3 フタを開ければ腹黒い店主だった
店の中に入ると外見より広く見える造りの空間だった。壁にはみっしりと商品が並んでいて、天井からも籠が垂れ下がっていてその中にも商品があった。近くにある商品のケースを覗くとカラフルな飴玉やガム、チョコレートやスナック菓子などがあった。都会ではなかなかお目にかかれない珍しい駄菓子まである。
店内を見ていると店の奥から若い男店主が現れた。
「いらっしゃ〜い」
男性にしては長い髪の毛を後ろで軽く結え、紺色の着物に白い法被を羽織っている。一見するといいところのお坊ちゃんにも見える格好だったが、その着こなしは緩くてだらしがなく、何というかちょっと残念だ。せっかく仕立ての良さそうな着物が泣いている。
「あ、あの。黒猫がこの店に入っていくのを見かけて追いかけてきたんですけど……」
「黒猫ぉ?あぁ、もしかして黒兵衛のことか?」
店主はそういうと何処からかマタタビを出してきておもむろに振り始める。
するとどうだろうか、積まれていた段ボールの中からひょこっと黒猫が顔を出した。
「どうせまたソコにいると思ったわ」
店主は黒猫の黒兵衛の首根っこを掴むと、私の目の前まで連行してきた。ご丁寧に黒兵衛の口にはアタリ棒が。
私は無事、アタリ棒の回収に成功したのだった。
「ん、お前さん…。ソレ、こいつに取られたのかい」
「あ、はい。アタリ棒だったので勿体なくて。夢中で追いかけてしまいました」
回収した棒を店主に見せて事情を説明したのだった。
「そいつは災難だったねぇ〜。にしてもアタリ棒ねえ〜」
店主はまるで面白いおもちゃを見つけたような、そんな目でじっとアタリ棒と私を見比べてきた。そんなにアタリ棒が珍しいんだろうか。まとめて買えばある程度の確率で当たると思うが。まぁ、こればっかりは運だろうけど。
「お前さん、バイトしてみる気ないかい?確かここの引き出しに…お。あったあった」
店のカウンターから何か探し始めたと思ったら、バイトの募集要項だというではないか。
紙を受け取ると、
スタッフ募集!!!
時給:1500円
仕事内容:発注、品出し、事務仕事、接客など。
勤務条件:住み込みで働ける者、読み書き計算ができる者
と書いてあった。
「どうだい?時給は高めだし、そんなに難しい仕事じゃねぇ。割りのいい仕事だと思うんだが」
確かにそこだけを見ればとてもいい響きだ。だが勤務条件の欄に気になる一行を見つけた。
「この〝住み込み〟ってのは絶対?家から通うのはダメなんですか?」
「あぁ、それね。形式上そう書いてあるだけさ。あんまし関係ないから読み飛ばしてオッケーb」
「なら、もう少ししたら夏期休暇に入るしその期間でもよければ」
別に収入源が多くなることに越したことはないし、了承したのだった。
「んじゃこの契約書にサインして……っと、おし、これで契約完了っと」
作業はすぐに終了した。まぁ、黒猫を追いかけてまさか駄菓子屋でバイトをするなんて、数時間前には夢にも思わなかったけど。これも何かの縁かな。
「んじゃ早速研修で1日入れる?」
「これからですか?……まぁ、説明受ける程度なら……」
家に帰ってやることもあったが、幸いにも明日は休日だった。課題も何とか終わるだろう。天気も土日は晴れらしいし、明日干そう。
店主に連れられ、駄菓子屋の奥座敷の方まで案内されると店主は電話の受話器をとり、
「今から発注あったものとバイトの子送るから〜よろしく〜……っと、じゃ、よろしくねぇ〜」
「!?」
〝送る〟と言ったのかこの店主は。一体どういうことかと詰め寄り説明を求めようとしたが、床に陣らしきものが浮かび上がり、白い光を放ったかと思うととてつもない浮遊感にのまれ思わず目をつぶった。