全力で走る。
たったの約15m。これが体育の測定だったらとても短いのに俺はこの距離がやけに長く感じた。
俺は屋上に上半身を乗り出し手を思いっきり出す。
俺の声は、俺の手は届かなかった。。