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新たな役割1

 あ、ここ、いつか来たことのある空間だ。私はゆっくりと辺りを見回す。

 

 とうとう戻ってきたんだと思うと感慨深い。

「約束より全然早いし、お話がめちゃくちゃになっちゃったし~~~!」

「なったものは、仕方ないでしょう」

 あっさり言い切ると私は顔を上げる。いつか出会ったあの女神がそこに居た。


「そんなんじゃ悪役失格!」


 キンキンと耳につく声で宣告される。

 そんなことを言われても、だって私が望んだ役ではないんだし。

「それは、女神様の配役ミスでは?」

 この発言が不興を買うなんて事はわかりきっていたけど、それでも一言文句を言わずにはいられなかった。


「だってちゃんとマニュアルも渡したし! たったの十年、マニュアル通りにあの子を虐めてくれればよかっただけなのに!」

 美術品のように整った顔を歪めて、女神は『コツコツ続けてしっかりヘイトを育てる! 悪役マニュアル』を振り回した。


「そう言うなら、女神様ならできたんですか? あの子に、ここに書いてあるような事を」

 私の言葉に、女神はぐっと言葉に詰まる。

「……そんな事できるわけないじゃない」

 尻窄みに小さくなる女神の声。言いながら、マニュアルに沿って『虐め』ている所を想像したのか涙目になる。

「でも、お願いしたのに~!」

 とうとう泣き出した女神に胸を貸し、私はため息をついた。

「仕方ないじゃないですか、私の勝手な望みより、あの子の方が大切だったんだから」

 泣きたいのはこっちなのになと思いながら、私はさらに女神の背を優しく『ぽんぽん』する。


「元の世界に戻る事より、あの子が幸せでいてくれるほうが大切だったんですよ」

 涙をいっぱいに湛えた目で女神が私を見上げる。にこりと笑いかけると、彼女はさらに泣き出した。


 涙でぐちゃぐちゃの、でも美しい顔で女神は私に言う。

「もう元の体には戻せないからね?」

「わかってますよ。覚悟はしました」

 アレクの背中を見送った時にちゃんと覚悟した。元の世界には戻れない、今までいた世界にも戻れない。


「これからアレクは『魔王』を倒して、私のことは忘れて、お姫様と幸せな結婚をする。そのためなら……」

「本当にそうなると思ってます?」

 じとっとした目でこちらを見て、女神が指を鳴らすと、空中に大きな鏡が姿を現した。


 映っていたのは、さっきまで居た世界。


 アレクが、くずれた氷の城に戻って来ていた。ジョンの制止も聞かず瓦礫の中に駆け込み、唯一形が残っていた部屋に横たわるユリアの前に跪いた。


 手にした布袋の中から輝く結晶を取り出し、ユリアの胸の上に置く。

 だけど、当然すでに体から切り離した魔力が元に戻ることはない。


「ユリア様、ユリア様……」


 虚な目をして名を繰り返すアレクの前で、『魔女の心臓』、輝く結晶が一瞬で黒く染まる。そして、その結晶を中心にして真っ黒な魔力がぶわりと膨れ上がった。どす黒いその魔力は大地を這い、空を埋め尽くしてゆく……。

 『魔王』が、新たに誕生した瞬間だった。



「はい! ここでストップです!」



 女神の声に合わせて画像がぴたりと止まり、前のめりになっていた私は思わずその場でたたらを踏む。

「え! え? アレク、なんで」

「なんでじゃないんですよ! アレク自身で止めを差しても、そうじゃなくても、アレクがあなたを慕っている限り、やっぱり世界が壊れちゃうんですよ~~~!」

「やっぱりって、どういう事ですか?」

「やっぱりは、やっぱりですよ。アレクは何度もああして世界を壊そうとしたんです」

 女神は眉根を揉みながらため息をつく。


「え? だってあの世界は神様達が小説の世界観を再現したくて作った世界だ、って」

「嘘ですよ、そんなの。あの世界は私が管理している世界のうちの一つです」

 あっさり言われて、私は言葉を失う。

「困ったことに、何度繰り返してもあの世界は壊れる流れに辿り着いてしまうんですよね」

 理解が追いつかない。私は、その言葉こそ嘘だって言ってほしくて、なんとか突破口を探す。


「じゃ、じゃあ、あの本『氷の騎士物語』は?」

「私がシミュレートした選択肢をもとにした、世界を壊さない様に進めるための指針です。あの流れでいけば、世界を守れるはずだったのに」

「え? でもあの時、本は回収しようとしてたのに」

 ネタバレになるからって、そう言って……。

「そうすれば、あなたはあの本に興味をひかれ、持っていこうとするでしょう? 人間は、自分が選んだ物を信じる傾向がありますからね。『自分で選んで持って行った、だから中身は信じるに値する』そう思ってもらいたかったんですよ」

 そこは、女神の誘導にまんまと乗ってしまった。でも、あの本は過去のページしか読むことができなかったけど?


 私はその疑問を投げかけようとする、でもその前に女神が口を開いた。


「ユリアの魔力をアレクシスが受け取らなければ聖剣は本来の力を発揮せず『魔王』を倒せないから世界は滅びる、かと言って、魔力をアレクシスが受け取ることでユリアが死んでしまえば、さっき見たようにアレクシスまでもが『魔王』になり世界を滅ぼすスピードはあっという間に倍速に」

「え?」

 とんでもないことを聞いた気がする。

「だからですね、アレクはあなたが死んじゃったら世界ごとまるっと否定しちゃうんですよ!」


 いつかみた夢で聞いた、アレクの声を思い出す。

 『……こんな事でしか守れない世界なら……いっそ俺が全部……』


「で、壊す直前でこうやってストップをかけて、戻してもう一度っていうのを何回もやってるんです」

「何回も?」

「そう。世界は戻る。でも、記憶は引き継がない。だからあなたも覚えていないでしょう? あなたは何回もアレクを育てて送り出してるんです」

「そんな……」


 予知夢だと思ったあの夢は、夢じゃなくて、戻る前の世界であった出来事だったとしたら。

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