フランチェスカ・ツェナー
「あの…」
久々に暖かいお風呂に入り、身綺麗にして呟くように私は声をかけた。
「ふむ、これは……」
「やっぱり無理か」
現れた私を見るなり二人の男は呟いた。
教会から下町の宿屋まで強制的に連れて来られ、身を清めろと言われ、服一枚を渡されそのまま浴室へと押し込まれた。殺されるよりはまだ辱めを受けた方が幾分か生存確率もあるし、お風呂にも入れるしで怯えながらも従ったが、男達は失礼極まりないことを口走る。すぐには殺されることがないと分かった私には失礼な発言に気付くくらいの余裕はあった。放逐されたばかりだったならこれから受けるであろう暴力に怯えていたかも知れないけれど、一瞬の暴力など耐えられる。飢えて死ぬよりは我慢できる。だから男達の顔は見ず、ずっと足元を見ていた。相手の顔を見てしまえばその分、自分の死亡率が上がるから。
「いえ、大丈夫かもしれませんよ?ええっと、顔を上げてもらえますか?」
苦笑交じりに男がそう言うが、絶対に見るもんか。顔を確認したいのは理解できるが、死亡率が上がるかもしれないのに顔を上げるほど私は無謀じゃない。この顔を何としてでも元に戻して、魔女に復讐するまでは死んでも死なないと決めてある。堕ちた美女の怨みを身を持って味合わせなきゃ私の気が済まない。
「女性に乱暴な事はしたくありませんし、こちらを見てくださいませんか」
困ったような声色で男は言うけど、私は知っている。この声の主が私に剣を向け、この私を『女』呼ばわりしたのだ。時々イラつきを声に出す男よりもこうして感情を乗せずに声色だけ変えるこの男の方がよっぽど危険なのだ。
「面倒だな、こっち見ろ」
「っ!!!!」
首を振り頑なに顔を上げないで居れば、しびれを切らした男の手が無遠慮に私の顔を掴んだ。
目が合うなり、男も私も互いに目を見開いた。知り合いだから、とかではなく、言葉遣いとは裏腹にあまりにも男の顔が綺麗だったから。そして、きっと男は私のような顔の女を見たことがなかったから。
「……目元だけ出しとけば、これならなんとかなるだろう」
男はそう言って私から手を離した。まるで物を捨てるかのように。
「…そうですか、ではそのように。失礼ですが年齢とお名前を伺ってもよろしいですか」
再びうつむいた私にもう一人が声をかける。きっとこの男も貴族なのだろう。先ほどの男を見かけたことはないが、あれだけ綺麗な顔立ちならば間違いなく貴族だ。基本的に特権階級である貴族の見目が悲惨なことはない。何せ貴族は綺麗な者を配偶者として選ぶことが可能だから。私がこっぴどく振った男爵ですら市民の中に居れば普通のおじさん、くらいと言えよう。それがこれだけ綺麗な顔立ちで、イントネーションも綺麗な帝国語、私の顔を掴んだ手は硬くはあるが肌あれは見られない。そんな人間に終始丁寧に話すこの男もまた、貴族だろう。
「…16です、名前は……」
「スースだ、そう名乗れ」
同じ貴族に私がフランチェスカであると、これだけ綺麗な男に知られるのは嫌で年を偽った。どうせこの一月で体は瘦せこけたから少しの年の差くらい、分からないだろうし、何より若い方が下賤な男どもは喜ぶから。名前をどうするか、答えあぐねいて居ると先ほどの無礼な男が口を挟んだ。
「……スースですって?私を……私をあなたは豚と呼べと?言葉を、言葉を知らぬ民だと思ってあんまりですわ!」
あんまりだった。美しく生まれ大切に育てられてきた。呪いを受け一晩で全てが崩れ去り、プライドも尊厳も踏みにじられた。そして、知らぬと思われ己を豚と名乗れと醜いから命令される。怒りに私は身を震わせた。




