はぁサイですか(短二刀で薙刀を相手したときの話。『剣道』特別篇 2017年 03月04日 改稿)【2021/04/19】
創作の世界でもマイナーな武器というものはあるものだ。
そういう武器に限ってやたら一部では大人気だったりする。
センセの道場では沖縄空手キラー装備『サイ』を教えていた。特殊文字Ψ(プシー)と同じ形であり、十手術に通じる。
サイ(釵)は沖縄空手の武器である。
ゲーム『真・三国無双』シリーズではヒッカサ?(筆架叉)なる武器が出て来るらしいが、デザインが行き着くところまで創作入っていて、少なくとも筆者の知るサイなどとは別物だ。卍状の卍サイというものも存在する。沖縄ニート生活時代にゲストハウスに置いていた現物を見たことがある。
素人目に重そうで強そうで何というかカッコイイらしい。
まぁ銭形平次も似た武器である十手を使っているし。
もっとも十手使いの例として今上げたあの親分は銭を投げては拾っているらしいのでそっちの要らない情報のほうがインパクト強い。
余談だが知人の友人は十手術をおさめ、学生剣道で対戦相手の竹刀をことごとく破壊し叱られたそうだ。竹刀は地味に高い。カーボン竹刀を故意に破壊しようものなら相手の親と戦争になるだろう。
沖縄空手キラー武器サイはかように対武器にも素手に対しても有用な武器である。
にしちゃ現実でも創作でもマイナーに過ぎないか。今回はその辺も考えてみよう。
創作の世界でざっと知る限りや活動報告返信によるとミュータント・タートルズ、デッドプール、マトリックスシリーズにも出て来るらしい。
忍者の武器ではないのだがいいのか。まぁマイナー武器の使い手からすれば興味を持ってくれるならいいかといわざるを。いややっぱなし。
此の際……じゃなかった。とりあえずサイの話をしよう。
持ってみた人は珍しいのではないかという偏見は筆者の愚考無知蒙昧であって、感想返信を見る限り一定数はいらっしゃるようだ。
持てばわかるが小太刀サイズのくせにやたら重い。
練習用に父がパイプを伸ばして打ち延ばし作成したものですら400グラムもある。
細身のサイですら750グラムもある。
がっつりした作りならもっと重いのではないだろうか。
練習時に腕を鍛えるため片手で二本まとめて持つこともある。
取敢えず沖縄空手キラーな武器、サイ。
江戸時代に刀を持った武士を捕縛した十手術に通じるサイ。
かくも使えそうでカッコいいのに何故マイナーなのだろうか。
素人考えだが重量的にみると左右揃えれば刀とほぼ同等で同じ両手を潰すならリーチがあって刃もしっかりした刀のほうがいいよねとなる。
あくまで素手を補強したり素手に準ずる武器を使用する者を退治するのに使ったほうが効率がいいだろう。
さらに投げるためのサイを二本持ったら合計四本。
軽く見積もって三キログラムで携帯武器としては結構な重さになってしまう。
武器というより素手の技を補強する『補助具』であるとみなしたほうが現実的だろう。
刀剣は携帯武器の中で最も大きく最も使いやすいバランスを持っているがゆえに武道の基礎となりうると先に述べた。
ではサイはどうか?
これが「走るには刀よりマシでね」と思いきや、やってみればカチャカチャして重いし帯が苦しいしであまり……いや、暗器としてはワンチャンあるのかしら……。にしちゃデカすぎて。
父の口伝によると『もとはかんざしだった』。
カイザーナックルを髪飾りにする『逃した魚は大きかったが釣りあげた魚が大きすぎた件』の主人公一族じゃないんだぞ?! どんな恐ろしいかんざしだ。
何でも父に言わせれば発達と共に武器としてデカくなったらしい。
そういえば昔の武士の娘たちもかんざしを武器にしていたっけ。
空手の話ではないが、刀にも笄という耳かきや櫛や手裏剣になりうるツールや小柄という投てきにも使える短剣を装具として取り付ける。
笄は今や日本人のほとんどに忘れられたものの陸生生物コウガイビルにその名前を残している。
意外と民具を起源とする物騒なものは多数あるのだ。
ヌンチャンクやフレイルは農具起源だし、共産主義者の象徴にもなる鎌はそのまま武器になる。
トンファーもハンドルなどで簡単に作ることができる。
これら民具はお上といえど取り上げてしまっては下々の生活が成り立たないので民衆の最後の武器として機能した。
結果的に沖縄空手は民具や棒を用いる術が多いことになるが、サイの型は空手型をほぼそのまま使える。空手キラー武器だが空手を補強する武器である証左のような気がする。
しかし。ここで武器としての基本に立ち返ってほしい。
武器は長物のほうが遠心力を乗せることができるため強い。
どうせなら遠隔のほうがもっといい。
遠隔でなくても火やガスや水責め病気攻めは古来から戦略兵器として活用されてきた。
何度も述べよう。
デカい硬い重い強いみんなでボコる。可能なら火をつけ水責めし毒や病気を撒き散らし敵の畑に塩を撒き遠距離から殲滅が普通に強い!
