ストーカーVS判例研究サークル
三限目英語の講義。僕はこの講義が嫌いである。理由は簡単つまらないから。大学の英語は何故か知らないけどレベルが落ちる。大学受験の英語の方が何倍も難しい。故に何も学ぶことがないのだ。ただひたすら話を聞いてたまに配られる課題をやるだけ。金払う価値ないよこの講義。でも卒業には必要というなんともめんどくさい話だ。3回になれば英語も無くなるんだけどな。
前で老婆がなんか説明してるけどなんにも頭に入って来ない。部長と佐原さん大丈夫かな。
今頃帰ってる頃だと思うけど。
ブルブルとポケットに入れていた携帯が振動した。
僕は慌てて携帯を見るとそこには
『やばい』
と書かれたメッセージが部長から届いていた。
「すみません!腹痛いんでトイレ行ってきます!」
僕は勢いよく講義室を飛び出し部長の位置情報を確認する。冷静さを失いつつある頭を無理やり抑え込み部長達の状況を考える。いくら相手が男で空手を齧ってたとしてもあの部長が簡単にやられるとは到底思えない。恐らく相手は複数人。そう考えておくのが妥当だ。それに昼間から行動を起こすなんて大胆な奴らだ。恐らく倉庫かなんかまで連れ込んでいるんだろう。早くしないと取り返しがつかなくなる。
部長の位置情報を確認すると帰り道とは外れた場所にいることがわかった。ここからだと走って10分ぐらいか。頼む間に合ってくれ。
「舐めたマネしやがって」
佐原さんだけじゃなく部長にまで。タダでは済ませない。
10分程走って俺は人気の少ない倉庫の前にたどり着いた。
「ほら写真撮影だ!隠してんじゃねぇ!」
「おい早くヤラせろや!」
「俺はこっちの大人びな姉ちゃんにするぜ!」
中から気持ち悪い声が聞こえてくる。声から推測するに3人。中尾の野郎やっぱり仲間を呼んでいたか。
扉を開けるとそこにはほぼ全裸にされ、必死に恥部を隠そうとする佐原さんと何ヶ所か殴られ意識が朦朧としている部長がいた。
「なんだてめぇ?」
なんだてめぇ?だと。それはこっちのセリフだ。こんなことされて黙ってられるか。
「ストーカー、監禁、レイプ未遂、暴行、お前らいくつ罪を重ねるんだ?」
「罪だと?そんなもん知ったことか!お前をボコボコにした後こいつらめちゃくちゃに犯してやるよ!さらに罪が増えちまうなぁ??」
ボコる?俺を?何言ってるんだこいつ。
「お前らみたいなクズは法で裁くだけなんて生ぬるい」
「おいお前らさっさと潰すぞ!」
1人が突っ込んでくる。来るなら一斉来いよ。突っ込んできた奴に蹴りをかます。
「グハッ」
肋は二本は折れたかな。だが足りない。佐原さんと部長にしたことこんなことでは許されない。
「おい何やってんださっさとやれ!」
肋折れてんだ常人なら痛くて動けないだろ。馬鹿かこいつ。
1人が一瞬で潰されて呆気に取られているうちにもう1人の顔面に拳を振るう。
グチャと鈍い音がした。鼻が折れたか。
「グァァ鼻が…」
ただの身体的な痛みで苦しみすぎだろ。お前らがしたことは一生消えない傷になるかもしれないんだぞ。
「さっさとお前もかかって来い。時間の無駄だ」
「おいお前ら何寝てんだ!2人がかりでやれば一瞬だろ!」
さっきの見てもまだ実力差が分からないのか。
だがやられた2人も意地なのか立ち上がってくる。
「死ねや!」
「このクソガキが!」
2人が一斉にかかってくる。だがさっきのダメージで動きが相当鈍い。そんなんで何ができるんだ。こんなやつらさっさと終わらせるか。
同時に突っ込んできた2人の顔面を手で鷲掴みし、そのまま地面に後頭部を叩きつける。
ゴッと鈍い音が響く。死なない程度に手加減したんだ。まだ生きてはいるだろう。
「てめぇこれ以上近づいてみろ!この女を殺すぜ」
他のふたりの相手をしているうちに中尾が部長の首を締め上げる。
「さ、佐藤…私のことは構わん…佐原さんを優先しろ…」
意識が朦朧としているであろう部長が掠れた声で俺に伝えてきた。
「勝手に喋ってんじゃねぇ!」
「グッ…」
中尾が部長の首をさらに強く締め上げた。
「俺が守ります部長も佐原さんも」
俺は一瞬で中尾との距離を詰め、腕を掴む。こんなど素人に俺の動きが捉えられるわけが無い。
「その汚い手でこの人に触るんじゃねぇ」
俺は掴んだ中尾の腕を渾身の力で握りつぶす。
「アガ…痛てぇ!」
中尾が部長の首から腕を離す。その隙を俺は逃さない。鳩尾に拳を叩き込む。
「~〜〜〜!!!」
声にならない声で叫びをあげる。上手く息が吸えないんだろうな。さらに俺は中尾の足を払い地面に倒す。馬乗りになり顔面に拳を振り下ろした。
「お前がしたことはこの程度では許されない。何度でもお前の顔面に拳をおろす」
意識が無くならない絶妙の加減で右左と拳をおろす。
もう何発殴っただろうか。中尾が言葉を発する
「す、すみ…ません…許して…下さい…」
こいつは何を言ってるんだろうな。自分から仕掛けておいて適わないと思ったらすみませんだと?
