2 黒塗りの黒電話
小道を抜けると、そこには一軒の古い駄菓子屋があった。
その外見は実家近くにあった店によく似ており、懐かしく思えた。よく学校の帰り道、少ないお小遣いで駄菓子を買ったっけな。
店先には季節を感じさせる風鈴、昭和を感じさせる10円ゲーム、何が入っているのかイマイチよく分からないガシャポン、そして郵便受けの上で香箱座りで余裕そうな笑みを浮かべる黒猫。
黒猫は伸びをし、こちらをチラッと見たかと思えばアタリ棒を咥え、すたこらと隙間から店の中へ入っていってしまった。
「ちょっ!」
止める間もないほんの僅かな間の出来事だった。
してやられた。
駄菓子屋の奥座敷ではひとりの若い男店主が長電話をしていた。
今時絶滅危惧種とも言える黒塗りの黒電話で。
「だーかーらー、俺も送ったはいいけど、使い方なんて分かるわけないだろ?それを承知で依頼してきたのはそっちじゃねーか」
「だがそちらでの暮らしにはもう慣れたはず。せめて付属している説明書を翻訳して一緒に遅れと、そう言っているのではないか。……お前、今何かつまみながら話しているな?」
「……んなわけないっしょ。文字の種類が多すぎて翻訳しようにも出来んのよ。〝ヒラガーナ〟や〝カタカタ〟〝カンジィ〟〝エーゴ〟……。しかもその組み合わせの数といったら無数にあるんだぞ?」
ギクっとして手からアイス棒を落としそうになった。あっぶね。時々見えてんのかってほど正確に突いてくるから末恐ろしい。
決してサボったり手を抜いているわけではないのだ。
これはいわば一種の〝研究〟そう〝研究〟だ。
「これではお前をそちらに送った意味がないだろう…。どれだけの経費をつぎ込んだと思っている?お前の月給のゆうに何十倍の額だと……」
こいつはこう言い出すと止まらなくなる。
「ああ言えばこう言うところは全然変わってないし、姑かっての。出来ねぇもんは出来ねぇのさ。申し訳ないが出来ることには限度ってもんがある。……あ、ちょっと待っててくれ。珍しく来客だわ」
その時、来訪を知らせるベルの音が鳴り響いた。