普通に中身ぎっちり鉄の塊。
黄金の鉄の塊ならさておき、実際のサイは真っ黒に黒錆をつけたりピカピカに磨いたりしている。練習用の木製も存在する。
筆者は知らないが活動報告返信によると漫画『無限の住人』の敵役が自在に操る斧“頭椎斧”はサイに似ているらしいが、これも『真・三国無双』の『ヒッカサ』同様にモチーフになる実在武器があれど完全な創作武器だ。モチーフと思われる中国武術の武器は双鈎といって用法はクルクル回って踊りのようである(http://www.gaopu.com/333.html)。
実際には旗がついていて視覚を惑わす効果も高いと思われる。あとこれくらったら治癒が難しいだろう。しかしこの漫画の用法はこうらしい。
「刀で受けようものならその刀ごと頭蓋骨を叩き割る」
うん。素手の補助具であるサイとはコンセプトが違うね!
筆者が学生時代に剣道をやっていた関係で某道場主のセンセ及び父に拉致されていた時期についてはKindle版『無笑』の『もげろ剣!』編に収録しているのでそちらを参考にしてほしい。
活動報告返信を引用すると『コナン2 キング・オブ・デストロイヤー』にて若き日のアーノルド・シュワルツェネッガーが演じたコナンは「右手にバトルアックス、左手にブロードソード」でラスボスの怪物の前で仁王立ちするらしい。
異種武器二刀流、長剣二刀流はカッコいい!
けど筆者にはノーマークだった。
腕の長さと胴体の大きさ的にチビには長い剣二本は使いにくいからだ。
しかし筆者が無知蒙昧なだけで実はレイピア二本があるらしい。
まぁ筆者の趣味嗜好はさておき、敵に囲まれたら自然と若きアーノルド・シュワルツェネッガーのように二刀を抜いたほうが生存率があがるのではないだろうか。桜田門外の変でも二刀抜いたらしい。
ただ、この時代の戦闘は刀がファッション化したのちだったので実際の戦闘は実に酷い有様で、犠牲者たちはほとんど撲殺の有様だったそうだが。
刀がファッションの一部になった文化の話は次回以降述べることができるだろうから一度置いておこう。
実際に戦うとあちこちから斬りかかられるので必死で生き延びようとすると、自然持っている短刀と長刀の組み合わせになることは人間の恐怖本能を考えれば結構あるだろう。
同じサイズやや短めの剣二本(※筆者が対戦した方は『蝶剣』と称していたが実際の中国武術を考えると見た目的にも違う気がする)も筆者は対戦したことがある。
しかしレイピア二刀流に関しては剣道を辞めて10年以上経つ筆者には当然対戦成績などない。
筆者が突き剣二本動画を見ての感想はこうだ。
『ルール上動きが直線なのは譲れるが華麗な中国剣術や技巧的で面白いフェイシングの短剣or小盾&長剣組み合わせと違ってなんか地味』
競技やっている方がいらっしゃったらマジごめんなさい。
西洋剣術はマントによる防御もなかなか面白い。国内でマントを使うヒーローは『ザ・カゲスター』という超絶マイナーな特撮ヒーローしか筆者は知らないし、それだってマント術ではなくクルクル回ると敵が勝手に倒れるという謎原理だった。
よって、レイピア二刀、盾とレイピア、西洋のマント術の素晴らしさはそのうち読者様が教えてくれることを期待しよう。
筆者の話に立ち戻るとサイの型だけはセンセの所でも習えた。というか父が教えていた。
しかしサイという武器の殺傷力がもともと高いこと、安価且つ安全面に配慮したサイを父が開発できなかったためかの道場において防具練習ではサイの代わりに短二刀を使っていた。当たり前だが用法が大いに変わる。
作りがしっかりしている品ほど反発係数(硬度や頑丈さ)が強い。本物のサイは危険すぎて逆に防具練習には使えないのだ。