「俺が許すとでも思っているのか?俺はこのままお前を殴り殺して殺人犯になっても構わない」
「ひ、ひぃ」
なんて情けない声だ。耳障りだ。このまま眠れ。最後に殺すための拳を振り下ろす。
「もう十分よ佐藤…」
中尾の顔面に到達する前に部長が俺の手を止めた。
そこでようやく僕は正気を取り戻した。
「部長!大丈夫ですか?!」
「ああ、私は問題ない。こんな奴のためにお前の手を汚す必要は無い」
「すみません。僕またやってしまいました」
過去の過ちをまた繰り返してしまった。
「いや感謝している。お前が居なきゃ私も佐原さんも今頃レイプされていたであろう。お前は立派にやってくれたよ」
同じ過ちを繰り返した僕に部長が優しい言葉をかける。
「とりあえず警察に通報だ。ここまでやってくれたんだ。警察もすぐ動くさ」
部長が警察を呼ぶ。僕はその間に佐原さんに上着を渡さないと。
「佐原さんごめんね。すぐ助けに来られなくて」
上着を渡すため近づこうとしたが佐原さんは怯えて後ずさりをする。
あ、そっか今僕あいつらの返り血で血まみれなのか。佐原さんからしたら相当怖いだろうな。
「ごめん。さっきまで正気を失ってた。怖がらせてごめんね」
いつも通りの声で佐原さんに声をかける。
「先…輩…怖かった!怖かったです…!」
佐原さんが僕の胸に抱きついてきた。
「ちょ、佐原さん!血ついちゃうよ!」
そんな言葉に耳を貸さずただひたすらに泣いている。怖い思いをさせてしまった。本当に申し訳ない。最初から警察に頼っていればもっと簡単に解決していたかもしれないのに。
「佐原さんすまない。私が軽率な行動をとったせいでこんな目に合わせて」
警察に連絡し終わった部長も声をかける。この人さっきまであんな状況だったのによく毅然と振る舞えるな。並の精神力じゃない。
「ヒクッ…私の方こそ…ごめんなさい…」
泣きながら謝る佐原さん。悪いのはストーカーであって佐原さんじゃないけど、今言っても意味ないんだろな。
五分ぐらいして警察が到着した。
「大丈夫ですか?!」
複数の警察が一斉に倉庫に入ってくる。
これでひとまず安心だな。佐原さんと部長は無事保護された。僕は正当防衛となるか過剰防衛となるか。まぁ部長に任せとけばいいか。
「今日も判例研究していくぞ!」
事件から数日後。再びサークル活動が再開した。あの後部長の手助けもあり、僕の行動は正当防衛となった。佐原さんの方もあれ以来ストーカー被害がなくなり安心しているようだ。
「部長。今日も僕達しかいません」
まぁあんな事件があってもここは変わらないよな。部長が居場所を作ってくれている。
本当にこの部長には感謝しかない。
「ふふん。驚くな佐藤なんと新入部員が今日来ている」
「また物好きなやつですね。こんなサークルに入ろうだなんて」
「さあ入ってくれたまへ!」
なんでそんな喋り方なんだよ。
ガチャと扉が開き新入部員が入ってくる。
「あのこのサークルに入る物好きです。今日からよろしくお願いします」
「え?なんで佐原さん?佐原さんて文学部だよね?」
「はい。でも今回の件で法律に興味が湧いちゃって!ちょっとでも詳しくなれたらと思って花恋さんにお願いしたら入れて貰えました!」
え、佐原さんどうしたのそのテンション。ギャップありすぎだろ。ていうか花恋さんていつの間に親しくなったんだ。羨ましい。
「私はこの後用事がある。少し席を外すがちゃんと判例を読んどくように」
いや唐突に2人きりにしないでよ。まだ僕は佐原さんとそんなに仲良くないんだ。
「あの…佐藤先輩この間はありがとうございました!」
勢いよく頭を下げる佐原さん。机に頭ぶつかりそうだなおい。
「気にしなくていいよ。僕もらしくない所見せてごめんね」
あの時は部長が傷つけられて理性飛んでしまったからなぁ。あんな姿見せて良くまだ僕と関わってくれるよ。
「いえ、すごく…かっこよかったです…」
顔赤らめて言われても…ただ単にキレて周りが見れてなかっただけだし。しかもキレて周り見れなくなるとか厨二じゃん。恥ずかしい。
「完全に惚れてしまいました…」
「ん?なんか言った?」
「い、いえ!これからもよろしくお願いします」
「こちらこそよろしくね」
これで部長の相手をするのも減りそうだしめでたしめでたしだな。
とりあえず勢いで書きました。また書きたくなったら気ままに投稿します