スポンジヌンチャンクを防具試合に使うとほとんど戦えないのは防具の所為だけではない。比重が軽く、ポンポン跳ね返って全然痛くないしまるでうまく振れない。
サイが防具稽古で『使えない(※使うことができない)』のはわかっていただけたであろうか。
だから短二刀。
しかし短竹刀。
……これを常用する者は少ない。
『昇段審査で使います。他は使いません』
短竹刀をどのようなものかと問われると筆者如きの経験値ではこうとしか述べられない。
そしてその短竹刀を購入する出費がひたすら痛い。
殴られるより財布に明らかにダメージがある。筆者は例によって部活の倉庫から発掘した。
打ち込みの練習とかそういった時は打ち込み棒や打ち込み人形を使うのでやっぱり短竹刀は使わない。
たまーに二刀流をネタでやって先生におしかりを受けるおばかさんが毎年一人は現れるが、ルール上は〇でも精神的にNG。男がスカート履くようなものである。
上段構えもそうだけど人によっては審判対戦相手共々マジギレされる。
上段構えは審判を敵に回すことはまぁ無いと思いたいけど二刀流は審判が『困る』案件だったりする。
精神面だけではない。
一対一で正面切って戦う既存の剣道の用法を守る場合、二本の竹刀を持つと自分の両腕に邪魔されながら攻撃を続ける必要がある。あと喉の防御が開く。
それを解決する場合身法を使って理外から攻撃、および複数の敵を複数の味方と迎え撃つ戦い方になる。
端的に述べると二刀を扱う動きは現代剣道の正面切って戦う感じじゃない。
クルクル回ったり左右にフットワークするから誰かに尻を向けることになる。
クルクル回るで思い出したので話がずれるが、学生時代剣道バトルロワイヤル(or強い人に複数の後輩が挑む)してみたことがある。
審判が死にそうになるので敗者勝者共に自己判定である。
うまい人だとすすっと移動しつつバンバン面を叩きこんでくる。触れることも出来ない。
攻撃のための移動がそのまま防御になっている。
でもやっぱりある程度『回る』必要がある。
結果踊っているような剣になる。
こんなふざけた練習をしない限り剣道は基本横に薙ぐことはあんまない。
胴うちですら上から振り降ろすのを左右に調整して攻撃するからだ。
このように、乱戦には二刀流! といいたいところだがどうやって判定するのか怪しいということを述べたうえで、では一対一でサイを使って戦う場合どうすればいいのかという話に戻るべきだろう。
繰り言だがサイの練習は型稽古が主なものになる。
そのまま防具稽古に使うと危険度が洒落にならんからである。
そもそもうっかり剣道の反則勝ち狙いで行う武器落としを試みようものなら相手が鉄の塊をするっと落とすことになる。
こうすると体育館に傷がついてマジで叱られる。
センセがいくら無敵な性格の持ち主でも好意で体育館を貸してくれる中学に勤める用務員さんには負ける。
そんなサイの用法は多岐にわたる。
投げる。普通に殴る。刺す。握りの尖ったところでどつく。
横の護拳部分で受け止める。逆さにもって殴る。護拳部分を指にひっかけてクルンと回してパンチの補助に使いつつ敵の刃物を受け止め肘撃ちを強化して使うなどなど素手を補強し多彩な用法ができる空手キラー装備がサイだ。
つまり、防具稽古で再現できる技がほぼない。
にしたってこれは無いだろ。
センセの道場にて筆者は思う。
二メートル近い薙刀
VS
短い竹刀二本。良くて40センチサイズ
ファイ!
いや、素手で武器を倒す空手(の補助武器もしくは対抗武器)とポールアームでは用法違うから!
まず届かん。
遠くから刃が飛んでくる。
というか返しの石突がクルンと喉元にすっ飛んでくる。
左右から『薙ぎ払え!』『ふはは。人がゴミのようだ!』を実践される。
脛に向かってズパンと入る。転ばされる。
これに近づけって言うんかい。
活動報告返信によると『熱笑!花沢高校!』なる番長マンガのラスボスは薙刀でダンプカーを真っ二つにし、しかし最後は主人公の操る超合金の二刀流トンファー術の前に敗北したらしい。流石に長刀もったからってダンプカーと戦えるわけではないが、にしても不利以外の何物でもない。映画版『るろうに剣心』では小太刀二刀にトンファーで立ち向かっている描写があるが、両方『格闘技』がベースである。トンファーとサイとの違いはあれど要はほぼ同じだ。
繰り返すが、用法が違うのだ!
素手の延長具とポールアーム一緒にすんなボケェ!!
これがサイならまだ用法も広がるが筆者が持つのは普通の短二刀である。
まだ剣道で使う打ち込み棒(※50センチ前後で打ち込みを受け止めるため幅広の皮が張っている上、持ち手が長く、持ってみるとなかなか具合がいい)ならもう少し長くなって使いやすいのだが、宮本武蔵なら『は? あるもので頑張れや』と言い出すであろう。
脛狙いを踏み越えて胸元に飛んでくる石突をまだ初動で力が入っていないうちに片腕で制して遠突きをブチ込む筆者。これが殺陣ならば脇や関節を狙ってひねりを加えて関節技気味になるのだろうがこれはあくまで防具稽古であり、そのような真似をすれば筆者友人Sが喜んで狩りに来る。
本来の剣道では補助に持つ左手小太刀の攻撃は基本無効でポイントにならないのだがセンセが審判ならば関係ない。
Sなど武器をからめとったら膝相撲で決着をつけていた。
かように酒の抜けていないSに近づくのは危険である。薙刀をもって遠くから遠慮がちに攻めようものなら逆鱗に触れてボコられる。
さて、遠突きをブチ込んだは良いがこちらの動きも止まるので自分もまた危ない。
そのまま剣道体当たりしたりさっと引いて防御の構えにしつつ反対の剣で牽制したり上や下、脛などに仕掛ける。同時に防御もすれば同時に多面攻撃も仕掛ける。
基本薙刀という武器は強いが使いこなせる生徒さんもまた少ない。
いや、高校の薙刀部とかは初心者から始めても漫画『あさひなぐ』のように全国大会に出れるようになるらしく、おそらく恐ろしく強いのだろうが、基本ここの生徒さんは趣味で始めたおじさんたちなのでどうしても柔軟性が無い。慣れれば剣道でも相応に対処できる。
でも筆者が持っているのは短二刀である。
サイなら使える技の数々はほとんど使えない。
筆者が得意とする握りでぶん殴る外法もほとんど意味がない。
やっぱざっけんな。
一度筆者は剣道面をかぶってサイで軽く殴られて見たことがある。
めっちゃ痛いというか鉄の棒でぶん殴られると死ぬので真似してはいけない。
真似しようもないが。真似をしたいとも思わないだろうが。
あ、ふちの硬いところで受けたから大丈夫。たぶん。
少なくとも短竹刀よりは武器として優れるであろうサイを持っていても薙刀を受けたいとは思わないが、ほとんどの剣道の人が『買っても使わない(※昇段審査では使う)』短竹刀をメインウエポン、しかも二本とか酔狂に過ぎる。日本国内では筆者たちだけではないだろうか。
が。
どっこい……これが現実……現実なのです!
剣だと剣先を上に向け、握り手部分を左右に動かすだけで敵の斬撃を左右に逸らして自分の剣先を相手に向けたままにし、フットワークで制して敵の中央(※正中線という)をズッパリ殺れる。
二刀流だと二つの剣先から伸ばした交差線を消したり新たに創造する必要が生じる。
サイの用法ができない武器を、対戦相手の竹刀をことごとく叩き折った知人の友人のように得意武器の技の本質を別武器に応用できる技量があるわけでもない筆者のような下手くそが使うとこうなる。
『剣道っぽい素人のボクシングみたいなナニか』
強いはずがない。




